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動物医療コラム

【健康診断の活用】
基準範囲での変化、それって意味のある変化ですか?

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

掲載記事は掲載日時点の情報であり、記事の内容などは最新の情報とは異なる場合があります。

一見問題のなさそうな会話だけど… その結果の解釈本当に大丈夫?

オーナー様と獣医師の会話イメージ

ある猫の患者さんの健康診断を実施したところ、クレアチニンの値が前年は1.0mg/dLだったのが、今年は1.4mg/dLだったとします。この変化は意味があるでしょうか?ないでしょうか?

富士フイルムVETシステムズでは猫のクレアチニンの基準範囲を0.9-2.1mg/dLとしています。

今回の猫の患者さんの結果はいずれも基準範囲内ですので、その観点で見れば問題ないように思えます。しかし、実際にはこの結果の解釈には注意が必要です。

重要な観点は「前回からどう変わったか」

チェックポイントのイメージ

特に病的な変化がなくても、個体の検査値は生理的変動の中で揺れ動きます。なので、2回の検査の結果はぴったり同じにはならず、ある程度の幅があるのが普通です。逆に言えば、その幅を超えた検査値は病的な変化の可能性があるということになります。

一方、一般的に用いられる基準範囲は多数の健康な個体の測定結果から得られるものです。これは生理的変動のほかに個体差を反映しますが、検査項目によっては個体差の影響が大きく、生理的変動を超えるような変化であっても基準範囲内にとどまってしまうことがあります。クレアチニンはそのような検査項目の代表例で、基準範囲による評価では病的な変化を十分に捉えることができません。

仮に、ある個体の血液検査を1週間毎日実施したとすると…

健康な個体がとり得る検査値の幅=個体の基準範囲

理想的には、健康な時に検査を繰り返し、個体ごとの検査値の変動幅を求めておけば、それが「個体の基準範囲」となります。しかし、実際には個体ごとに基準範囲を決めるというのは難しいと思います。そこで、2回の連続した検査値が有意に変化したかどうかを判定するための指標として、基準変化値(Reference change value: RCV)が提唱されています。

 報告によって多少幅はありますが、猫のクレアチニンの基準変化値はおよそ30%(17.4~31.5%)とされています1~5。これは2回の連続した測定値の変化が30%を超えれば、基準範囲内での変化であっても生理的変動を超えた有意な変化であると判定できることを意味します。脱水などの一時的な要因でも変化しますので、生理的変動を超えていることが必ずしも病的な変化とは限りませんが、比較的短い間隔で再検査を実施するなどの慎重な対応が求められます。

昨年の健康診断でのクレアチニンが1.0mg/dL、今年の健康診断でのクレアチニンが1.4mg/dLだった場合、((1.4mg/dL-1.0mg/dL)/1.0mg/dL)×100=40% 猫のクレアチニンの基準変化値30%を超えた変化なのでこの変化は有意であると判断される

このように基準変化値を用いることで、基準範囲内の変化であっても有意な変化であることを客観的に示すことができます。特にクレアチニンについては、IRISの慢性腎臓病の診断基準にも「クレアチニン(あるいはSDMA)の基準範囲内での上昇」とありますので、このような指標を積極的に活用していくことが必要です。

当社の健診データから算出した個体内変動や基準変化値に関する論文がVet Clin Pathol誌に掲載されました。ご興味のある方はご一読ください。

参考文献

  1. Baral RM, Dhand NK, Freeman KP, Krockenberger MB, Govendir M. Biological variation and reference change values of feline plasma biochemistry analytes. J Feline Med Surg. 2014;16 (4):317-325.
  2. Falkenö U, Hillström A, von Brömssen C, Strage EM. Biological variation of 20 analytes measured in serum from clinically healthy domestic cats. J Vet Diagn Invest. 2016;28 (6):699-704.
  3. Trumel C, Monzali C, Geffré A, Concordet DV, Hourqueig L, Braun J-PD, Bourgès-Abella NH. Hematologic and Biochemical Biologic Variation in Laboratory Cats. J Am Assoc Lab Anim Sci. 2016;55 (5):503-509.
  4. Prieto JM, Carney PC, Miller ML, Rishniw M, Randolph JF, Farace G, Bilbrough G, Yerramilli M, Peterson ME. Biologic variation of symmetric dimethylarginine and creatinine in clinically healthy cats. Vet Clin Pathol. 2020; 49(3):401-6.
  5. Tamamoto T, Miki Y, Sakamoto M, Yoshii M, Yamada M, Sudo D, Fusato Y, Ozawa J, Satake C. Biological variation of 16 biochemical analytes estimated from a large clinicopathologic database of dogs and cats. Vet Clin Pathol. 2024; Online ahead of print.

【富士フイルムVETシステムズ広報誌2024年秋号掲載記事より】

記事の執筆担当

執筆者イメージ

玉本 隆司 獣医師、獣医学博士 

2002年 東京大学入学 
2005年より獣医内科学研究室に所属し、辻本先生、大野先生、松木先生らの薫陶を受ける。 
2008年に大学卒業後、埼玉の動物病院で2年間一次診療に従事。 
2010年に東京大学大学院農学生命科学研究科に進学。獣医内科学研究室で研究に励む傍ら、附属動物医療センターでの診療にも従事する。 
2014年に酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニットに助教として赴任。附属動物医療センターでの内科診療を担う。2016年より同講師、2019年より同准教授。2017年より内科診療科長、2020年副センター長。 
2021年に大学を退職し、富士フイルムVETシステムズ株式会社に入社。 
2024年逝去。生前、多くの功績を残し、業界内外から高く評価される。

大学時代の主要な研究テーマは「炎症マーカーの臨床活用」で、特に猫の炎症マーカーであるSAAの臨床応用や基礎研究を精力的に行った。 
診療については「専門性がないのが専門」と言いながら、内科全般をオールラウンドにこなし、その中でも免疫介在性疾患や感染症に強い関心を持っていた。

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