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動物医療コラム

わかっていそうでわかっていない、
少しだけわかる蛋白分画

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

掲載記事は掲載日時点の情報であり、記事の内容などは最新の情報とは異なる場合があります。

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はじめに

蛋白分画は、血清蛋白電気泳動と呼ばれることもある臨床検査です。日常的に頻繁に行う検査ではありませんが、臨床的に重要な疾患の診断・鑑別に用いられる検査であるため、いざというときに備えて正確な知識を備えておきたいものです。

検査の原理

蛋白分画といえば図1のような波形を思い浮かべるかもしれません。あるいは、それぞれの分画の割合をパーセンテージで表すこともあります。しかし、これらの結果は、本来の検査で得られる結果をわかりやすい形に出力し直したものになります。本来の結果は図2のように、バンドの形で得られます。

学生の頃に実習や卒論研究で、一度くらいは電気泳動を行ったことがあるのではないでしょうか?DNAの場合は、アガロースゲル電気泳動が一般的です。蛋白質の場合は、SDS-PAGEと呼ばれるポリアクリルアミドゲル電気泳動が一般的に行われます。蛋白分画も、検査の基本的な原理はそれらと同じものです。

検査としての蛋白分画では、担体としてセルロース・アセテート膜やアガロースゲルを用いるのが一般的です。緩衝液中では、血清中の蛋白質は通常マイナスに荷電しています。そしてそこに電荷をかけると陽極側に移動していきますが、その分子量や構造によって移動度が異なります(図3)。

数十分程度電気泳動を行った後にゲルや膜を染色すると、移動度に応じた蛋白質の溜まりがバンドとして検出されます(図4)。

図1

図1

図2

図2

このとき、最も陽極側に移動するのがアルブミンです。アルブミンは血清中の蛋白質の約50%を占める非常に量の多い蛋白質であり、かつ単一の蛋白であるため、非常に濃く、明瞭なバンドが得られます。その他のバンドは、構造や分子量、電荷などの性質が似通っているためにたまたま移動度が同じくらいになった複数の蛋白質から構成されるため、アルブミンのバンドに比べると薄く、境界もぼんやりとしています。免疫グロブリンは一見すると単一の蛋白ですが、抗原認識部位が異なるとそれぞれ性質が異なります。そのため、わずかに移動度が異なり、幅の広い薄いバンドになります。

慣れた人が見れば、これでも十分な情報が得られますが、慣れていないとアルブミンの濃いバンド以外はよくわかりません。そこで、デンシトメータ―という装置を用いてバンドの濃さを波形グラフに変換したものが、見慣れた蛋白分画の結果になります。濃い部分が高い山(ピーク)となり、濃い部分と濃い部分の間にある薄い部分が谷になります。ただし、模式図ではバンドとバンドの間がくっきりと分かれていますが、実際にはその領域に泳動される蛋白もあるため、このようにくっきりとは分かれず、ぼんやりとバンド同士がつながったような形になります。(図5)

図3

図3

図4

図4

図5

図5 実際の電気泳動の結果

そのため、波形図でもピークがはっきりせず、なだらかにつながったように見える場合があります。また、この波形グラフのそれぞれの波形の面積を計算し、全体の面積に対する割合を算出したものが、各分画のパーセンテージになります(図6)。

図6

図6

各分画の決め方

蛋白分画では、血清中の蛋白質を5つから6つ程度の分画に分けるのが一般的ですが、これはどのような基準で分けているのでしょうか?実はこれについて、客観的な基準はありません。最も陽極側に存在する高いピークがアルブミン分画なのは前に説明したとおりです。そして、最も陰極側にあるなだらかなピークがγグロブリン(免疫グロブリン)の集まった分画です。ここまではある程度決まっていますが、その間についてはピークを数えて、それに順に名前を付けている、というのが実際のところです。きれいにピークを分けるためには明瞭な“山”と“谷”が必要ですが、それはそれぞれの個体のもつ蛋白質の量や種類、泳動に用いた担体、電荷のかけ方、染色などによって変わってきます。実際に“谷”が不明瞭なことはしばしばあって、その場合は「たぶんこのあたりだろう」という感覚で分画を区切っています。

図7のような、本当にそこが境界線なの?というような結果、見たことありませんか?それはこういう理由なのですが、検査結果が主観的、恣意的に決められているというのは、結構衝撃的ですよね。また、特に血清の粘稠度が高い場合に、泳動による蛋白質の分離がうまく進まないことがあります。その場合、ピークの間隔が全体的に詰まってしまい、本来γグロブリン分画に区分されるべきピークがβグロブリン分画と判断されたりします。

図7

図7

分画はいくつに分ける?

血清蛋白はいくつの分画に分けるのが正解でしょうか?蛋白質の分類としては、アルブミン、αグロブリン、βグロブリン、γグロブリンの4つに分けるのが一般的です。電気泳動を行うと、多くの動物種でαグロブリンがさらに2つに分かれるため、それぞれをα1分画、α2分画としています。この5分画にわけるのが基本形になります。

βグロブリン分画についても、さらに2つに分かれる場合があります。その場合、それぞれをβ1分画、β2分画として、全部で6分画として扱うこともあります。ここまでは、比較的一般的に見かける波形です。しかし、実はさらに細かい分画もあります。α1分画とα2分画をさらに2つに分けて、α1aとα1b、α2aとα2bに分ける場合があります。また、β1もさらに2つに分けて、β1aとβ1bとしたりします。こうなると、分画は全部で9分画になります。この分画は、伴侶動物では猫で報告があります。(Bakerand Valli,1988)ちなみに、余談ではありますが、馬や羊ではγグロブリンが2つに分けられるとの報告もあります。

では、いくつに分けるのが正解なのでしょうか?犬では、6つ(アルブミン、α1、α2、β1、β2、γ)に分けるのが一般的ですが、5つ(アルブミン、α1、α2、β、γ)とした報告もあります。猫ではそもそも報告があまり多くなく、その中でも6つに分けたり9つに分けたりと報告によってまちまちです。

前述のように分画の決め方がそもそもあいまいで主観的であることと合わせると、「正解はない」というのが現状の正解です。医学領域では5つ(アルブミン、α1、α2、β、γ)に分けるのが基本ですが、より分離精度の高いキャピラリー電気泳動を使用した場合にはβをさらに2つに分けた6分画になります。このように、検査系によっても変わってしまいますので、分画をいくつに分けるかに正解はありませんし、議論する意味もあまりないと思います。基本の5分画(あるいは6分画)のどこが増えてどこが減っているかは見ますが、「α1aが増えている」とか、「β1bが減っている」のように細かく見る意義は、現在のところありません。

蛋白分画のパーセンテージ

同じ理由で、蛋白分画のパーセンテージを見ることも、現状ではあまり意味はありません。一応基準範囲は設定されていますが、あくまでも目安です。繰り返し述べているとおり、分画の境界線の決め方がそもそも恣意的・主観的であることを考えると、その意味がわかると思います。例えば、区分するラインの取り方が少し違うだけで各分画の割合は数%ずれますので、わずかなパーセンテージの増減を見ても何もわかりません(図8)。

図8

図8

また、βグロブリン分画が増加していたとして、その分画の中央付近に泳動される蛋白が増加していたのか、γグロブリン分画との境界付近の蛋白質が増加していたのかで、その結果解釈は全く異なります(図9)。

図9

図9
例:βグロブリン 20% ( 参考基準範囲:9.1~13.7%)
βグロブリン分画のパーセンテージで見ると同じだが、左と右とで持っている意味は異なる
(パーセンテージだけ見るとどちらもβグロブリン分画の増加という評価になってしまう)

免疫グロブリンは通常γグロブリン分画に泳動されますが、βグロブリン分画とγグロブリン分画の境界付近に泳動される蛋白が増加している場合、それも免疫グロブリンである可能性があります。これはパーセンテージでβグロブリン分画の増加を見ても判断できず、波形を見るしかありません。これらの理由から、蛋白分画の結果は波形で見るのが原則です。

総蛋白濃度

蛋白分画の結果には、総蛋白濃度も記載されていますが、この値が生化学検査で測定した総蛋白濃度とずれることがたまにあります。これは、双方の測定原理が異なるために起こる現象であり、ある程度やむを得ない部分です。定量性という点では明らかに生化学検査の方が優れていますので、総蛋白やアルブミンの正確な“量”の変化を見る場合は生化学検査を見てください。蛋白分画の方は前述のように波形を見て、正常波形からどのように変化したのかを評価するのが主たる目的になります。

蛋白分画の適用

臨床検査として蛋白分画の実施を検討するのはどのようなときでしょうか?本来であれば蛋白分画の結果は非常に多くの情報を含んでいますが、残念ながら獣医療においてはあまり研究は進んでいません。現状である程度以上情報がある疾患、病態に絞って考えると、γグロブリン分画の増加を確認することとその増加のパターンを調べることが主な目的になると思います。そのため、検査を実施するのは、①血清総蛋白が高値の場合、②血清総蛋白濃度は基準範囲内だが血清アルブミン濃度が低値の場合(≒血清グロブリン濃度が高値の場合)、③血清蛋白濃度、血清アルブミン濃度ともに基準範囲内だが、臨床症状やその他の検査所見から猫伝染性腹膜炎(FIP)が疑われる場合、の3つの場合になるかと思います。血清蛋白濃度や血清アルブミン濃度が低下している場合にも当然波形は変化しますが、獣医療ではそういった状態での波形に関する情報が乏しいため、検査を実施しても診断や治療に有益な情報はほとんど得られません。

それぞれの分画が増えるとき、減るとき

1. アルブミン分画

アルブミンに関しては、生化学検査でより正確に定量できますので、波形データで情報を読み取ることはほとんどないと思います。アルブミンについては、後述するγグロブリン分画の評価の際に基準となりますので、その点が重要です。

2. αグロブリン分画

α1分画にはα1アンチトリプシンやα1酸性糖蛋白(α1AGP)が含まれ、α2分画にはα2マクログロブリンやハプトグロビン、セルロプラスミンなどが含まれます。αグロブリン分画に含まれる蛋白質は、多くが正の急性相蛋白に分類されるものです。そのため、急性炎症時には両分画ともに顕著に増加します。また、急性相蛋白の中でもα1AGPやハプトグロビンは減少が緩やかであるため、慢性炎症においても引き続きこれらの分画は増加している場合があります。

人では、ネフローゼ症候群でアルブミンやγグロブリンが減少する一方で、比較的分子量の大きいα2分画の蛋白は尿中に漏出しづらく、また肝臓での産生自体は増えるため、α2分画の増加が認められるとされています。ただし、犬や猫ではまとまった報告はほとんどありません。肝硬変などに代表される肝機能不全ではαグロブリン分画の減少が認められますが、これは肝臓での蛋白合成が減少するためで、アルブミンやβグロブリン分画も同時に減少します。

3. βグロブリン分画

βグロブリン分画のうち、β1分画には主にトランスフェリンとリポ蛋白が含まれます。ただし、リポ蛋白のうちHDLは通常はαグロブリン分画に含まれます。β2分画には主に補体(C3およびC4)が含まれます。また、血清には含まれないフィブリノーゲンですが、仮に電気泳動を血漿で行うとβ2分画に含まれます。C反応性蛋白(CRP)はβ2分画とγグロブリン分画の間くらいに泳動されるとされていますが、犬ではよりγグロブリン分画寄りに泳動されるという報告があります(Janiaand Andraszek,2016)。免疫グロブリンは通常γグロブリン分画に含まれますが、免疫グロブリンのうちIgAやIgMはβ2分画に含まれる場合があります。

トランスフェリンは負の急性相蛋白であり、炎症時には減少する一方で、補体などは増加するため、炎症時のβグロブリン分画は個体や病態ごとにさまざまなパターンをとります。顕著な増加を示す場合はIgAやIgMのような免疫グロブリンやCRPが影響していることが多いようですが、注意が必要な場合もあります。一つは血清ではなく血漿で検査をした場合で、この場合はフィブリノーゲンが残っているためにβグロブリン分画(β2分画)が増加します。また、検体が溶血した場合は、ヘモグロビンがβグロブリン分画(β2分画)に泳動されるため、β2分画の増加が認められます。

4. γグロブリン分画

γグロブリン分画に含まれるのは基本的に免疫グロブリンですが、前述のように犬ではCRPがここに含まれることがあるようです。免疫グロブリンが増加している場合は、その由来に応じて2つのパターンが認められます。これが一般的に言われる「モノクローナルガンモパシー」と「ポリクローナルガンモパシー」です。

蛋白電気泳動で波形、すなわちバンドがどのように出るかは、バンドを構成している蛋白の種類や構造に左右されます。モノクローナルガンモパシーでは、基本的に1種類の免疫グロブリンが増加していてバンドを形成しています。そのため単一の蛋白であるアルブミンのバンドと同様の、濃く明瞭なバンドが形成されます。そこから波形データを読み取りますので、波形で見てもアルブミンの波形に類似した鋭いピークとなります。一方でポリクローナルガンモパシーの場合は、免疫グロブリンが増加しているとはいえ、それらは全く均一というわけではありません。少しずつ蛋白質としての構造が異なり、そのため移動度も異なります。γグロブリン分画のおおよそ同じような位置に泳動されますが、ぴったり同じというわけではありません。そのため、バンドはモノクローナルガンモパシーと比べれば薄く、また境界も不明瞭になります。そこから波形データを読み取ると、幅の広いなだらかなピークとなります。例外はありますが、ピークの幅がアルブミンのピークと比較して広いか狭いかが、ポリクローナルガンモパシーとモノクローナルガンモパシーを見分ける一つの目安になります(図10)。

免疫不全ではγグロブリン分画が減少しますが、健康でもγグロブリン分画がほとんど検出されない場合もあり、波形から減少を読み取るのは困難です。

図10

図10

蛋白分画各論 ~あんなとき、こんなとき~

①典型的なモノクローナルガンモパシー

典型的なモノクローナルガンモパシーの波形です(図11)。γグロブリン分画にアルブミンと同様の鋭いピークが認められます。犬であれば多発性骨髄腫などの形質細胞腫瘍やB細胞性リンパ腫などを第一に疑う所見です。海外ではエールリヒア症でもこのような波形が認められる場合があると報告されていますが、日本ではエールリヒア症は基本的にないため、通常は考慮しません。猫でも骨髄腫関連疾患(MRD)などの腫瘍性疾患を第一に疑いますが、FIPのような感染症・炎症性疾患でもこのような波形になる場合もあるため、注意が必要です(後述)。年齢などの情報や他の検査所見と合わせて、総合的に判断することが重要になります。

②典型的なポリクローナルガンモパシー

典型的なポリクローナルガンモパシーの波形です(図12)。γグロブリン分画に裾野の広いなだらかなピークが認められます。感染症や炎症に伴って免疫グロブリンが増加した際に認められる波形で、この波形を示す代表的な疾患としてはFIPが挙げられます。ただし、FIPに特異的というわけではなく、他のウイルス感染症や歯肉炎などの炎症性疾患でも認められる可能性のある所見です。通常は炎症反応を伴うため、αグロブリン分画の増加も同時に認められます。γグロブリン分画が顕著に増加した場合には鋭いピーク様に見える場合もありますが(図13)、ピーク部分の幅を見るとおよそ判断できると思います。

図11

図11

図12

図12

図13

図13

③βグロブリン分画に認められるピーク

βグロブリン分画にピークが認められる場合は、IgAやIgMが増加しているケースが考えられます。比較的鋭いモノクローナル様のピークの場合、多発性骨髄腫などが鑑別に挙げられます(図14)。さらに、多発性骨髄腫などの疾患では総蛋白濃度が増加していることが多く、そのこともピークの位置に影響します。総蛋白濃度が高く、血清の粘稠度が高い場合には泳動による蛋白質の分離がうまく進まず、本来γグロブリン分画にあるべきピークが、あたかもβグロブリン分画にあるように見えてしまうことがあります。また、報告は多くありませんが、犬の慢性肝炎で免疫グロブリンが増加し、βグロブリン分画の増加とともにβグロブリン分画とγグロブリン分画がつながったような波形(β-γ bridging)が認められる場合があります(Gori et al., JournalofVeterinaryDiagnosticInvestigation,2022)。
アーティファクトとして血漿で検査した場合や溶血が認められる場合にも、β2分画にピークが認められる可能性があります。

④二峰性のガンモパシー

γグロブリン分画に二峰性のピークが認められる場合、大きく2つの可能性が考えられます。1つめはBiclonalgammopathy
(バイクローナルガンモパシー)と呼ばれるもので、基本的な考え方はモノクローナルガンモパシーと同様です(図15)。何らかの理由で2種類の免疫グロブリンを産生していたり、もともと2つのクローンが腫瘍化した場合などに認められる可能性があります。2つめはIgAが増加している場合です。Splitmonoclonal gammopathyなどと呼ばれることもあり、IgAが2量体であるために生じる波形です(図16)。この場合、βグロブリン分画あるいはβからγグロブリン分画の間あたりにピークが出やすいのも特徴です。

図14

図14

図15

図15

図16

図16

⑤ポリクローナルガンモパシーにモノクローナルガンモパシーがかぶった

ピーク部分を見るとモノクローナルガンモパシーのようですが、裾野の広いこのような波形は、モノクローナルガンモパシーとポリクローナルガンモパシーが重なった場合に認められます(図17、18)。一般的には、形質細胞腫瘍などのもともとモノクローナルガンモパシーを呈する疾患よりは、感染症などのポリクローナルガンモパシーを呈する疾患で認められやすいとされています。これは、感染や炎症に伴って免疫グロブリンが増加したうえで、特定の抗原に反応するクローンが特に増加した場合に認められると考えられています(Restrictedoligoclonal gammopathyと呼ばれます)。この波形の重なりが顕著だと、一見するとモノクローナルガンモパシーのように見えてしまう場合もあり得ます(図19~21)。FIPでまれに認められるモノクローナルガンモパシーにしか見えないような波形は、このケースの極端な例であると考えられます。

図17

図17

図18

図18

図19

図19

図20

図20

図21

図21

いくつかの具体例とともに波形を見てきましたが、結局のところ「モノクローナルガンモパシー」とか「ポリクローナルガンモパシー」というのは波形の主観的な評価にすぎません。⑤のように複雑な病態ではその区別があいまいになりますし、本当に単一の蛋白(この場合は単一クローンのIgG)が増加しているかどうかは、この検査からはわかりません。大事なことは、なぜその波形になるのかを知っていることです。例えば、少なくとも⑤のような現象を知っていれば、「波形からモノクローナルガンモパシーだから腫瘍に違いない!」のように断定することは危険であるということが理解できると思います。波形から言えることは、「モノクローナルガンモパシーのように見えるから、腫瘍性疾患の可能性がより高い」、このくらいまでです。

最後に

この原稿を書くにあたって改めて蛋白分画について調べましたが、国内の教科書等には驚くほど記載が少なく、情報を集めるのに苦労しました。獣医内科学の教科書には、目次や索引に“蛋白分画”も“血清蛋白電気泳動”もなく、いくつかの疾患の本文中に「モノクローナルガンモパシーが認められる」などの記載があるのみです。臨床病理学のコア・カリキュラムのpdfには記載がありますが、かなりあっさりとしており、十分な情報は得られません。大学の講義でどの程度詳しく習うかは教員次第だと思いますが、基準となる教科書やコア・カリキュラムがこんな状態ですから、講義でも同じようなものだろうと推測されます。大学で臨床系の研究室に所属していればともかく、そうでなければ典型的なモノクローナルガンモパシーとポリクローナルガンモパシーの波形を習ったくらいで卒業し、現場に出ることになります。それでは、検査したときに結果がよくわからなくても当然と言えます。この資料が明日からの診療の助けになれば幸いです。

参考にしたホームページ

記事の執筆担当

執筆者イメージ

玉本 隆司 獣医師、獣医学博士 

2002年 東京大学入学 
2005年より獣医内科学研究室に所属し、辻本先生、大野先生、松木先生らの薫陶を受ける。 
2008年に大学卒業後、埼玉の動物病院で2年間一次診療に従事。 
2010年に東京大学大学院農学生命科学研究科に進学。獣医内科学研究室で研究に励む傍ら、附属動物医療センターでの診療にも従事する。 
2014年に酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニットに助教として赴任。附属動物医療センターでの内科診療を担う。2016年より同講師、2019年より同准教授。2017年より内科診療科長、2020年副センター長。 
2021年に大学を退職し、富士フイルムVETシステムズ株式会社に入社。 
2024年逝去。生前、多くの功績を残し、業界内外から高く評価される。

大学時代の主要な研究テーマは「炎症マーカーの臨床活用」で、特に猫の炎症マーカーであるSAAの臨床応用や基礎研究を精力的に行った。 
診療については「専門性がないのが専門」と言いながら、内科全般をオールラウンドにこなし、その中でも免疫介在性疾患や感染症に強い関心を持っていた。

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