干渉計の概念
シャボン玉や、水たまりに浮かんだ油に色が付いて見えることは、身近に観察できる干渉現象の代表例です。この干渉現象を利用して長さを測定したり、光のスペクトル解析を行う装置が干渉計です。干渉計は光源から出た光を2つの光に分割し、一つの光は30nm以下の凹凸で高精度な平面測定用基準板、もしくは球面測定用基準レンズのコートされている基準面に到達し反射します。もう一つの光は基準面を透過後、測定サンプルに到達して反射します。基準面からの反射光と測定サンプルからの反射光は元の光路を逆戻りし、その光路差によって干渉縞が発生します。干渉縞を見ることにより測定サンプルの表面形状や透過波面形状を測定できます。
干渉縞の間隔
干渉計は光の波長を物差しとしているので、高精度な測定を行える特長がある。観察される明暗の縞は等高線となっており、その間隔は光源の波長と入射角により決定される。通常、光は被検面に対して垂直に入射するが、その時の等高線間隔は波長の半分となる。斜め入射の場合には、入射角に比例して等高線間隔が広くなる。つまり低感度となる。
干渉縞の見方
画面に出ている干渉縞は基準レンズに対して約0.3μmの高さごとの等高線です。被検面の球面度が非常に良い場合、縞は直線になり、調整次第で縞は0本になります。干渉縞0本の状態から、5軸調整台の左右つまみを少し回すと縦方向の干渉縞が現れます。前後つまみを少し回すと横方向発散レンズ の干渉縞が現れます。また、5軸調整台の上下つまみを少し回すと、同心円状の干渉縞が現れます。
球面度の良い試料の左右方向の移動と干渉縞の対応
測定サンプルの面精度が非常に良い場合、全面が同じ明るさとなり、測定サンプルを傾けると、傾ける方向と直交する等間隔の直線干渉縞が現れます。
試料にわずかな球面からのズレがある場合、干渉縞は曲がります。曲がり具合が大きい程、凹凸が大きいことを意味します。
球面からの外れ量が大きい場合の左右方向の移動と干渉縞の対応
測定サンプルが緩やかな球面であれば、不等間隔で同芯円の干渉縞が現れ、測定サンプルを傾けると同芯円の中心が移動します。
代表的な干渉計
干渉計にはさまざまな種類のものがあり、用途に応じて使い分けられているが、ここでは形状測定用の代表的な干渉計ついて簡単に説明します。
フィゾー干渉計
- レーザーを光源とし、簡単な構成で高精度の平面測定、球面測定が行えるため、最も普及している干渉計。
- レーザービームは発散レンズ、ビームスプリッター、コリメーターレンズを透過した後に平行光となり、高精度な基準板(平面ガラス板)に到達します。
- 基準板に到達した一部の光は参照面(基準板の下側の面)で反射し、残りの光は基準板を透過した後に測定物の面に到達して反射します。
- 参照面からの反射光と被検面からの反射光は元の光路を逆戻りし、その光路差によって干渉縞が発生します。
フィゾー干渉計の構成
平面測定用フィゾー干渉計(フジノンF601平面システム)
平面測定用フィゾー干渉計(フジノンG102)
フィゾー干渉計による球面の測定
右図に示すように、基準板の代わりに基準レンズを用いることにより、球面の測定が可能となる。基準レンズは、その最終面が精度良く研磨された球面となっており、これが参照面となる。ここでも参照面が光の分割手段となっている。したがって、レーザー光は参照面に垂直に入射し、一部が反射、残りは垂直に出射して被検面(球面)へ到達する。
被検面の位置(参照面と被検面の距離)を調整し、参照面から出射した光が被検面に垂直に入射するようにすれば、被検面からの光がもと来た光路を逆戻りし、参照面からの反射光と干渉して、被検面の面形状を測定できる。また、参照面から出射した光が1点に集まる点(通常、キャッツアイポイントと呼ばれる点、図中で被検面が点線で示されている位置)に被検面を置くと、反射光の波面が180度回転した形で基準レンズに戻り、参照面からの反射光と干渉して、ここでも干渉縞が観察できる。干渉縞が観察できるのは、これら2つの点に被検面が置かれている場合のみであり、他の位置では干渉縞が細かくなって事実上観察できない。この2点間の距離を測定することにより、被検面の曲率半径(R)を求めることができる。図では凹面を測定する状態を示しているが、凸面の場合にはキャッツアイポイントと参照面の間に被検面を置く必要がある。
フジノンF601球面システムは口径60mmの球面測定用フィゾー干渉計である。
F601用基準レンズ
被検面の曲率半径に応じて、6種類の基準レンズから最適なレンズを選択できる。基準レンズの参照面は通常λ/10以下の精度でできている。
|
|
測定範囲(曲率半径)(mm) |
測定最大口径(mm) |
||
---|---|---|---|---|---|
F ナンバー |
レンズ最終面曲率半径(mm) |
凸 |
凹 |
凸 |
凹 |
0.6 |
17 |
2 - 17 |
3 - 103 |
27 |
120 |
0.7 |
23 |
3 - 23 |
4 - 97 |
32 |
120 |
1.0 |
43 |
5 - 43 |
7 - 77 (130) |
40 |
72 (120) |
1.4 |
65 |
9 - 65 |
14 - 75 (170) |
46 |
53 (120) |
2.0 |
105 |
16 - 105 |
31 - 38 (255) |
53 |
19 (120) |
2.8 |
150 |
30 (0) - 150 |
- (0 - 210) |
53 |
- (75) |
5.6 |
270 |
150 (125) - 270 |
- (0 - 90) |
48 |
- (16) |
8.0 |
442 |
320 (90) - 440 |
- |
55 |
- |
干渉縞の数値解析
干渉縞写真を見れば被検面の大まかな形状や平面度(あるいは球面度)が分かるが、複雑な形の干渉縞の場合には専用の解析装置が必要である。干渉縞解析装置は、CCD上の干渉縞画像をコンピュータに取り込み、各点の光の位相を求め、形状を計算する装置である。 位相を求める方法にはいくつかの方法があるが、ここではフリンジスキャン法とフーリエ変換法について簡単に解説する。
干渉計で得られる干渉縞は、通常、明るさが正弦波状に変化する干渉縞である。したがって、着目する点の明るさが分かれば、その点の初期位相が分かり、光路差(高さの情報)が得られる。しかしながら、1枚の干渉縞画像から明るさを決定し、初期位相を決定するのは、画面のシェーディングやノイズがあって難しい。初期位相を正確に求めるために考案された方法がフリンジスキャン法である。
参照面または被検面を光軸方向に少し移動すると、両者の間隔が変化し、それに伴って干渉縞が変化して見える。実際には干渉縞全体の形は変わらないが、各点に注目すると明暗が周期的に変化し、干渉縞が走査されて見える。
干渉縞がちょうど1周期分(2π)走査されるだけ参照面と被検面の間隔を変化させ、その間に、例えば干渉縞がπ/2(1縞の1/4)走査されるごとに4回画像を取り込んで(4ステップ法)、その明るさの変化から初期位相を計算する。着目する点の明るさが、I0、I1、I2、I3と変化した時、初期位相(Φ)は、
となる。ただし、Φは-π~πの間の値となるので、隣り合う点に2πの位相飛びがある場合には、2πを足したり引いたりして、位相を繋ぎ合わせる必要がある。この操作を位相接続(位相アンラップ)という。
すべての点についてΦを計算し、これらを繋ぎ合わせれば全体の位相が求まり、これを長さに換算すれば、形状を求めることができる。
なお、フリンジスキャンするためには参照面をピエゾ素子で機械的に動かす必要があり、専用のフリンジスキャンアダプタを干渉計に付加する必要がある。フリンジスキャン法では上記4ステップアルゴリズム以外にも、3ステップ、5ステップ、7ステップなどいろいろなアルゴリズムが考案されている。それぞれに特徴があるが、いずれも高精度な測定が可能である。
下に、π/2毎に取り込んだ4枚の画像と、この画像から位相を計算し、位相接続を行った結果の鳥瞰図を示す。このような一連の操作を自動的に行うものが干渉縞解析装置である。
参照面あるいは被検面を少し傾けると傾きによる干渉縞が発生し、被検面の形状を表す干渉縞にキャリアーとなる干渉縞を重ねることができる。この干渉縞画像を2次元フーリエ変換すると、被検面の情報を含むゆるやかに変化する成分と、画像のバイアス成分(ノイズやシェーディング)をスペクトル分離することができ、被検面の情報を含むスペクトルのみを取りだして空間周波数領域で原点に戻し、逆フーリエ変換すると被検面の位相情報を求めることができる。
フーリエ変換法の場合も,求まる位相は-π~πの間の値であり,やはり位相接続を行う必要がある。
フーリエ変換法の特徴は1回の画像取り込みで解析を行えることや,フリンジスキャンのメカニズムが必要ないことであるが、撮像系の収差などで画像に歪みがあると解析精度が低下する点に注意が必要である。
応用測定例
フィゾー干渉計G102と縞解析装置A1によるガラス表面形状測定例を示す。左上が干渉縞画像、右上が鳥瞰図、左下が等高線図、右下が断面図である。フロートガラスを測定した例であり、表面が波打っている状態が良く分かる。
ここで、P-V値とは測定範囲内での最も高い点(peak)と最も低い点(valley)の差であり、RMS値(root mean square)とは標準偏差である。
フィゾー干渉計による光ピックアップ用対物レンズの透過波面測定光学系を示す。光ピックアップ用対物レンズは両面非球面レンズで収差が非常に良く補正されており、平面波(球面波)を入射させると、収差の非常に少ない球面波を出射する。したがって、無限系対物レンズの場合には干渉計から出射される平面波を被検レンズに入射させ、レンズを透過した光束を参照球面で折り返すことにより、透過波面収差が測定できる。また、有限系レンズの場合には干渉計から出射した平行光をコリメーターレンズによりいったん収斂光→発散光として被検レンズに入射させ、透過した光束を同様に参照球面で折り返すことにより透過波面収差が測定できる。有限レンズの場合には、コリメーターレンズの焦点と被検レンズの物点を正しく一致させる必要があり、コリメーターレンズが組み込まれた専用の治具を必要とする。
FI251Nと解析装置A1による光ピックアップ用対物レンズの透過波面解析例を示す。レンズの透過波面測定の場合には3次収差が重要であるが、この解析装置では波面全面のP-V値やRMS値の他、3次収差量、つまり、「傾き(ティルト)」、「焦点移動(デフォーカス)」、「非点収差(アス)」、「コマ収差」、「球面収差」の各量を計算するプログラムとなっている。 右に表示されているのが3次収差を示すウインドウである。ここで、「傾き」と「焦点移動」は干渉計-レンズ-参照球面のアライメントに起因する問題であり、これらはあまり重要ではない。レンズ検査においては、「非点収差」、「コマ収差」、「球面収差」の3つの収差が問題となり、その量と方向を調べることが重要である。
まとめ
干渉計は、研磨面であればガラスのみならず金属やプラスチック,セラミックなどの表面形状(平面、球面、円筒面、回転2次曲面、非球面など)を測定可能であり、また、レンズの透過波面形状も簡単に測定することができる。
このため、干渉計は光学業界のみならずさまざまな分野で活躍している。
応用例
- カメラレンズ、コピー機用レンズ、ピックアップ用対物レンズをはじめとする光記録光学系用レンズ、光通信用レンズ、コンタクトレンズなど、各種ガラス、プラスチックレンズの表面形状測定や透過波面形状測定。
- ミラー、フィルター、プリズム、液晶用ガラス、ガラスディスク、光記録光学系用ガラス部品、コーナーキューブ、ホログラム素子など、板物の表面形状測定や透過波面測定。
- 金属あるいはセラミック製シール部品表面、金属製電気部品、刃物、ギア、ボールベアリング表面などの各種メカ、電気部品の形状測定。
レーザー干渉計総合カタログ
PDF: 3.5MB