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日本
動物医療コラム

アジソン病について考えてみた。

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

文献紹介

“Canine hypoadrenocorticism: Insights into the Addisonian crisis”
Chalifoux et al., The Canadian Veterinary Journal, 2023 

この研究ではアジソン病と診断した症例のうち、1)低血圧、2)低血糖、3)顕著な高カリウム血症のいずれかを満たす場合に、アジソンクリーゼとしています。結果は、84頭中28頭(33%)でアジソンクリーゼと診断されました。少し多いような気もしますが、大学病院での調査なので、そのバイアスがかかっていると思われます。血液ガス検査ではpH、重炭酸イオン濃度などについてクリーゼ群と非クリーゼ群で差がありますが、生化学検査ではほとんど差がありませんでした。ただし、一般的にアジソン病では原因不明の高カルシウム血症が認められるとされていますが、この研究ではクリーゼ群にのみ低カルシウム血症が認められており、著者らはこれがクリーゼを見分ける一つのポイントになるかもしれないと述べています。 

アジソン病=電解質異常?

アジソン病といえば、低ナトリウム血症や高カリウム血症といった電解質異常が思い浮かぶかと思います。これは、副腎皮質から分泌される鉱質コルチコイド(主にアルドステロン)が不足することによるものであり、アジソン病を特徴づける異常の一つです。個人的には、アジソン病による低ナトリウム血症として血清ナトリウム濃度105mEq/L(カリウムは4.9mEq/L)を経験したことがあり、この数値を見たときにはさすがに肝が冷えました。しかし、アジソン病の中には鉱質コルチコイド分泌には異常がなく、糖質コルチコイド(主にコルチゾール)の分泌のみが低下するタイプが存在します。グルココルチコイド不足型や非定型アジソン病と呼ばれるこの病態では、通常は電解質異常が認められません。アジソン病の症状は虚弱や食欲不振、消化器症状など非特異的なため、特徴的な電解質異常がないと診断どころか疑うことすら難しくなってしまいます。 

では、この非定型アジソン病の有病率はどのくらいでしょうか?教科書にはアジソン病全体の約1割が非定型アジソン病だと書かれていますが、個人的にはもっと多いのでは?と感じています。 

文献紹介

“Comparison of classic hypoadrenocorticism with glucocorticoid-deficient hypoadrenocorticism in dogs: 46 cases (1985–2005)”
Thompson et al., Journal of the American Veterinary Medical Association, 2007 

非定型アジソン病の検査所見 

2022年に発表された、非定型アジソン病の特徴をまとめた論文があったので、ご紹介します。

文献紹介

“Characterization of clinicopathologic and abdominal ultrasound findings in dogs with glucocorticoid deficient hypoadrenocorticism”
Reagan et al., Journal of Veterinary Internal Medicine, 2022 

この論文はアメリカの大学病院のデータベースから29頭の非定型アジソン病の犬のデータを抜き出し、まとめています。まず、年齢ですが中央値が7歳でした。一般的に犬のアジソン病の好発年齢は中齢(4-6歳)とされていますので、それより少し高いことになります。消化器症状は29頭中24頭で認められており、下痢が17頭、食欲低下が15頭、嘔吐が10頭、体重減少が6頭(数字は延べ数)となっています。生化学検査では28頭で低アルブミン血症、16頭で低血糖、24頭で低コレステロール血症が認められています。

消化器症状に紛れるアジソン病 

先ほど紹介した論文にもあったように、アジソン病では消化器症状を呈することがよくあります。その一方で、非定型アジソン病の場合は特徴的な電解質異常が認められないために、診断そのものが難しく、その他の疾患に紛れてしまう可能性があります。 

文献紹介

“Prevalence and characterization of hypoadrenocorticism in dogs with signs of chronic gastrointestinal disease: A multicenter study”
Hauck et al., Journal of Veterinary Internal Medicine, 2020 

こちらの論文では、慢性の消化器症状を示す症例の中で、アジソン病の症例がどの程度含まれていたかを調査しています。結果は、調査された151頭のうち6頭(4%)でアジソン病と診断されています。はっきりと書かれているわけではありませんが、6頭全頭で電解質異常は認められなかったとあるので、非定型アジソン病であった可能性が高いと考えられます。消化器症状を呈する中での4%というのは、なかなかに高い数字のように思われます。

消化器症状を呈しており、かつ血液検査で低アルブミン血症が認められた場合に、果たしてそれをちゃんとアジソン病と診断できるでしょうか?結構な数の症例が、慢性腸症や炎症性腸疾患と診断されているのではないかと心配になります。しかも、たとえば炎症性腸疾患と間違って判断して、プレドニゾロンによる治療を行ったとすると、アジソン病であっても見かけ上の症状は改善してしまい、誤りに気付くのはかなり難しくなります。しかし、アジソン病と炎症性腸疾患では必要な副腎皮質ステロイド剤の量も種類も異なりますので、やはりきちんと診断する必要があります。 

おわりに

アジソン病はよく知られた病気ですが、教科書等に記載されている内容と実際の病態は、少しずれがあるのかなと感じています。特に非定型アジソン病についてはまだまだ記載も乏しいのが現状ですが、実際には相当数の症例が存在している可能性があります。非定型アジソン病は疑って、狙って検査をしないと診断できない病気です。そして、うかつに副腎皮質ステロイド剤を投与してしまうと、結果が評価できなくなってしまいます。消化器症状を呈した患者さんを診察するときは、頭の片隅にでもアジソン病の可能性を残しておいてください。

最近は、院内でもコルチゾールを簡単に測定できるようになりました。一般的に考えて、アジソン病以外の理由で消化器症状を呈している場合は、病気によるストレス状態ですので、コルチゾールは基準範囲から高値を示す可能性が高いと考えられます。無処置でのコルチゾールの低値は、アジソン病を疑わせる所見です。金銭的に許容されるのであれば、初期検査に組み込むことを考慮してもいいのかもしれません。