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動物医療コラム

【診断推論について②】
診断推論をマスターする~分析型診断の基本~

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

掲載記事は掲載日時点の情報であり、記事の内容などは最新の情報とは異なる場合があります。

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診断推論について①~③をまとめて、印刷してお手元資料として読みやすくレイアウト整理したPDFファイルをご提供しています。

前回では、診断推論の概論として「直観型」と「分析型」の2つのアプローチ方法を紹介し、両者のハイブリッドが理想的であることを解説しました。今回は、分析に基づく診断として『プロブレムリストから鑑別診断リストの作成』について解説します。見落としのない診療を行うためにも大切なプロセスなので、この考え方をしっかり身につけましょう。

分析型の診断とは?

分析型の診断は、詰将棋のように理詰めで診断名にたどり着く方法です。症状や稟告から問題点を整理し、そこから鑑別診断リストを作成、鑑別診断を進めるために必要な検査を選び、その結果に基づいて診断名を絞り込んでいきます。自分の思考回路がバチっとはまると、直観型とはまた違う快感があります。

プロブレムリストの作成

分析型に限らず、診断のスタートラインはプロブレムリストの作成になります。ご家族の訴える症状のほかに、獣医師が身体検査等で気づいた問題点がプロブレムリストに含まれます。理想的にはすべてのプロブレムに対処できるといいのですが、現実的には困難なため、プロブレムの順位付けが必要になります。一番はやはり主訴でしょう。ここをおろそかにすると、ご家族との信頼関係を損なうからです。ただし、元気がないといったあいまいな主訴の場合はそこから絞り込むことが困難ですので、ご家族の優先度とは別に他の異常や症状を優先することがあります。

プロブレムリストの作成イメージ

鑑別診断リストの作成

プロブレムリストがまとまったら、次は鑑別診断リストの作成です。主だった症状については、あらかじめノートなどにリストを作っておくことをお勧めします。教科書等に記載されているリストはあっさりしすぎていたり、逆に非常にまれな疾患まで細かく記載されていたりするため、自分専用のリストを作る方がいいと思います。この際に、思いつくままランダムに記載してしまうと漏れが多く、また探すのも大変になります。病態や臓器別など、項目に分けて記載していくのがポイントです

鑑別診断リストの作成イメージ

鑑別診断リストの絞り込み

費用面などでご家族を説得できるのであれば、鑑別診断リストを広く網羅できるよう検査を選んだ方が見落としは少なくなります。しかし、実際には様々な制約から鑑別診断に優先順位をつけていく必要があります。どれを優先するかは経験則によるため、経験の浅いうちはなかなか難しいのですが、ある程度のルールや法則はあります。まず、発生頻度の高い疾患(Common)は鑑別の上位になります。また、見落としてはいけない重要な疾患(Critical)も上位で鑑別する必要があります。嘔吐を例に考えると、致死率の高い中毒や急性膵炎などの疾患や、場合によっては緊急手術が必要になる消化管異物などが見落としてはいけない疾患として挙げられます。症例の品種や年齢、性別や経過によっても、優先順位は入れ替わってきます。

鑑別診断リストの絞り込みイメージ

疾患の肯定と除外

疾患の肯定と除外のイメージ

例えば検査の結果、BUNやCreが高値であった場合に、何らかの腎疾患があるという判断を疑う人はほとんどいないでしょう。ただし、「腎疾患がある」ということと、「他の疾患がない」ということはイコールではありません。他の疾患については別の検査に基づいて「~ではない」と否定する、あるいは優先順位を下げる、という作業が必要です。そのうえで、得られた診断名と症状や経過、検査所見を照らし合わせて、矛盾がないか確認してください。何か一致しない点がある場合は、①診断名が誤っている、②何か併存疾患がある、③その両方、を考慮する必要があります。このプロセスがあるため、分析型でしっかり診断すれば併存疾患の見落としは減るはずです。

ストーリーに矛盾はないか?

疾患をいくつか絞り込んで検査を進める場合には、ある程度思い込みや先入観が入ってくるのはやむを得ないと思います。大事なことは、検査結果が出た時点でそれを捨てる(除外する)ことです。検査結果は客観的な事実ですので、測定エラーなどがない限り、予想と異なる検査結果が得られた場合に最もシンプルな原因は「予想が間違っていた」です。ここで最初に想定した疾患に固執すると、それはバイアスとなってのしかかってきます。

余裕があれば空き時間や診察終了後に鑑別診断リストと検査結果を見直し、自身の診断に矛盾や誤りはないか、他の可能性は考えられないかを何度も自問自答してみてください。診察中は絶対に間違いないと思っても、後から見直すと見落としがあったり、何かおかしい点があったりすることはよくあります。何度も考えることを繰り返していくと精度は上がっていき、スピードもアップします。論理的思考は診断学の真髄です。特に経験の浅いうちは、頭がオーバーヒートするまでどんどん考えましょう!

分析に基づく診断のポイント

●主だった症状について鑑別診断リストを作る!
●どの検査で疾患を肯定あるいは除外できるのか
・特に「除外する」意識が重要
・一つ肯定できても立ち止まらない
●仮診断から必ず振り返り
・矛盾なく説明できるストーリーを組み立てる

記事の執筆

執筆イメージ

玉本 隆司 獣医師、獣医学博士 

2002年 東京大学入学 
2005年より獣医内科学研究室に所属し、辻本先生、大野先生、松木先生らの薫陶を受ける。 
2008年に大学卒業後、埼玉の動物病院で2年間一次診療に従事。 
2010年に東京大学大学院農学生命科学研究科に進学。獣医内科学研究室で研究に励む傍ら、附属動物医療センターでの診療にも従事する。 
2014年に酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニットに助教として赴任。附属動物医療センターでの内科診療を担う。2016年より同講師、2019年より同准教授。2017年より内科診療科長、2020年副センター長。 
2021年に大学を退職し、富士フイルムVETシステムズ株式会社に入社、現在に至る。 

大学時代の主要な研究テーマは「炎症マーカーの臨床活用」で、特に猫の炎症マーカーであるSAAの臨床応用や基礎研究を精力的に行った。 
診療については「専門がないのが専門」と言いながら、内科全般をオールラウンドにこなす。その中でも免疫介在性疾患や感染症に強い関心を持つ。 

【富士フイルムVETシステムズ広報誌2023年春号掲載記事より】