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炎症マーカー先進国

みなさんは日本が獣医療における炎症マーカーの先進国であることをご存じでしょうか?
獣医療全体でみれば、最先端はやはりアメリカだろうと思います。研究・開発の規模が違いますし、電子カルテ等で情報を収集するシステムも整っています。しかし、こと炎症マーカーという項目に限定してみれば、日本は世界のどこよりも広く普及していると思います。
何年か前のある学会で、アメリカの臨床病理学の大家の先生が講演をされていました。主題は炎症時の血液塗抹の観察と白血球の変化だったと思いますが、その中でCRPについて言及していました。炎症時にはCRPが顕著に上昇するのですごく良いツールだとか、そういう内容だったと思います。白血球の話は「ふんふん、なるほど」と聞いていましたが、CRPに関しては正直何を今さらと思ってしまいました。しかし、アメリカでの普及度はそんなものだったのです。
一方の日本では、犬のCRPの測定はもちろん、猫のSAA(Serum Amyloid A)の測定も相当普及しています。そしてそれは、院内で測定できるようになったことが非常に大きいだろうと私は考えています。犬のCRPについてはかなり早い段階で院内測定可能な機器が市販されましたし、汎用の生化学装置で測定できるようになってからはさらに普及が加速したように思います。猫のSAAは長らく外注検査としてしか測定できませんでしたが、犬のCRPが普及していたおかげで普及するための土壌はありました。
どうしても院内で測りたい!
大学院の終わりごろから徐々に「猫のSAAの人」として認知されるようになっていた私は、原稿をいただいたSAAの有用性をアピールすることが多かったと思います。前述のように日本の獣医師の皆さんは炎症マーカーの有用性をよくご存じなので、当時の私のような若輩者のセミナーにもたくさんの方が足を運んでくださいました。そしてありがたいことに熱心に聞いていただけるのですが、必ず言われることが「院内では測定できないの?」でした。
私の場合、大学院時代は研究も兼ねて自分で測定することができましたし、その後大学に教員として就職してからも、ブランチラボでSAAをその場で測定してもらうことができました。そのため、診断時やその後のモニタリングにSAAを活かすことが可能でした。炎症マーカーが強みを発揮するのは、なんと言ってもその場その場での状況判断です。入院させるべきか、今すぐ治療を始めるべきかを判断する材料として、有益な情報を与えます。しかし、タイムラグがあるとどうしても有用性は落ちてしまいます。
自分は猫のSAAを即時測定できる環境にいるので有用性を実感できるし、それをセミナー等で紹介するけれども、当時一般的にはまだ院内では測定できませんでした。外注検査では、どんなに急いでも数時間~数日のタイムラグがあるため、SAAの有用性を感じづらくなります。自分は実際に使用して有用だと思うし、活用できているのに、セミナーに来てくれた先生方にはそれを実感してもらえない。このことには長い間苦しめられました。しかし、私は技術者ではないので、その問題を自分で解決することはできないのです。
これについては、メーカーの方が頑張って開発を続けてくださいました。そして、日本国内では2019年ごろから、ようやく猫のSAAを院内で測定できるようになりました。原稿やセミナーでたびたびアピールする機会を与えていただいており、私以外にも複数の先生が有用性を紹介してくださっていたこともあり、院内測定が可能になって以降は加速度的に普及したと感じています。猫SAAの測定・普及を推進していた私にとっては、非常に感慨深い状況です。

ただ、普及したからこそ「猫SAAを測定してみたけど想定と違う」などの困惑する声も聞こえてきます。次回コラムでは、そのあたりの率直なところを書いてみたいと思います。
記事の執筆担当

玉本 隆司 獣医師、獣医学博士
2002年 東京大学入学
2005年より獣医内科学研究室に所属し、辻本先生、大野先生、松木先生らの薫陶を受ける。
2008年に大学卒業後、埼玉の動物病院で2年間一次診療に従事。
2010年に東京大学大学院農学生命科学研究科に進学。獣医内科学研究室で研究に励む傍ら、附属動物医療センターでの診療にも従事する。
2014年に酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニットに助教として赴任。附属動物医療センターでの内科診療を担う。2016年より同講師、2019年より同准教授。2017年より内科診療科長、2020年副センター長。
2021年に大学を退職し、富士フイルムVETシステムズ株式会社に入社。
2024年逝去。生前、多くの功績を残し、業界内外から高く評価される。
大学時代の主要な研究テーマは「炎症マーカーの臨床活用」で、特に猫の炎症マーカーであるSAAの臨床応用や基礎研究を精力的に行った。
診療については「専門性がないのが専門」と言いながら、内科全般をオールラウンドにこなし、その中でも免疫介在性疾患や感染症に強い関心を持っていた。
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