がん手術など、病変の摘出が必要となる手術では、患者だけでなく医師にも大きな負担がかかります。
そこへ最先端の画像認識技術を導入すれば、より短時間で、より高精度に切除範囲を特定することが可能に。
手術前のシミュレーションにおける医師への負荷軽減に貢献します。また、医師により切除範囲を最小限に留めることができれば、患者の手術後の生活への影響も小さくなり、患者への寄与も期待されます。
時間と労力を要する、外科手術の術前計画
世界は慢性的な医師不足に直面しています。保健指標評価研究所(IHME)によると、世界では約640万人の医師不足*1と推測されており、外科領域においても、現場にかかる負担は増える一方と言われています。
がんなどの病気により摘出手術が必要となる場合、外科医は、状況に応じた手術方法の検討、患部と神経/血管との相関性の把握などのため、手術前に術前計画を立てます。従来は、外科医がCTやMRIで取得した何百枚もの2D断層画像を自らの目で確認し、患部の位置や形状、血管との位置関係などを想像していました。いわば、何時間もかけて頭の中で画像を3D化していたのです。こうした作業は外科医にとって、大きな負担となっていました。
手術における医師と患者の負担を軽減したい
「FUJIFILM Healthcare Europe」のChristophe Fleury(以下Christophe)は、欧州を中心に外科領域への3D医療画像解析システムの導入を進めています。
――Christophe
私は、3D医療画像解析システムの開発段階から携わってきました。今は、「外科医」と「同システムを開発するIT技術者」との橋渡しのような役割を担っています。この仕事の最大のやりがいは、医師から求められる機能を開発することで、医師だけでなく患者もまたサポートできることです。
新しいテクノロジーの活用により、手術の精度と効率性が高まることで、より多くの患者が、より良い治療を受けられるようになります。我々のテクノロジーで外科医や患者の問題を解決し、人々の健康に貢献できればと考えています。
切除する範囲をより高精度に特定することが可能に
――Christophe
3D医療画像解析システムを使うと、2〜3分程度でCTやMRIの断層画像から高精度な3D画像が生成され、色々な角度から見られるようになります。エリアごとに選択して、透過、色付けなども可能に。手術室に入る前に手術をシミュレーションできて、チーム内で患者の状況を共有するのにも役立ちます。
3D医療画像解析システムは主に、肺、腎臓、肝臓、膵臓、大腸のがん手術に用いられることが多いです。血管の位置をより高精度に把握できるだけでなく、「肝動脈(大動脈から肝臓へ酸素を送る血管)を消せたら、門脈枝(各臓器から肝臓に入っていく血管)が見やすくなる」といった外科医の細かな要望にも対応できます。
手術前の計画でこれを用いれば、外科医はわずかな時間で、患者の具体的な解剖学的構造を立体的に把握することが可能に。医師が患部をより高精度に特定できれば、切除範囲を最小限に留めることが期待されるため、手術後の生活への影響を軽減することにもつながります。
このほかにもメリットとなるのが、患者に手術内容を説明する際の活用です。病態や手術方法を患者自身に理解してもらうことが、治療や手術後のケアへの積極的な参加につながります。
――Christophe
3D医療画像解析システムが、外科領域ではまだ一般的でなかった2010年頃。私たちは、十数名の外科医たちを招き、同システムに関するプレゼンテーションを行いました。
私たちの開発したシステムは、画期的なソリューションであるという自負がありましたが、外科医たちからの評価は未知数でした。私がプレゼンを終えて壇上から下りると、一人の医師が駆け寄ってきて興奮気味に言いました。「できるだけ早く、このシステムを自分の病院で使いたい」と。
彼は、当社の3D医療画像解析システムを欧州で初めて採用した外科医となりました。
最先端の手術を手がける外科医から、「自身にとっても、患者にとっても有益である」と認めていただけたことで、私は、自分たちが提案するソリューションは間違っていないと確信しました。これからも、これまで以上にすべての外科医の力になれるよう、技術者とともにこのシステムを進化させていきたいと考えています。
より多くの人の未来を救えると信じている
――Christophe
テクノロジーは、社会のあらゆるシーンで私たちを支えています。
それは、普段目に触れないような医療の分野においても、ますます重要な役割を果たしていくことでしょう。
私は医師ではないので、外科医のように目の前の患者を助けることはできません。
しかし、富士フイルムの技術と製品で手術を効率化し、医師の負担を軽減できれば、より多くの人々の未来を救う手助けができると信じています。
そして、今日も離れたところから、私は外科医と一緒に手術に携わっていきます。
富士フイルムは、2008年より3D画像解析システムの提供を開始。過去70年以上にわたり追求し続けてきた画像処理技術を医療分野に応用し、世界中の医師と患者を支援しています。MRIデータからの自動抽出や、脈管系の抽出機能の充実は、長年の蓄積データがあってこそ。そして、3D医療画像解析システムにおけるAI技術*2のさらなる充実化に向け、歩みを進めています。
Deep Learning(深層学習)は、人の脳が行う情報処理の仕組みをアルゴリズムに取り入れた、AIにおける機械学習のひとつです。大量のデータをAIに学習させることで、複雑な認識アルゴリズムを構築することができます。富士フイルムの3D医療画像解析システムにおいても、臓器などの画像データを大量に取り込ませることで、システムが自動的に特徴を理解。対象画像や領域から疾患が疑われる個所を検出・計測する技術として開発・運用を進めています。
医師と患者の負担を軽減するソリューションで
医療における課題解決に挑み続けます。
「予防」「診断」「治療」のすべての領域で事業を展開
富士フイルムは、1936年のX線フィルム発売以来、X線画像診断装置、超音波診断装置、内視鏡、MRI、CTなど、「診断」分野において幅広い製品を展開してきました。さらに、写真フィルムで培った技術を応用し、抗体医薬品やワクチンなどのバイオ医薬品の開発・製造受託や、医薬品の開発に欠かせない基幹材料の提供を中心に、「予防」「治療」の分野でもビジネスを拡大。これからも、幅広い技術と知見を人々の健康に繋げる「トータルヘルスケアカンパニー」として、医療の発展に貢献していきます。