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動物医療コラム

猫SAAとは?:猫の炎症マーカー血清アミロイドA
(Serum Amyloid A; SAA)

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

掲載記事は掲載日時点の情報であり、記事の内容などは最新の情報とは異なる場合があります。

血清アミロイドA(Serum Amyloid A; SAA)とは?

血清アミロイドA(SAA)とは、AAアミロイドーシスにおいて沈着するアミロイド線維の血中前駆物質であり、通常は血清中でHDL分画に存在します。平常時にはその血中濃度は非常に低く保たれていますが、炎症性の刺激が加わると数百倍からときに数千倍まで上昇します。産生を刺激するのはIL-1やIL-6、TNF-αといった炎症性サイトカインであり、それらの刺激によって主に肝臓で産生されます。炎症反応によって急激に血中濃度が増加することから正の急性相タンパク質(Acute Phase Protein; APP)と呼ばれており、特にその濃度変化が著しいことから、主要な(Major)急性相タンパク質の一つとされています。

人や犬では、SAAと同様の主要な急性相タンパク質の一つであるC反応性タンパク質(CRP)が、その性質から炎症マーカーとして広く臨床応用されています。しかし、先行研究において猫ではCRPが犬のようには変動しないことが報告されており、そのため代わりとなる炎症マーカーとして、近い性質をもつSAAが注目されるようになりました。

猫SAAはどのように変動する?高値のときは?

健康な猫の血中SAA濃度は非常に低く、ほとんど検出されないレベルです。具体的な数値については測定に使用した機器や試薬によって異なりますので、それぞれの添付文書等をご確認ください。炎症性の刺激が加わると、6~8時間以内に血中濃度の上昇が認められるとされています。刺激後24~48時間でピークに到達し、炎症が持続したり新たな刺激が加わったりしない限りはその後減少していきます。例えば避妊手術のような一過性の刺激では、術後4日程度で基準範囲内に戻るとされています。

避妊手術前後でのSAAの推移

炎症性の刺激が加わると、6~8時間以内に血中濃度の上昇が認められるとさ、刺激後24~48時間でピークに到達し、炎症が持続したり新たな刺激が加わったりしない限りはその後減少。避妊手術のような一過性の刺激では、術後4日程度で基準範囲内に戻ることを示すグラフ。
  • 健康な猫3頭に避妊手術を実施
  • 手術前後の血清を採取し、血清中濃度を比較

 

  • Tamamoto et al. J Vet Med Sci (2008)

猫SAAの半減期について詳細に評価した研究はなく、正確な半減期は明らかになっていません。ただ、先ほどの避妊手術の例で考えると、術後48時間時点でピークに到達した血中濃度が4日後(96時間後)には基準範囲内まで低下することから、半減期は12時間かそれより短い可能性が考えられます。

SAAが高値であった場合、体内に何らかの炎症反応が存在することは示唆されますが、炎症部位や疾患の種類を特定することはできません。SAAのみで特定の疾患を診断することはできず、あくまでもほかの血液検査(CBCや生化学、内分泌検査など)や画像検査所見と併せて総合的に判断することが求められます。

猫SAAの数値と疾患の関連

疾患時の猫SAAの挙動についてはいくつかの報告があり、特に一次診療施設での報告は実態をよく反映しているだろうと思われます。いくつかの疾患については上昇しやすい傾向がわかっており、診断に近づくヒントになるかもしれません。一方で、炎症を伴う疾患であっても上昇しづらかったり、上昇の程度にばらつきがある場合があることもわかっています。さらに、一般的には非炎症性と考えられる疾患でも上昇する場合があることも報告されており、その判断には注意が必要です。

上昇しやすい疾患上昇にばらつきのある疾患非炎症性だが上昇する場合があると報告された疾患
  • 上部気道感染症
  • 肺炎
  • 子宮蓄膿症
  • 猫伝染性腹膜炎(FIP)
  • 外傷
  • 歯肉炎
  • 胃腸炎
  • 肝炎/胆管炎
  • 膵炎
  • 下部尿路疾患
  • 腫瘍(固形腫瘍およびリンパ腫)
  • 慢性腎臓病
  • 糖尿病(糖尿病性ケトアシドーシス)
  • 甲状腺機能亢進症

 

猫SAAの臨床応用(診断)

前述したように、猫SAAはそれ単独で診断できるツールではありません。そのため、猫の症状やその他の検査所見から病変部位がある程度類推できる場合には、その検査を優先することが推奨され、必ずしもSAAの測定は必要ではありません。しかし、症状があいまいであったり、病変部位の絞り込みが難しい症例では、スクリーニング検査にSAAを追加することでその後の検査の進め方が容易になる場合があります。

膵炎の診断については、近年膵特異的リパーゼをはじめとする膵酵素の測定が広く利用されていますが、それらは猫に多いとされている慢性膵炎でも上昇する場合があります。そこに炎症マーカーとしてのSAAを組み合わせることで、臨床的により重要度の高い急性膵炎の診断に役立つ可能性があります。

FIPについては、ヨーロッパを中心として診断補助にα1酸性糖タンパク質(AGP)の測定が有用とされ、普及しています。α1AGPも急性相タンパク質の一種であり、FIPにおけるSAAの診断価値はα1AGPとそれほど大きな差はありません。SAAであれば院内で迅速に測定できるメリットもありますので、FIPの診断補助に有用であると考えられます。

猫SAAの臨床応用(モニタリング)

SAAは炎症反応に応じて迅速かつダイナミックに変動します。その変動を数値として客観的に評価できることもあり、病勢のモニタリングに非常に有用です。SAAを経時的に測定することで治療効果の判定や、再発の早期発見につなげることができます。

1. FIPのモニタリング

以前はFIPは極めて致死率が高く、治療の困難な疾患でした。しかし、近年になって有効な抗ウイルス薬の候補がいくつか示され、それによって寛解した例も多数報告されています。治療薬の選択や投薬量、投薬期間などまだまだ議論の余地はありますが、これまでのような不治の病ではなくなりつつあります。その治療や再発のモニタリングにSAAの測定が有用と考えられます。猫の症状と併せてSAAをモニタリングすることで、治療が奏功しているかを確認し、休薬のタイミングを図ることができるようになると期待されます。

2. 急性膵炎の治療評価

犬と比べて猫の急性膵炎は症状があいまいであるとされています。食欲低下は一般的に認められる症状ですが、猫の場合状態が改善しても入院下ではなかなか食事を食べない個体も多く、症状から治療反応性を評価することが困難な場合があります。SAAを測定し、それが下がるかどうかを確認することで、治療反応性を客観的に評価することができます。また、犬の急性膵炎では、治療開始後早期にCRPが低下するかどうかが予後に影響するとの報告があります。猫の報告はありませんが同様である可能性があり、その点においてもSAAを経時的に測定することは重要と考えられます。

3. 手術後のモニタリング

前述のように、避妊手術のようなもともと健康な個体に対して行う手術では、術後4日程度で血中SAA濃度は基準範囲内まで低下します。逆に言えば、その時期にSAA濃度が低下していないということは、感染など炎症反応を引き起こす要因があるということなので、注意が必要です。子宮蓄膿症や腫瘍などもともと炎症反応を伴う疾患の手術では血中SAA濃度が低下するまでもう少し長くかかる可能性はありますが、それでも術後数日が経過してSAAが全く下がっていない場合には、感染症や術後合併症を疑う必要があります。

SAAをモニタリングに使用する場合には、治療開始前の値を把握しておくことが重要です。SAAは診断のためには必ずしも測定する必要はありませんが、その後のモニタリングに使おうと考えているのであれば、必ず治療を始める前にSAAを測定してください。

猫SAAの臨床応用(予後評価)

二次診療施設で実施された調査では、治療開始前にSAAが高値であった猫の群は低値であった群と比較して有意に生存期間の中央値が短いことが報告されています。一方で、一次診療施設での調査では差がなかったと報告されています。二次診療施設では来院前に治療を受けている例が多いと予想され、それが結果に影響した可能性が考えられます。これらの結果から考えると、ある程度治療したにも関わらずSAAが下がらない場合には予後に影響するのかもしれません。この情報は、治療中のインフォームドコンセントにも重要であると考えられます。

記事の執筆担当

執筆者イメージ

玉本 隆司 獣医師、獣医学博士 

2002年 東京大学入学 
2005年より獣医内科学研究室に所属し、辻本先生、大野先生、松木先生らの薫陶を受ける。 
2008年に大学卒業後、埼玉の動物病院で2年間一次診療に従事。 
2010年に東京大学大学院農学生命科学研究科に進学。獣医内科学研究室で研究に励む傍ら、附属動物医療センターでの診療にも従事する。 
2014年に酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニットに助教として赴任。附属動物医療センターでの内科診療を担う。2016年より同講師、2019年より同准教授。2017年より内科診療科長、2020年副センター長。 
2021年に大学を退職し、富士フイルムVETシステムズ株式会社に入社。 
2024年逝去。生前、多くの功績を残し、業界内外から高く評価される。

大学時代の主要な研究テーマは「炎症マーカーの臨床活用」で、特に猫の炎症マーカーであるSAAの臨床応用や基礎研究を精力的に行った。 
診療については「専門性がないのが専門」と言いながら、内科全般をオールラウンドにこなし、その中でも免疫介在性疾患や感染症に強い関心を持っていた。

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