Select Your Location

This is Fujifilm Japan website.
To browse products and services available in your area,
please choose another country or region.

See all countries and regions

You are accessing from the United States. To browse Fujifilm USA website, please click the following link.

Fujifilm USA Website
日本
動物医療コラム

【病理・細胞診 診断医コラム】
第3回:犬猫の形質細胞腫瘍

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

掲載記事は掲載日時点の情報であり、記事の内容などは最新の情報とは異なる場合があります。

執筆者イメージ

診断医 野上 英

形質細胞腫瘍はBリンパ球が分化・成熟した形質細胞由来の腫瘍です。

犬猫での発症率は犬の方が高く、猫では低い傾向があります。診断名に“〇〇形質細胞腫”や“骨髄腫”とつくものが複数あり、病理診断名と臨床診断名を混同しやすいため、今回のコラムでそれらを整理していこうと思います。 

犬の形質細胞腫瘍

正常の形質細胞は、中等量の好塩基性細胞質、核のクロマチン結節に富む類円形核を有しています。核は偏在性であり、核の周囲には明瞭なゴルジ野(核周囲明庭)が観察されます(図1A)。

免疫刺激によって活性化した形質細胞では免疫グロブリン産生の亢進に伴い、細胞質辺縁に好酸性構造物を形成する火炎細胞 flame cell(図1B)、細胞質内に青白色のブドウの房状の封入体(ラッセル小体 Russell bodies)を含むMott細胞 Mott cell(図1C)が観察されることがあります。

図1A 細胞診(ライトギムザ染色)

図1A
犬、リンパ節、強拡大
典型的な形質細胞(矢頭)は、中等量の好塩基性細胞質、核のクロマチン結節に富む類円形核を有している。核は偏在性であり、核の周囲には明瞭なゴルジ野(核周囲明庭)が観察される。

図1B 細胞診(ライトギムザ染色)

図1B
犬、リンパ節、強拡大
火炎細胞 flame cell(矢頭)は、免疫グロブリン産生の亢進に伴い、細胞質辺縁に好酸性の突起物を形成する。

図1C 細胞診(ライトギムザ染色)

図1C
犬、リンパ節、強拡大
Mott細胞(矢頭)は、細胞質内に青白色のブドウの房状の封入体(ラッセル小体 Russell bodies)を含んでいる。

形質細胞腫瘍は動物のWHO分類では①低悪性形質細胞腫、②退形成性(悪性)形質細胞腫、③形質細胞性骨髄腫に分類されます。③は骨髄内に発生し多発性に病変を形成することから臨床的に多発性骨髄腫 multiple myeloma (MM)と呼称されます。

③にはさらに原発性マクログロブリン血症、孤立性骨形質細胞腫 solitary osseous plasmacytoma (SOP)が含まれます。一方、骨髄外に発生する形質細胞腫瘍は①および②を含め臨床的に髄外性形質細胞腫 extramedullary plasmacytoma (EMP)と呼称されます(表1)。

病理診断名臨床診断名
形質細胞性骨髄腫多発性骨髄腫(MM)
原発性マクログロブリン血症
孤立性骨形質細胞腫(SOP)
低悪性形質細胞腫
退形成性形質細胞腫
髄外性形質細胞腫(EMP)

表1​ 形質細胞腫瘍の病理診断名と臨床診断名の比較

形質細胞腫瘍では比較的分化した形質細胞様の形態を示すもの(図2A)、核の大小不同やN/C比(核/細胞質比)のばらつきが目立ち、複数核や大型核を有するものもあります(図2B)。

図2A 細胞診(ライトギムザ染色)​/病理組織(HE染色)​

図2A
犬、皮膚腫瘤
比較的分化した形質細胞様の形態を示す形質細胞腫。
一部でFlame cell様の形態を示す腫瘍細胞(矢頭)も観察される。

図2B 細胞診(ライトギムザ染色)​/病理組織(HE染色)​

図2B
犬、皮膚腫瘤
多形性を示す形質細胞腫。
核の大小不同、N/C比のばらつきに加え、大型核や複数核形成が目立つ。

また、細胞間や背景に赤紫色の不定形物質(アミロイド)、脂肪滴や脂肪細胞が観察される場合もあります(図2C・D)。

図2C 細胞診(ライトギムザ染色)/病理組織(HE染色)

図2C
犬、皮膚腫瘤
腫瘍細胞間には不定形物質(アミロイド)が観察される(矢頭)。

図2D 細胞診(ライトギムザ染色)​/病理組織(HE染色)​/病理組織(HE染色)​

図2D
犬、皮膚腫瘤
腫瘍細胞間には脂肪細胞の増生が観察される(矢頭)。

形態学的に犬皮膚組織球腫との鑑別が難しい場合には、免疫組織化学(免疫染色)が有用な場合もあります(図3)。

図3 病理組織(HE染色)​/免疫組織化学(抗MUM-1抗体)​/免疫組織化学(抗Iba-1抗体)​

図3
犬、皮膚腫瘤
免疫染色によって腫瘍細胞は形質細胞のマーカーであるMUM-1に陽性、組織球のマーカーであるIba-1に陰性であった。

一般的に、犬の皮膚、口腔内や直腸などの消化器に発生する形質細胞腫は細胞形態に関わらず良性あるいは低悪性の挙動を示しますが、悪性の形質細胞腫(MMやSOP)の皮膚転移の場合には細胞診所見のみでは鑑別は困難であるため、複数の臨床検査の結果を併せた解釈が必要となります1)(図4A~D)。 

図4A 骨髄塗抹(ライトギムザ染色)​

図4A
犬、骨髄、強拡大
多発性骨髄腫の骨髄では、形質細胞様の腫瘍細胞が集塊状に増殖している。
本症例ではflame cell様の形態を示す腫瘍細胞が多見される(矢頭)。

図4B 細胞診(ライトギムザ染色)​

図4B
犬、脾臓、強拡大
多発性骨髄腫の症例(図10と同一症例)の脾臓の細胞診。
骨髄で観察されたものと同様の腫瘍細胞の増殖が観察され、脾臓への波及病変が示唆される(矢頭)。

図4C 血液塗抹(ライトギムザ染色)​

図4C
犬、末梢血、強拡大
多発性骨髄腫の症例の末梢血では、異常免疫グロブリン血症によって赤血球の連戦形成が認められる(矢頭)。また、本症例では骨髄における腫瘍細胞の増殖が原因と考えられる汎血球減少症が認められた。

図4D

図4D
犬の多発性骨髄腫
異常免疫グロブリン血症(本症例ではモノクローナルガンモパチー)(左上)、レントゲン検査におけるパンチアウト像(右上)が認められる。肉眼的には骨の多巣性の融解所見が認められる(左下矢頭)。また、骨髄内における形質細胞様の腫瘍細胞の増殖が認められ(下(ライトギムザ染色・HE染色))、本症例では免疫組織化学(免疫染色)において抗IgG抗体に陽性であった(右下)。(画像提供:日本獣医生命科学大学 獣医病理学教室 道下正貴先生)

猫の骨髄腫関連疾患

猫の骨髄腫関連疾患 myeloma-related disordrs (MRDs)はMellorによって提唱された疾患で2)
①骨髄腫(髄内病変、あるいは髄内・髄外病変を併発)
②皮膚の髄外性形質細胞腫
③皮膚以外の髄外性形質細胞腫
④骨の孤立性形質細胞腫
⑤IgMマクログロブリン血症
⑥免疫グロブリン産生性リンパ腫
⑦骨髄腫性白血病(形質細胞性白血病)
の7つの病型を併せた疾患名です。

猫の骨髄腫は人や犬とは異なり、骨髄内病変を形成しない内臓の形質細胞腫(脾臓や肝臓などに病変を形成)においても異常免疫グロブリン血症 gammopathyが認められるなど、骨髄腫と内臓の形質細胞腫の線引きが曖昧であることから、骨髄腫、形質細胞腫、異常な蛋白血症を伴うリンパ腫を包括してこのような名称が使用されています3)

猫のMRDsでは、その67%が髄外で発生し、これらが骨髄内へ浸潤するものと考えられています。細胞学的な分化度が高い症例では低い症例よりも生存期間が長いため、腫瘍細胞の細胞学的な評価が予後判定に重要な要素です。

猫のMRDsにおいて、皮膚に病変を形成するものは30%程度で、そのうち60%程度が単発病変です。単発病変の場合には完全切除によって生存期間が延長することが報告されています。

猫のMRDsの腫瘍細胞の形態学的・免疫組織化学的特徴は犬の形質細胞腫瘍と類似しています(図5A~C)。

図5A 細胞診(ライトギムザ染色)​

図5A
猫、膝関節付近腫脹病変、強拡大
形質細胞様の腫瘍細胞が多数観察される。
Flame cell様の形態を示すもの(右下)も観察される。

図5B 骨髄塗抹(ライトギムザ染色)​

図5B
猫、骨髄、強拡大
比較的分化した形質細胞様の腫瘍細胞が多数観察される(矢頭)。

図5C 病理組織(HE染色)/免疫組織化学(抗MUM-1抗体)/免疫組織化学(抗gλ鎖抗体)

図5C
猫、皮下腫瘤
免疫染色によって腫瘍細胞は形質細胞のマーカーであるMUM-1および免疫グロブリン(Ig)のλ鎖に陽性であった。

さいごに

今回のコラムでは犬猫の形質細胞腫瘍について解説しました。
形質細胞腫瘍は細胞の形態によらず、臨床的な挙動が緩徐なものから悪いものまで様々です。
的確な診断が適切なインフォームドコンセントや治療につながると思われます。
本コラムによって皆様の形質細胞腫瘍に対する理解が少しでも深まりましたら幸いです。

参考文献 

1)E Valli (2007):Plasmacytoma and Multiple Myeloma. In Veterinary Comparative Hematopathology, Blackwell publishing, Iowa. 

2)P Mellor, et al. (2006):Myeloma -Related disorders in cats commonly present as extramedullary neoplasms in contrast to myeloma in human patients:24 cases with clinical follow-up. J Vet Intern Med. 20,6, 1376-1383. 

3)P Mellor, et al. (2008):Histopathologic, immunohistochemical, and cytologic analysis of feline myeloma-related disorders:further evidence for primary extramedullary development in the cat. Vet Pathol. 45(2), 159-173. 

【執筆:富士フイルムVETシステムズ 診断医 野上 英】

VETEVITA 最新号をお届けします

メールアドレスをご登録いただくと、富士フイルムVETシステムズの広報誌「VETEVITA(ベテビータ)」の最新号の発刊に合わせて定期的にご案内いたします。

  • * 獣医療従事者の方に限ります。

ペットオーナーさまへの案内にご利用ください

ペットオーナーさま向けに、犬・猫などの健康情報やペットライフを充実させる情報サイトをオープンしました。ぜひペットオーナーさまへの定期的な健康診断や病気の早期発見の大切さを伝える情報としてご活用ください。このページへのリンクはフリーです。SNSや貴院ホームページからのリンク先としてご利用いただけます。