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動物医療コラム

アジソン病について考えてみた。

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

掲載記事は掲載日時点の情報であり、記事の内容などは最新の情報とは異なる場合があります。

はじめに

トーマス・アジソン

今回は副腎皮質機能低下症、いわゆるアジソン病について改めて考えていきたいと思います。

アジソン病は、この病態を最初に報告したイギリス人医師、トーマス・アジソンの名前に基づいて命名されました。有名な発明家と一文字違いですが、別人です。英語の綴りはAddisonなので、「アディソン」と表記した方が元の発音には近いかもしれません。アジソン医師は悪性貧血の研究者としても知られており、アディソン・ビアマー病という悪性貧血の別名にも名前が残っています。ただ、悪性貧血に相当する病態は獣医療では知られていないか、極めてまれなので、アジソン病といえばやはり副腎皮質機能低下症がすぐに浮かびます。

内科学の教科書には、アジソン病は犬ではしばしば認められ、猫ではきわめてまれと記載されています。私は大学・大学院時代を症例数の多い東京大学附属動物医療センターで過ごし、その後別の大学で7年間二次診療に携わってきました。珍しい疾患、病態の動物はそれなりに見てきましたが、猫のアジソン病には遭遇したことがありません。個人的には「きわめてまれ」という記載には納得です。2023年のAAHAのガイドラインを見ても「犬の副腎皮質機能低下症(アジソン病)」と、犬に限定されています。もちろん猫で絶対にないわけではありませんが、鑑別診断を進める際にはめったにないものとして慎重になった方が良さそうです。 

アジソン危機!?

腕を組んで首をかしげる犬

アジソンクリーゼあるいは副腎クリーゼという単語はご存じでしょうか?

これは、副腎の機能が著しく低下することで生命の危険にさらされる状態を指し、急性副腎不全と表現されることもあります。アジソン病に罹患した患者が、無治療で強いストレスにさらされた場合などに発症する可能性があります。このクリーゼという単語、kriseと書きますが、由来はドイツ語です。英語でこのクリーゼに相当する単語はcrisisで、危機や重大な局面といった意味を持ちます。英語の論文を読んでいるとしばしばAddisonian crisis(あるいはAdrenal crisis)という表現に遭遇しますが、これがアジソンクリーゼ(あるいは副腎クリーゼ)を指しています。Addisonian crisisは「アジソン病に由来する危機的な状況」のような意味であり、アジソンクリーゼの定義そのままです。気がつけばなんてことないんですが、初めてこの単語に遭遇した時、恥ずかしながらcrisisとクリーゼが結びついていなかったため、アジソン危機ってなんだ!?としばらく考え込んでしまいました。クリーゼなら知ってたのに……。 

最近カナダのグループが、アジソンクリーゼに関する回顧的な研究結果を報告しました。 

文献紹介

“Canine hypoadrenocorticism: Insights into the Addisonian crisis”
Chalifoux et al., The Canadian Veterinary Journal, 2023 

この研究ではアジソン病と診断した症例のうち、1)低血圧、2)低血糖、3)顕著な高カリウム血症のいずれかを満たす場合に、アジソンクリーゼとしています。結果は、84頭中28頭(33%)でアジソンクリーゼと診断されました。少し多いような気もしますが、大学病院での調査なので、そのバイアスがかかっていると思われます。血液ガス検査ではpH、重炭酸イオン濃度などについてクリーゼ群と非クリーゼ群で差がありますが、生化学検査ではほとんど差がありませんでした。ただし、一般的にアジソン病では原因不明の高カルシウム血症が認められるとされていますが、この研究ではクリーゼ群にのみ低カルシウム血症が認められており、著者らはこれがクリーゼを見分ける一つのポイントになるかもしれないと述べています。 

アジソン病=電解質異常?

アジソン病といえば、低ナトリウム血症や高カリウム血症といった電解質異常が思い浮かぶかと思います。これは、副腎皮質から分泌される鉱質コルチコイド(主にアルドステロン)が不足することによるものであり、アジソン病を特徴づける異常の一つです。個人的には、アジソン病による低ナトリウム血症として血清ナトリウム濃度105mEq/L(カリウムは4.9mEq/L)を経験したことがあり、この数値を見たときにはさすがに肝が冷えました。しかし、アジソン病の中には鉱質コルチコイド分泌には異常がなく、糖質コルチコイド(主にコルチゾール)の分泌のみが低下するタイプが存在します。グルココルチコイド不足型や非定型アジソン病と呼ばれるこの病態では、通常は電解質異常が認められません。アジソン病の症状は虚弱や食欲不振、消化器症状など非特異的なため、特徴的な電解質異常がないと診断どころか疑うことすら難しくなってしまいます。 

では、この非定型アジソン病の有病率はどのくらいでしょうか?教科書にはアジソン病全体の約1割が非定型アジソン病だと書かれていますが、個人的にはもっと多いのでは?と感じています。 

文献紹介

“Comparison of classic hypoadrenocorticism with glucocorticoid-deficient hypoadrenocorticism in dogs: 46 cases (1985–2005)”
Thompson et al., Journal of the American Veterinary Medical Association, 2007 

アジソン病の有病率

少し古い報告で、頭数も少ないので参考程度と思いますが、2007年のアメリカの報告ではアジソン病の症例46頭のうち、定型が35頭(76%)で非定型が11頭(24%)となっています。こちらも二次診療施設であるというバイアスはありますが、非定型アジソン病の診断の難しさを考慮すると、やはり実際の非定型アジソン病の症例は想像しているよりも多いのでは?と考えてしまいます。 

非定型アジソン病の検査所見 

2022年に発表された、非定型アジソン病の特徴をまとめた論文があったので、ご紹介します。

文献紹介

“Characterization of clinicopathologic and abdominal ultrasound findings in dogs with glucocorticoid deficient hypoadrenocorticism”
Reagan et al., Journal of Veterinary Internal Medicine, 2022 

この論文はアメリカの大学病院のデータベースから29頭の非定型アジソン病の犬のデータを抜き出し、まとめています。まず、年齢ですが中央値が7歳でした。一般的に犬のアジソン病の好発年齢は中齢(4-6歳)とされていますので、それより少し高いことになります。消化器症状は29頭中24頭で認められており、下痢が17頭、食欲低下が15頭、嘔吐が10頭、体重減少が6頭(数字は延べ数)となっています。生化学検査では28頭で低アルブミン血症、16頭で低血糖、24頭で低コレステロール血症が認められています。

低アルブミン血症に注目!

この中で、個人的に注目すべきは低アルブミン血症かなと思います。この論文中のほぼ全例で認められており、自験例でも5頭全頭でアルブミンは低値でした。教科書等にはほとんど記載されていませんが、重要な情報だと考えています。 

消化器症状に紛れるアジソン病 

先ほど紹介した論文にもあったように、アジソン病では消化器症状を呈することがよくあります。その一方で、非定型アジソン病の場合は特徴的な電解質異常が認められないために、診断そのものが難しく、その他の疾患に紛れてしまう可能性があります。 

文献紹介

“Prevalence and characterization of hypoadrenocorticism in dogs with signs of chronic gastrointestinal disease: A multicenter study”
Hauck et al., Journal of Veterinary Internal Medicine, 2020 

こちらの論文では、慢性の消化器症状を示す症例の中で、アジソン病の症例がどの程度含まれていたかを調査しています。結果は、調査された151頭のうち6頭(4%)でアジソン病と診断されています。はっきりと書かれているわけではありませんが、6頭全頭で電解質異常は認められなかったとあるので、非定型アジソン病であった可能性が高いと考えられます。消化器症状を呈する中での4%というのは、なかなかに高い数字のように思われます。

消化器症状を呈しており、かつ血液検査で低アルブミン血症が認められた場合に、果たしてそれをちゃんとアジソン病と診断できるでしょうか?結構な数の症例が、慢性腸症や炎症性腸疾患と診断されているのではないかと心配になります。しかも、たとえば炎症性腸疾患と間違って判断して、プレドニゾロンによる治療を行ったとすると、アジソン病であっても見かけ上の症状は改善してしまい、誤りに気付くのはかなり難しくなります。しかし、アジソン病と炎症性腸疾患では必要な副腎皮質ステロイド剤の量も種類も異なりますので、やはりきちんと診断する必要があります。 

犬と考える獣医師

アジソン病の確定診断にはACTH刺激試験が必要ですので、まず疑うことができなければ検査・診断に進むことができません。アジソン病であれば、腹部超音波検査で副腎の萎縮を検出することも診断に近づく検査になります。しかし、そもそも少し見づらい副腎が萎縮して見えないのか、技術的に描出できないのかを判断するのはなかなか難しいと思います。そのため、とにかく「アジソン病の可能性がある」ということを頭の片隅に置いておくことが重要です。 

おわりに

アジソン病はよく知られた病気ですが、教科書等に記載されている内容と実際の病態は、少しずれがあるのかなと感じています。特に非定型アジソン病についてはまだまだ記載も乏しいのが現状ですが、実際には相当数の症例が存在している可能性があります。非定型アジソン病は疑って、狙って検査をしないと診断できない病気です。そして、うかつに副腎皮質ステロイド剤を投与してしまうと、結果が評価できなくなってしまいます。消化器症状を呈した患者さんを診察するときは、頭の片隅にでもアジソン病の可能性を残しておいてください。

最近は、院内でもコルチゾールを簡単に測定できるようになりました。一般的に考えて、アジソン病以外の理由で消化器症状を呈している場合は、病気によるストレス状態ですので、コルチゾールは基準範囲から高値を示す可能性が高いと考えられます。無処置でのコルチゾールの低値は、アジソン病を疑わせる所見です。金銭的に許容されるのであれば、初期検査に組み込むことを考慮してもいいのかもしれません。 

記事の執筆担当

執筆者イメージ

玉本 隆司 獣医師、獣医学博士 

2002年 東京大学入学 
2005年より獣医内科学研究室に所属し、辻本先生、大野先生、松木先生らの薫陶を受ける。 
2008年に大学卒業後、埼玉の動物病院で2年間一次診療に従事。 
2010年に東京大学大学院農学生命科学研究科に進学。獣医内科学研究室で研究に励む傍ら、附属動物医療センターでの診療にも従事する。 
2014年に酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニットに助教として赴任。附属動物医療センターでの内科診療を担う。2016年より同講師、2019年より同准教授。2017年より内科診療科長、2020年副センター長。 
2021年に大学を退職し、富士フイルムVETシステムズ株式会社に入社。 
2024年逝去。生前、多くの功績を残し、業界内外から高く評価される。

大学時代の主要な研究テーマは「炎症マーカーの臨床活用」で、特に猫の炎症マーカーであるSAAの臨床応用や基礎研究を精力的に行った。 
診療については「専門性がないのが専門」と言いながら、内科全般をオールラウンドにこなし、その中でも免疫介在性疾患や感染症に強い関心を持っていた。

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