このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。
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はじめに
カットオフ値はその名前の通り、異常があるかないかを「切り分ける」ための値です。あるいは、検査の陽性と陰性を分ける境界となる値、と言うこともできます。
カットオフ値を上回っている(あるいは下回っている)場合に「検査で陽性である」と判定され、特定の疾患である可能性が高いと判断されます。
一方で、健康診断などで基準範囲から外れた結果を見ると、何か病気かな?と疑うのは普通のことだと思います。ここだけ見ると、基準範囲とカットオフ値の違いは分かりにくいかもしれません。

- * このパターンでは目測でもおおよその設定は可能。厳密にはROC曲線などを利用して統計的に決定する
カットオフ値の決め方
カットオフ値は基本的に疾患ごとに決められます。ある疾患に罹患した個体群と罹患していない個体群を集めて、測定結果を比較します。
そして、とりあえずなんでもいいのでカットオフ値をいったん決めてしまいます。「疾患に罹患しており検査陽性群」と「疾患に罹患しておらず検査陰性群」の2群にきれいに分けられるようであれば、それが理想的なカットオフ値になります(感度・特異度ともに100%)。しかし通常は、「疾患に罹患しており検査陽性群」「疾患に罹患しているが検査陰性群」「疾患には罹患していないが検査陽性群」「疾患に罹患しておらず検査陰性群」の4群になってしまいます。この4群で感度と特異度を計算し、感度と特異度が最適となるように統計的な解析を行うことで、最終的なカットオフ値を設定します。ただし、何が最適かは状況によって異なりますので、カットオフ値は一義的に決まるものではありません。

論文などで割とよくあるグラフ
疾患ありと疾患なしの間で有意差(*)があるが、実際に検査として使おうとすると疾患ありと疾患なしの分布の重なりが大きく、カットオフ値の設定が難しい

恣意的に決まるカットオフ値
重要なことは、カットオフ値は目的に応じて恣意的に決めることができるという点です。感度と特異度は基本的にはトレードオフの関係にあり、両立しません。感度を上げようとすると特異度が下がり、特異度を上げようとすると感度が下がるのが普通です。
そのため、感度を重視するのか、あるいは特異度を重視するのかによって、カットオフ値の選び方は変わってきます。


一方で基準範囲は、健康な個体の測定値の分布から、統計的に決められます。分布の約95%が含まれる範囲を自動的に選びますので、そこに意思が介入することはありません。
紛らわしい使い分け
基準範囲は健康であることを前提として決められており、それから外れると「健康ではない≒何らかの病的異常ではないか?」と推測します。そういう意味では、基準範囲の上限や下限は健康と病的異常を分けるカットオフ値であるとみなすことができます。しかし、この場合には健康でない群の値は全く考慮されておらず、上の図でいう特異度が最大になるようにカットオフ値を設定した状態に相当します。そのため、「基準範囲から外れたから何らかの病的異常の可能性がある」とは言えても、「基準範囲内だから健康」とは言えないことに注意が必要です。
また、検査項目によっては、個体差が大きいなどの理由で基準範囲が設定できない場合があり、そのような場合に基準範囲のかわりに特定の疾患に対するカットオフ値が参考値として表記されることがあります。前述のとおり、カットオフ値は特定の疾患について陰性と陽性を分けるだけであり、陰性の場合にその疾患の疑いは低いといえますが、別の疾患については評価できませんし、健康であるかどうかも保証されません。
本来は成り立ちも意味も全く異なるカットオフ値と基準範囲ですが、実際の使用において重なる部分もあり、表記が混在していたりもするため、そういったことが混乱を助長しているのかもしれません。
記事の執筆担当

玉本 隆司 獣医師、獣医学博士
2002年 東京大学入学
2005年より獣医内科学研究室に所属し、辻本先生、大野先生、松木先生らの薫陶を受ける。
2008年に大学卒業後、埼玉の動物病院で2年間一次診療に従事。
2010年に東京大学大学院農学生命科学研究科に進学。獣医内科学研究室で研究に励む傍ら、附属動物医療センターでの診療にも従事する。
2014年に酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニットに助教として赴任。附属動物医療センターでの内科診療を担う。2016年より同講師、2019年より同准教授。2017年より内科診療科長、2020年副センター長。
2021年に大学を退職し、富士フイルムVETシステムズ株式会社に入社。
2024年逝去。生前、多くの功績を残し、業界内外から高く評価される。
大学時代の主要な研究テーマは「炎症マーカーの臨床活用」で、特に猫の炎症マーカーであるSAAの臨床応用や基礎研究を精力的に行った。
診療については「専門性がないのが専門」と言いながら、内科全般をオールラウンドにこなし、その中でも免疫介在性疾患や感染症に強い関心を持っていた。
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