コラム

WEBマーケティング新時代
~成果が出るパーソナライズ実践事例~ 後編

アドビ株式会社 様

マーケティングの手法として注目を集めている「パーソナライズ」。なぜ、パーソナライズが求められるのか?パーソナライズを実施するには何をどう進めれば良いのか?そんな、企業のマーケティング担当者のみなさまのお悩みを解消すべく、アドビ株式会社さまにお話をお聞きしました。

アドビ株式会社 望月 ありさ氏

デジタルエクスペリエンス事業本部 ソリューションコンサルティング部

プロフィール

ウェブ制作・アクセス解析からキャリアをスタートし、プロジェクトマネジメント、運用組織・業務設計、品質管理など、長年大企業のオウンドメディア運用支援に携わる。その後、東京理科大学大学院にてMOTを取得。お客様と一緒に、ビジネスとテクノロジーの両面から心躍る顧客体験の創造を目指す。

前編では、現在の情勢や個人情報保護などの観点からも、マーケティングの潮流として外せないパーソナライズが、企業が果たすべき責任と言えるところをご理解いただきました。後編では、実際にパーソナライズを始めるにはどうすれば良いのか、どんな仕組みをどんな基準で選んだら良いのか、をご説明いたします。

視点コンテンツのパーソナライズが「企業の責任」になる

すでにパーソナライズの仕組みを導入している企業さまから、せっかく導入されたにも関わらず、リプレイスするご相談を、時折いただくことがあります。 仕組みの選定、運用、定着には時間もお金もかかりますので、リプレイスの検討は避けたいところ。しっかりと成果の出るパーソナライズを実現するためには、みなさまの「想像力」が大切です。導入までの道のりや選び方などに「想像力」がなぜ役立つのか、まずはこちらをご確認ください。

いつ、どこで、誰に、何を伝えたいのかを想像する

パーソナライズの施策を行う際に、日々サイトやアプリを運用しているデザイナーやコーダーの方、イベントやキャンペーンを企画しているマーケティングの方であれば、ここはパーソナライズした方がいいのでは、と思っているコンテンツが、きっとひとつはあると思います。ここでは、みなさまがアパレルのECサイトの担当者であると仮定し、①男性には男性カテゴリの商品をメインに、女性には女性カテゴリの商品をメインで見せたい 、②1週間に10回以上訪問している方に、特別な割引クーポンを見せたい、 という2つのパーソナライズ施策をやりたい、と考えたとします。これを詳細化していくと、以下のようになります。

これをもう少し嚙み砕くと、以下となります。

まずここをイメージしていただくのが最低限の第1ステップとなります。ここがクリアであればあるほど、仕組みの選定の失敗は少なくなります。 なぜなら、何をパーソナライズの仕組みに求めているのかの機能要件を洗い出すこともできなければ、どんな関係者がいて、どのようなフローが必要なのかという非機能要件も洗い出せないからです。

パーソナライズの仕組みに求める機能要件

まず、パーソナライズの仕組みに求める機能要件から整理してみます。図2の「いつ」に注目します。①の要件では、ウェブサイト・モバイルサイト訪問時となっていますが、②にはこれにアプリが追加されました。つまり、パーソナライズを実現するチャネルとして、ウェブサイト、モバイルサイト、アプリが対象となる、ということを意味しています。

また、今後の拡張性として、その他のチャネル、例えば店舗のサイネージやスマートウォッチなども考えられるとすると、こちらも検討として含める必要があるでしょう。あとは、この要件に、実店舗にチェックインした時にも同じクーポンを表示したい、更にはその実店舗の位置情報を取得して、クーポンを出し分けたい、など、実は施策は重ねれば重ねるほど、やりたいことや試したいことが増えていきます。このため、できるだけ想像力を働かせ、仕組みの機能要件にどこまでを含めるか、今後施策が発展していった際に簡単に拡張する余地があるのかを確認しておくと、失敗は少なくなります。

次に、「誰に」に注目します。①では、「男性または女性」という性別、いわゆる顧客の属性情報を元にパーソナライズを考えていますが、②では、「1週間にウェブまたはモバイルサイトに10回以上訪問している」と、顧客の行動情報が元になっています。これも、どちらをどのように使用するのか、あるいは両方使用できるのかなどを確認しておく必要があります。

特に、ここでは実際の仕組みを使用したデモを行なってもらい、その手順まで確認することをお勧めいたします。なぜなら、仕組みによって、頻繁にスクリプトやコードを書かないといけないケースがあるからです。社内にエンジニアがいる企業は問題ないと思いますが、必ずしもそういう方がいらっしゃるとは限らないと思いますので、注意が必要です。

パーソナライズに重要なのは、顧客の属性情報より行動情報

パーソナライズに特に重要なのは、顧客の行動情報である、ということも念頭に置かれると良いと思います。なぜなら、パーソナライズでは、その人がどこの誰という個人を特定する情報よりも、たとえ個人としての輪郭はぼんやりとしていても、その人がどのようなもの・ことに興味関心があるかと言うことを理解する方が重要だからです。

例えば、① 男性には男性カテゴリの商品をメインに、女性には女性カテゴリの商品をメインでお見せしたい、を考えていくとイメージがつくと思います。まず、ここで男性・女性という属性情報を扱うには、顧客がウェブサイトやモバイルサイトに、少なくとも1回以上ログインした経験が必要になります。でないと、そのユーザーが男性か女性か判断がつきません。つまり、ログインした経験のないユーザーには、パーソナライズができませんよね。 また、女性だからといって、女性のものにしか興味がない、購買しない、というわけではありません。女性でもメンズラインを好む方もいらっしゃいますし、パートナーの方の洋服を定期的に購入される方も多いのではないでしょうか。

これを解消するため、①の要件を、ログイン経験の有無を問わず、行動情報を優先的に使用してみるのはいかがでしょうか。その訪問の中で閲覧した製品カテゴリを判断してパーソナライズを行うと、ただ性別の属性情報を使用してパーソナライズする時よりも、顧客の興味・関心に寄り添うことができ、その精度が上がっていくと思います。このように、同じ要件でも、顧客のどの情報を使用してパーソナライズを行うかによって、パーソナライズの精度が異なります。これを加味すると、パーソナライズの仕組みでは、顧客の属性情報も行動情報も扱えることが必須となります。

しかし、ただ「扱えること」だけを要件とすると、仕組み選びは失敗する可能性が高いです。なぜなら、誰が、どのように扱えるようにするか、という視点も仕組み選定には必要だからです。先の機能要件の章でも少し触れましたが、エンジニアのいない企業にスクリプトを頻繁に書かなければ運用できない仕組みを導入するのは酷な話です。これが、パーソナライズの仕組みに求める非機能要件になります。

パーソナライズの仕組みに求める非機能要件

先程、表2で、パーソナライズの施策案の詳細を出しました。施策における、いつ、どこで、誰に、何を、が明確になりました。これらを明確にすることによって、施策を行う上での必要な社内業務の整理も行うことが出来ます。例えばコンテンツは誰に作ってもらうのか、顧客のデータを使用するのにどの部署に調整するのか、分析は誰が行なって、施策案は誰が考えるのか、このような細かいところを想像しやすくなってきます。

パーソナライズの仕組みは、マーケティング部のような、企画立案をしてそれを実行し、分析を行うような部署が使用するケースが多いのですが、コンテンツはデザイナーに用意してもらう必要がありますし、複雑なセグメントはエンジニアがコードを書くこともあります。また、パーソナライズの成果は、企業の大切なナレッジとして、全社に共有することも必要だと思います。

各部署とのスムーズな連携が望ましいし、コードは書かない方が属人化しないし、レポートをわざわざパワーポイントやエクセルに書き起こす手間は極力ない方が良い。パーソナライズの仕組みを導入することで、成果は出せたけれど、業務が成果以上に増えてしまった、というのは、特に現場のみなさまは避けたいところだと思います。

このため、ここでも想像力を働かせ、 いつ、どこで、誰に、何を伝えたいのかを想像したパーソナライズの施策と同様に、誰が、どのように仕組みを使用するか、そのフローを想像しておくことが大切です。最も失敗がないのは、検討している仕組み全てで、同じ施策を行うとどうなるのか、デモをお願いすることだと思います。その際に、どのような部署のどのようなスキルの人が、どのような作業を行うかの想定も一緒にお伝えするとともに、できる限り当事者の方に一緒に確認していただくこともお勧めいたします。

まとめ

パーソナライズは今や、果たすべき企業の責任のひとつとなったといっても過言ではありません。顧客から情報を取得している以上、顧客に還元して顧客体験をより良いものにすることは、顧客満足度を高めるとともに、業績にも良い影響をもたらします。

もし、まだパーソナライズに着手できていないのであれば、まず想像力を働かせ、いつ、誰に、どこで、何を伝えたいのか、具体的な施策を思い浮かべましょう。その際に、拡張性も視野に入れておくことが必要です。また、パーソナライズには、個人を特定するような属性情報よりも、興味・関心が表れる行動情報が重要かつ効果的です。こちらも心に留めておきましょう。

そして、パーソナライズの仕組みを選定する際には、機能だけでなく、誰が、どのように仕組みを使用するか、そのフローを想像すること大切です。お勧めは、検討している仕組み全てに同じ施策要件を提示して、デモをお願いして比較することです。同じ施策要件でも、仕組みの使い勝手や運用フローが異なることが分かりやすく実感できると思います。ぜひ、自分たちの企業に最も合う仕組みを見つけて、パーソナライズを始めてください。

編集後記

みなさま、参考になりましたでしょうか。パーソナライズの仕組み選びで失敗しないためにはまず「何をしたいのかを想像して整理すること」が重要だとお分かりいただけたかと思います。そこが難しい!とお考えのマーケティング担当のみなさま、ツール導入不要の伴走型マーケティングDX支援サービス「Marketing Cockpit」から始めてみませんか?