1200×1200dpiの解像度を持つシングルパス・インクジェットプリンター「Jet Press」の開発でさまざまなトラブルを経験した富士フイルムの技術者が、試行錯誤の中でわかった技術課題と対策についてご紹介します。
本記事の「3つのポイント」
- 高解像度シングルパス・IJプリンター開発ではスジ・ムラは大きな技術課題
- スジ・ムラの発生原因は多岐にわたり、体系的な理解、分析が必要
- スジ・ムラの傾向と対策を把握することで、IJプリンター開発が効率的に
シングルパスインクジェットプリンター開発において典型的な画像欠陥であるスジ・ムラ(下図イメージ参照)。高画質を目指した高解像度プリンターでは、一般的にドットが小さく、細かいスジが見えやすい傾向にあり、特に大きな課題となります。
Jet Press開発でも開発初期段階に多発し、一時は開発工数の5割以上を占めていました。
例えば、着弾位置が悪いノズルが一つでもあるとスジ状の画像欠陥が発生してしまうことがあります。着弾位置が悪くなる要因を特定し、対策を打つ必要があるわけですが、その要因は、経時劣化からメンテナンス時のワイピングによる不良ノズルの生成、材料、システム起因と多岐にわたります。もちろん、基材搬送時に付くキズによるスジのように、着弾位置が正常でも発生する場合もあります。ムラに関しても同様です。
さまざまな要因で発生するスジ・ムラに迅速に対応し、効率的にプリンター開発を進めていただけるよう、本シリーズでは、スジ・ムラ要因の体系的なとらえ方と対策例についてご紹介します。
まずは情報収集を網羅的に。スジ・ムラは現場で起こっている!
スジ・ムラ対策を考える上で、第一に重要なことは、その発生状況について十分な情報を収集することです。このとき4W1Hを意識して解析することで、大まかにスジ・ムラの原因を推測することができます。
大切なことは、網羅的に情報を集めることです。インクジェットプリンター開発では、一見関係のない事象が支配因子であることがあります。Whyを先に考えてしまうと、視野が狭まり、支配因子を見落とす可能性があります。当社もJet Press開発において、幾度もスジ・ムラの品質問題に直面しましたが、その経験から、確かな事実情報の収集が最も重要であると痛感しています。
では、富士フイルムではどんなふうにスジ・ムラの発生状況の情報を集めているのか、具体的にご紹介します。
経験をもとにさまざまな観点で事実情報を整理、原因を特定する
対策を検討する前段階として「何が原因か」を特定するため、富士フイルムではさまざまな切り口で事実情報の整理、切り分けを行っています。
ここで3つのケースを挙げて、アプローチの仕方を見てみましょう。全て見た目上は類似した濃度ムラ(What)で、印刷開始時に発生し繰り返し性があり(When)、印刷物上の発生か所も類似しています(Where)。ケース1は特定色のプリントバーに集中して濃度ムラが発生、ケース2/3は全色で発生しています(Who)。ムラの特徴(What)や発生タイミング(When)は類似していますが、発生か所を見ると差分を抽出できました(Where)。さらに、切り分け実験として搬送速度を変えてみたところ、現象に大きな変化が生じました(How)。この場合、プリントバーの締結不良に起因した濃度ムラである可能性が高いと推定できます。実際には、その他さまざまなパラメーターや事象を抽出・評価し原因を特定する必要があります。
要素実験に戻って要因を探ることや、要因と関係のない方法での課題解決も
こうして得られた情報をもとに、大きく要因を切り分け、さらに詳細に分析してスジ・ムラの原因を特定していきます。
Jet Pressの開発では、これらがうまく特定でき、簡単に対策を実施できる幸運なケースもあれば、特定ができても対策が困難なケース、特定すら困難なケースも多々ありました。そこで富士フイルムでは、詳細な分析はもちろん、時には要素実験まで戻り、時には要因とは直接関係のない機能で課題を解決することで、現在では安定した高画質が得られるようになっています。
迅速な原因の特定・解決に至るには、長年の試行錯誤が必要でした
Jet Press開発を通じ、原因特定から対策までの幅広い知見やデータ解析の技術を蓄積している富士フイルムでは、プリンターを開発する皆さまの開発をサポートし、インクジェット業界の発展に貢献することができると考えています。今後、このシリーズではスジ・ムラの具体的なトラブルを取り上げ、その原因と対策例についてご紹介していきます。ぜひご期待ください。
また、スジ・ムラに関するご質問、ご相談がございましたら、下記お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。