このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
付加フィルターとは、低エネルギーX線をカットして線質を硬くする目的で使用される薄い金属のことです。低エネルギーX線は、検出器に到達するまでに減衰してしまいます。なので、被ばくには大きく影響する一方で、画質には寄与しづらいという特徴があります。このため、付加フィルターを用いて低エネルギーX線をカットすることで「画質に寄与するX線の比率を高めることができる」ともいえます。
被ばく量変化のイメージ
付加フィルターの2つの目的。
付加フィルターを使用する目的は大きく2つに分けられます。1つ目は「画質向上」です。2つ目は「被ばく低減」です。前者は、付加フィルターを使用しつつX線の出力をアップさせるという使い方。こうすることで、同じ被ばく量であっても検出器へ到達する線量が増えることから画質が向上するわけです。後者では、X線の出力を維持したまま付加フィルターを使用することで、被ばく量の低減が期待できます。ただしこの場合、画像に寄与するX線も一部カットされてしまうので、画質が若干落ちてしまうことも併せて留意しましょう。
大出力で厚いフィルター…これが理想?
「X線の出力を大幅に上げると同時に付加フィルターをかなり厚くして低減効果を高めれば、画質を大幅に向上させながら被ばく量も低減できるのでは…?」
みなさんならこんな考えが浮かんだかもしれません。結論としては、そのとおりです。注意点を挙げると、「X線の出力を大幅に上げる」といっても線量率には「制限(上限)」が存在します。さらに透視のように連続して使用するシステムでは、X線管に大きな負荷がかかることからオーバーヒートの懸念もあります。
例えば、一般的な透視システムの高電圧発生装置やX線管装置の入出力は50kW前後で熱容量は600kHU前後のものが多いです。X線条件の上限というのは、高電圧発生装置とX線管装置の入出力の数値が小さい方に依存するといわれています。つまり、X線管装置の熱容量次第でその出力をどれくらい継続して使用できるかが決まるというわけです。これがアンギオシステムになると、高電圧発生装置の出力やX線管装置の入力が100kW以上、X線管装置の熱容量が3MHU以上等の仕様になることも多くなってきます。
高電圧発生装置の最大電力やX線管装置の熱容量だけをみると、検診用途の透視システム、一般的な透視システム、アンギオシステムの順番にX線出力が大きくなりますね。であれば、被ばく量もその順番に差がありそうな気がします。しかし、実際はそうでもありません。
というのも透視線量には、IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)および JIS (Japanese Industrial Standards:日本産業規格)によって、50mGy/minまたは125mGy/minという「線量率の上限」が設けられているからです。各システムがこの上限を超えないように設計されているので、「出力が大きい分だけ被ばくが多い」という関係にはないのです。そこで登場するのが「付加フィルター」です。
出力の小さい透視システムを除いて、一般的な透視システムでは付加フィルターが標準装備されていることが多いと思います。システムの分類が異なるアンギオシステムになると、この付加フィルターはかなり厚くなります。大出力のX線を使用すればするほど、厚い付加フィルターで画質を向上して被ばく量を低減しているといえるでしょう。
検診用途の透視システム | 一般的な透視システム | アンギオシステム | |
---|---|---|---|
一般的名称 | 据置型デジタル式 汎用X線透視診断装置 |
据置型デジタル式 汎用X線透視診断装置 |
据置型デジタル式 循環器用X線透視診断装置 |
JMDNコード (分類) |
37679010 | 37679010 | 37623000 |
X線出力 | 小 | 中 | 大 |
付加フィルター | 無い/薄い | 薄い | 厚い |
線量率の上限 | 50mGy/minまたは125mGy/min |
被ばく低減のための付加フィルター。
付加フィルターを使用する目的は、大きく2つに分けられるとお話ししました。前者の目的である「画質向上」としては、各システムの開発時点で概ね検討されていることかもしれません。一方で私たち診療放射線技師としては、後者の「被ばく低減」をより意識する必要がありそうです。
みなさんの中にも「画質には問題のない範囲で、被ばく量を最小限に抑えるためにできるだけ厚いフィルターを選ぼうかな」と考えられた方も多いのではないでしょうか。その認識のもとで「とにかく被ばくを抑えるために厚いフィルターにする」、「上下に調整幅を持たせるために中間の厚みのフィルターを選ぶ」、「まず一番薄いフィルターを選択して、可能であれば厚くしていく」など使い方を工夫してもいいですね。
最後に、私が恩師から教わったことをお伝えします。それは、『被ばく低減の本質は、「絶対値を下げること」』です。みなさんならお気づきですね。ポイントは、「低減率」ではなく「絶対値」です。
今日は付加フィルターの切り替えによる被ばく量の低減効果について考えました。システムごとに違いはあるものの、概ね数十%の低減につながる可能性があることや、低減効果と画質の変化を鑑みて適切な付加フィルターを選択するのがよい、ということを再確認しました。
ただし、ここに落とし穴があるんです。これはあくまで「低減効果」であって、「ベースとなる出力量がどの程度になっているか?」というのは、まったく別の話なのです。商品の仕様の範囲内でベースとなる出力量をどの程度にするか?というのは各メーカーの自由です。なので、システムごとあるいは設定ごとに異なる点は覚えておきたいですね。
被ばく量は「X線の出力量と付加フィルターの材質や厚みの組み合わせ」で決まってくるものです。この前提を踏まえて「絶対値」を注視しながら、ひとつのツールとして付加フィルターを活用してみてはいかがでしょうか?