トータルカラーマネジメント技術
近年、さまざまな業務のワークフローは、ディスプレイを中心としたワークフローへと変化しています。例えば、商品開発から販売促進までのワークフローでは扱う情報のデジタル化が進み、プリンターに加えて新たに安価なディスプレイや大型ディスプレイ、プロジェクター、さらにはデジタルサイネージなどRGBデータでハンドリングするデバイスがコミュニケーションツールとなっています。しかし、RGBデータの色再現性はディスプレイによって大きく異なるため、伝えたい情報が正しく伝わらず各ワークフロー間での意思の疎通ができないことがあります。またその結果、色の不整合による修正や設計後の後戻り、さらにはブランド力の低下を招いてしまうことがあります。
例えば、商品をデザインする際、デザイナーがディスプレイ上で作成した色がその商品のオリジナルの色になります。しかし、各デバイスの色特性が異なるため、ディスプレイ上で設計した商品画像を大型ディスプレイに表示する際や、カラープリンターで出力する際にオリジナルと異なった色で商品が表現されてしまいます。これらの問題を避けるため、ワークフローで使用するディスプレイを同じ機種に統一するなどの対策がとられていますが、表示画面サイズが固定されてしまうため現実的ではありません。また、同じ機種であったとしても個体差や製造ロット間差が大きいため効果は十分ではありません。そこで、さまざまなディスプレイ間やディスプレイとプリンター間などの色統一が可能になるトータルカラーマネジメントが必要となります。
既存のディスプレイ色補正技術は、ソフトウェアによる線形マトリクス色変換によるものが多く、ごく一部の特定機種間での色合わせは可能です。しかし、安価なディスプレイや、大型ディスプレイ、プロジェクター等の表示デバイスは、加法混色注1の性能が低い非線形デバイスであるため高精度な色補正ができず、逆に色がずれてしまうこともあります。さらに、ディスプレイの色域注2特性は、プリンターに比べて大きく異なります(図1)。そのため、従来のディスプレイ間の色の差を数値的に小さくする手法では、色域の狭いディスプレイでは階調表示ができなくなってしまい、同じ印象の色再現ができないといった課題がありました(図2)。
そこで、富士フイルムビジネスイノベーションでは「デバイス特性のモデリング」「色域圧縮(Gamut Mapping)」「デバイスマネジメント」の3つの技術を柱とした、多次元ルックアップテーブルによる色補正技術を開発し、さまざまな表示デバイス間の色再現の統一を可能にするトータルカラーマネジメントシステムを開発しました。
図1:印刷とプリンター間、ディスプレイとプロジェクター間の色域差
従来のディスプレイ間の色差を数値的に小さくする方法では、画像データ持つ階調が表示できなくなってしまいます。
図2:従来のディスプレイ間の色差を数値的に小さくする方法における課題例
また、ディスプレイ全体の色空間は白を基準に決定しているため、基準となっている白が合わないと色空間全体の色がずれてしまうといった問題が発生することになり、ディスプレイ間の色合わせでは、白領域の制御が非常に重要になります。
そこで「デバイス特性のモデリング」では、色空間の非線形性の強い領域に着目したモデルを生成することで、印象の統一のために重要となる階調再現性を向上させています。そして「色域圧縮」では、色域が大きく異なるデバイス間でも色の印象が一致するよう、独自のアルゴリズムを用いて変換を行っています。これにより、色味ずれ、黒つぶれ、白とびなどが発生することなく、お客様の業務や要望に合わせた柔軟な色変換を行うことが可能になり、その結果、安価なディスプレイや大型ディスプレイといった全く異なる色特性を持ったデバイス間でも、十分な色再現を実現することが可能となりました(図3)。さらに、さまざまなディスプレイや環境に対応するための「デバイスマネジメント」では、照明などの設置環境や、それぞれのデバイスを詳細に分析した結果から色変換方法を決定します。これによりお客様のワークフロー全体の、さまざまなディスプレイ、プリンター、プロジェクターなどの色再現を統一し、カラー環境の最適化を実現します。
色味ずれ
黒つぶれ
白とび
このように、さまざまな表示デバイスの色一貫性環境を提供することで、色の見え方の違いによる生産性の低下を抑制し、さらにデジタル化促進によるスピーディーな新しいワークフローを実現します。
- 注1 色光の三原色(R:G:B)の混色を利用して色を再現する。
- 注2 デバイスが再現可能な色の範囲