このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。
カルシウムの異常値を示した症例の精査にはintact PTH測定が必須です。
以前からintact PTHの測定を行うこと自体は可能でありましたが、一部の症例では予想と異なる結果となり判断に迷う場面がありました。例えば高カルシウム症状を呈しており、エコー検査で上皮小体の腫大を認めたがintact PTHは正常下限値を示す場合などです。
これには以前の検査で用いられていた試薬が関与しており、ヒトでの特異度を上昇させた結果として犬の検体では反応しなくなった可能性が考えられます。この問題点に対応する為に試薬の変更が行われました。以下は富士フイルムVETシステムズ株式会社(以下、富士フイルム)における変更前後での内容です。(表1)
<変更日>2022 年5月16 日(月)報告分より
<変更理由>測定感度向上のため
変更内容 | 変更前 | 変更後 |
---|---|---|
測定方法 | CLEIA法 | EIA法 |
参考基準範囲 | 犬:8~35pg/mL 猫:8~25pg/mL |
犬:1.4~16.2pg/mL 猫:3.1~19.8pg/mL |
測定方法の変更に伴い参考基準範囲も見直されました。
CASE 1 旧法,新法でそれぞれ測定したintact PTHの比較を行った上皮小体機能亢進症の犬
半年前に他院で実施の健康診断にて高Ca血症(15.1mg/dl)を認め原因精査目的で当院受診されました。初診時の血液検査はCa 14.2mg/dl、P 2.7mg/dl、Alb 4.0mg/dlでした。
エコー検査にて右内上皮小体の腫大を認めたことから上皮小体機能亢進症を疑いintact PTH(旧法)の測定を実施しました。イオン化Ca は上昇1.83mmol/L(参考基準範囲;1.24-1.56mmol/L)を認めましたが、intact PTHは7.7 pg/ml(参考基準範囲;8-35 pg/ml)となり、PTH-rpは<1.0 pmo/Lとなりました。
旧法での測定結果ではイオン化Caの上昇があるもののintact PTHの抑制が弱いと思われましたが、明確にintact PTH活性が亢進しているとは断言できない結果でした。そこでintact PTHが新法に変わったタイミングで再度測定を行いました(表2)。
測定項目 | intact PTH(pg/mL) | イオン化Ca(mmol/L) | Ca(mg/dL) | IP(mg/dL) | |
---|---|---|---|---|---|
旧法 | 新法 | ||||
測定値 | 12.7 | 23.4 | 1.74 | 11.9 | 3.1 |
旧法では参考基準範囲を示しましたが、新法では高値を示したことより原発性の上皮小体機能亢進症と診断しました。
再測定時は旧法においてもイオン化Caが高値にも関わらずintact PTHが基準範囲内を示したことより負のフィードバックによる抑制が不十分=intact PTHの上昇ありと判断可能な結果となりました。
一方、新法ではイオン化Caが高値の時にintact PTHも高値となったことから、より自信を持って上皮小体機能亢進症と判断できるようになりました。
本症例は新法による感度上昇を実感した症例と言えます。
新法利用の際の注意点としては、参考基準範囲が旧法と比較し狭くなった点、ヒトと比較した感度の研究データがない点が挙げられます。
またintact PTH上昇は慢性腎臓病やクッシング症候群などに続発する形でも起こります。慢性腎臓病の犬ではIRIS Stage1で36.4%、Stage4で100%の割合でintact PTH上昇が起きていたと報告されています1。またクッシング症候群の犬ではCa値は正常なものの、治療前のintact PTHは正常犬と比較し高値を示し、トリロスタン治療により正常犬とほぼ同じ値まで低下したと報告されています。
そのためintact PTH値の解釈はその他のスクリーニング検査結果とあわせ総合的な判断となります。
リニューアルしたintact PTHをご紹介しました。我々獣医師が日々勉強、経験により成長しているように「検査」も日々より良い形に成長しています。検査項目は臨床獣医師にとっての相談相手であり、今回はその相談相手の成長を紹介いたしました。旧法の欠点ゆえにintact PTH測定から遠のいていた読者の先生方も新法での測定を一度トライしてみてください。
参考文献
- Cortadellas O , Fernández del Palacio MJ , Talavera J , et all
J Vet Intern Med. 2010 Jan
Feb;24(1):73 9.
Calcium and phosphorus homeostasis in dogs with spontaneous chronic kidney disease at different stages of severity. - Tebb AJ , Arteaga A , Evans H , et all
J Small Anim Pract . 2005 Nov;46(11):537 42.
Canine hyperadrenocorticism: effects of trilostane on parathyroid hormone, calcium and phosphate concentrations.
2014年 北里大学卒業 都内動物病院勤務し一般診療に従事
2015年 日本獣医生命科学大学内分泌科研究生に所属、左向先生、森先生らに指導いただく
2017年 動物救急センター府中にて2次診療、救急医療に従事
2020年 同施設にて主任を務める
2021年 三鷹中央どうぶつ病院開業
日本獣医生命科学大学内分泌科大学院研究生に所属
大学時代は病理学研究室に所属していた。当時の准教授と共にフィリピンの研究所に出向き、狂犬病感染犬を解剖し研究を行った。現在、都内で動物病院を開業し一般診療を行いながら森先生指導の元でマイクロバイオームの研究を行っている。