このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
「絞りによる線量低減が重要なのはわかっている。だから有効に使いたい。でも、絞りたくないところまで絞りが入ってしまうと困る。なのであまり積極的には使えていない・・・」
このようなお話をよく聞くことがあります。みなさんにもお心当たりがあるのではないでしょうか?そこで今回は「絞り」について考えてみます。
絞りたい。でも絞れない・・・
まず、絞りが機能として必要である理由を少し分解してみたいと思います。今回の例でポイントになるのは次の2つです。
1. 絞りを使う理由
画像化する必要がない領域へのX線照射を避けて無効被ばくを低減できるから。
2. 絞りを使いたくても積極的に絞れない理由
不本意にも絞りたくない領域まで絞りが入ってしまうことがあるから。
絞りを使わないという選択肢は?
では、それぞれの理由に対して「絞りを使わない方法」があるか考えてみましょう!
1点目の絞りを使用する主な理由は「画像化する必要がない領域へのX線照射を避けて無効被ばくを低減できるから」でした。となると、「絞りを使わずとも不要な領域へのX線照射を回避できれば、そもそも絞りを使う必要がなくなる」ともいえますね。
これは「透視システムが視野をいろんな形状やサイズに切り替えられると解決できる」と言い換えられるかもしれません。ただ、視野形状や視野サイズにたくさんの選択肢を設けるとコントローラー回りが複雑になったり、ココゾというときに使いづらくなったりするでしょう。こういう観点からこれらは現実的な解決策とは言い難いと思います。
現状を見てみると、どのシステムでもI.I.(Image Intensifier)のような円形やFPD(Flat Panel Detector)のような正方形(または分割撮影用の長方形)などの視野形状と数パターンの視野サイズを選択できる性能をおおむね搭載しています。そこから先は、ユーザーが絞りを用いて自由に微調整できるという思想のもと商品化されているのだと思います。
とはいっても、円形視野や正方形視野だけでは「不必要な領域へのX線照射を避けられない」こともありますね。だからこそ、昔から絞りが当たり前のように存在して、今もなお有効な手段として使われ続けているのだと思います。絞りに代わる技術を搭載するというのは難しそうなので、あらためて「絞りは必須」と言えそうです。
I.I.とFPDの視野形状のイメージ
根本原因はなに?これがシンプルな解決策。
次に2点目の「不本意にも絞りたくない領域まで絞りが入ってしまうことがあるから」という理由について考えてみます。この理由を掘り下げてみると背景には次の2つの根本原因が見えてくると思います。
根本原因その1:絞りは、上下左右の合計4枚の羽根(4辺)から構成されている。
絞りを使用したときの視野は、基本的に「四角形」になります。この形状がより複雑化すれば、より細かい絞り操作ができ、絞りたいところと絞りたくないところを切り分けしやすくなりますね。敢えて欠点を挙げると、「複雑化すればするほど使い勝手が悪くなる」ともいえるでしょう。
根本原因その2:絞りの羽根は、上下2枚の羽根(縦2辺)と左右2枚の羽根(横2辺)が連動する。
向かい合う羽根が連動してしまうので絞りを使いたくても積極的に絞れないという現象。これは主に「視野がテーブルの端にある場合」が考えられます。例えば、シャント造影のように観察対象がテーブルの手前側にあったり、泌尿器科の検査のように観察対象がテーブルの左端や右端にあったりするときに起こり得るでしょう。
連動絞りを使用した際に起こり得る現象の例
上下の羽根が連動することで関心領域である膀胱が欠けてしまっている。
左右の羽根が連動することで関心領域である前腕に絞りが重なってしまっている。
このようなケースで不必要な領域に絞りを入れるとどうなるでしょうか?結果、向かい合う2辺の羽根が連動してしまい、大事な観察部位にも絞りがかかってしまうという現象が起こるでしょう。これが「絞りを使用したくても積極的に絞れない」という原因であり、解決すべき課題といえますね。
これを解消する方法はいたってシンプルです。それは「各辺を独立して動作できるようにする」です。デメリットを挙げるならば、操作が多少増えるという点だけでしょうか。
各辺独立絞りを使用したときの例
関心領域を妨げずに上の羽根だけを絞ることができる。
関心領域を妨げずに上の羽根だけを絞ることができる。
絞りは絞りでも、4辺独立であるべし。
ここまでの考察を振り返ると、次の2点がみなさんとの共通認識だと思います。
- 画像化する必要がない領域へのX線照射を避けて無効被ばくを低減するには、絞り以外の効果的な手段は現時点で存在しない。
- 絞りをより有効活用するうえで、絞りたくない領域まで絞りが入ってしまう欠点を改善する必要がある。その方法には、絞りの形状の複雑化または各辺の独立動作が考えられる。
現実的な路線として、「各辺が独立動作する絞り」を搭載した透視システムが近年増えてきています。ここまで議論した内容を踏まえて考えてみても、この「4辺独立コリメーター」は無効被ばく低減と使い勝手のバランスが取れた最適解だと思います。
画質向上と被ばく低減を両立させよう!
一般的にイメージされがちな「被ばく低減=画質低下」。ですが絞りに関わる技術を有効活用した小さな被ばく低減を積み重ねることの重要性は今後どんどん増えていくでしょう。なぜなら、絞り関連の技術による被ばく低減というのは、「画質への悪影響がない」もしくは「画質がむしろ向上することが期待できる」からです。これは別セッションでも取りあげた「バーチャルコリメーション」でもいえることですね。
視野の形状が固定されてしまうシステム。向かい合う羽根が連動するコリメーター。これらと比較して、「4辺独立コリメーター」の絞りの自由度は段違いです。今使用しているシステムや今後導入を検討される透視システムにこの性能が備わっているかぜひ確認してみてください!もし使える環境にあるのであれば、これからは「4辺独立コリメーター」を積極的に活用してみてはいかがでしょうか?
不要な箇所だけ絞って、着実に被ばく低減!