2024.11.15
押印と捺印の違い、
契約書や請求書での使い分けなどを解説
ビジネスシーンで頻繁に目にする「押印」と「捺印」。似て非なるこの二つの用語、実は明確な違いがあります。本記事では、押印と捺印の定義や法的効力の違い、契約書や請求書などの重要書類での適切な使い分け方を詳しく解説します。
押印と捺印の基本的な違いとは?
よく似ている用語である押印と捺印について、違いなどを詳しく解説します。
押印と捺印の定義
押印とは「記名押印」を省略した言葉で、自筆以外の方法で記された名前に印鑑を押す行為を指します。
具体的には、印刷された名前やゴム印、社印で押された名前、代筆された名前の横に印鑑を押すことを意味します。また、何も記載されていない箇所に単に印鑑を押す行為も押印と呼ばれます。
近年のデジタル化に伴い、電子文書における電子署名や電子印鑑による押印も認められるようになってきています。
一方、捺印とは「署名捺印」を省略した言葉で、自筆による署名に加えて、印鑑を押す行為を指します。
具体的には、自筆で名前を書いた後にその横や下に印鑑を押すことや、契約書などの重要書類に署名し印鑑を押すことを意味します。
捺印は、文書の作成者の意思を明確に示し、本人性を確認する手段として重視されており、日本の商慣習や法的手続きにおいて長年重要な役割を果たしてきました。
近年のデジタル化の進展に伴い、電子署名と組み合わせた電子的な捺印も認められるようになってきています。
押印と捺印の違い
前述したような違いがある押印と捺印ですが、現在では、法律上も実務上も両者を明確に区別せず、「押印」という言葉で統一して使用されることが多くなっています。
商法でも署名した書面に印鑑を押すことを「押印」という言葉で表記されています(商法第546条)。
民事訴訟法第228条第4項によれば、署名や押印がある私文書は、その作成者本人の意思に基づいて適切に作成されたものと推定されます。
ただし、民事訴訟法第229条によると、筆跡や印影の対照によってその文書が本人によって正当に作成されたことを証明できるため、自署による署名を伴う捺印の方が、本人確認の証拠力が高いとされています。そのため、重要な契約書などでは捺印が好まれる傾向にあります。
ビジネス文書での押印と捺印の使い分けとその重要性
ビジネス文書では、押印と捺印はどのように使い分けられているのでしょうか。詳しく解説します。
契約書での使い分け
契約書における押印と捺印の使い分けは、その法的効力と重要性に基づいて実施されます。
一般的に、重要度の高い契約書では捺印が求められることが多くなっています。これは、自筆による署名を伴う捺印の方が、本人の意思を明確に示し、法的な証明力が高いとされているためです。特に、印鑑証明書が必要とされる重要な契約では、多くの場合「署名捺印」が要求されます。一方、社内文書や比較的重要度の低い契約書では、押印で済むことも多いです。
請求書での使い分け
請求書における押印と捺印の使い分けは、取引の重要性や企業の方針によって異なります。一般的に、通常の取引では押印で十分とされることが多いです。この場合、社名や住所が記載された箇所の右側に角印を押すのが一般的です。
一方、高額な取引や重要な契約に関連する請求書では、より高い法的証拠能力を持つ捺印が求められることがあります。捺印の場合、自筆での署名に加えて印鑑を押すため、本人性の担保がより確実になります。
訂正印での使い分け
訂正印での押印と捺印の使い分けは、基本的に元の文書での印鑑の使用方法に準じます。
重要な契約書や法的文書の訂正では、元の文書に使用した印鑑と同じものを使用します。つまり、元の文書で捺印を行っていた場合は、訂正時も自筆で訂正内容を記入し、同じ印鑑で捺印します。一方、元の文書で押印を行っていた場合は、訂正時も同じ印鑑で押印します。
社内文書や比較的重要度の低い書類の訂正では、小型の訂正印(簿記印)を使用することもあります。この場合、通常は押印のみで済ませます。
印鑑の種類とそれぞれの使い方
印鑑にはさまざまな種類があります。それぞれを詳しく解説します。
実印
実印は最も重要な印鑑で、法務局に登録される公的な印鑑です。個人の場合は市区町村に、法人の場合は法務局に登録します。重要な契約書や不動産取引、会社設立など、法的効力が求められる場面で使用されます。
通常、丸型で、個人の場合は氏名、法人の場合は会社名と代表者の役職名が刻まれています。実印は厳重に管理し、使用する際は細心の注意を払う必要があります。印鑑証明書と併せて使用することで、本人や法人の意思を公的に証明する役割を果たします。
社印
社印は会社を代表する印鑑で、一般的に角印の形状をしています。日常的な業務文書、請求書、見積書などの社外向け文書に使用されています。法的な登録は必要ありませんが、会社の公式な印として扱われます。
印面には通常、会社名のみが刻まれています。社印は実印ほどの法的効力はありませんが、会社の意思を示す重要な役割を果たします。取引先とのやり取りや社内文書の承認など、幅広い場面で使用されるため、適切な管理と使用が求められます。
銀行印
銀行印は、金融機関での取引に使用する専用の印鑑です。口座開設時に銀行に届け出る印鑑で、預金の引き出しや振込、融資の申し込みなど、銀行取引全般に使用されます。
通常、丸型で、個人の場合は氏名、法人の場合は会社名と「銀行之印」などの文字が刻まれています。実印と兼用することも可能ですが、セキュリティー上、別の印鑑を用意することが推奨されます。銀行印は金銭に関わる重要な印鑑であるため、紛失や盗難に注意し、厳重に管理する必要があります。
角印と認印
角印と認印は、日常的な業務や比較的重要度の低い文書に使用される印鑑です。請求書、領収書、社内文書など、幅広い場面で使用されます。印鑑登録をしていない印鑑を認印と呼ぶのが一般的です。
法的な登録は必要なく、会社や個人が任意で作成・使用できます。実印や銀行印ほどの法的効力はありませんが、文書の作成者や承認者を示す役割を果たします。使用頻度が高いため、インク浸透印(シャチハタ)タイプのものも多く使用されています。管理は比較的緩やかですが、不正使用を防ぐため、適切な保管が必要です。
捺印は浸透印でもよいか
捺印は、浸透印(シャチハタなど)では対応が難しい場合があります。特に公的な書類、契約書、長期保管が必要な文書では浸透印の使用が認められないことが多いです。
これは、浸透印の印面が変形しやすく、経年劣化で印影が消えてしまう可能性があるためです。また、浸透印は同じ印面が大量生産されているため、個人を特定する証明力が低いとされています。重要な文書や法的効力が求められる場面では、朱肉を使用する通常の印鑑や実印を用いることが推奨されます。日常的な確認や簡易な書類には浸透印が便利ですが、用途に応じて適切な印鑑を選択することが重要です。
押印・捺印の位置と印影の重要性
押印と捺印で重要になってくるのが、位置と印影です。それぞれ詳しく解説します。
押印・捺印の位置
押印・捺印の位置は、書類の種類や重要性によって異なります。印鑑証明が必要な重要書類の場合、名前や他の文字に重ならないように捺印する必要があります。これは印影をはっきりと確認できるようにするためです。
一方、印鑑証明が不要な書類では、セキュリティーの観点から名前に少し重なるように捺印することが推奨されます。これにより、名前に被っている部分の偽造や複製が難しくなり、悪用のリスクを低減できます。名前を書く欄の隣に「印」という欄がある場合は、その上に重ねて押すのが一般的です。
印影の重要性
印影は、印鑑を押して紙に残る朱肉の跡のことで、文書の真正性を証明する重要な要素です。特に契約書や重要書類において、印影は当事者の意思表示や合意を示す証拠となります。
印影が重要な理由はいくつかあります。まず本人確認の手段として機能し、文書の作成者や承認者を特定できる点が挙げられます。
また、文書の改ざんや偽造を防ぐ役割があり、セキュリティー面でも重要な意味を持ちます。法的には、民事訴訟法で印影の対照によって文書の真正性を証明できると規定されており、法的効力を持つ証拠として認められています。さらに、取引や契約の信頼性を高め、ビジネス上の重要な役割を果たしています。
押印と捺印に関連する用語の読み方と意味
押印や捺印に関連する用語の読み方と意味、使用方法を解説します。
- 記名(きめい)
自筆以外の方法で名前を記すことです。印刷やゴム印での名前の記載が該当します。一般的な文書で使用されます。 - 署名(しょめい)
本人が自筆で名前を書くことです。サインとも呼ばれます。契約書や重要書類で使用され、本人確認の証拠となります。 - サイン
署名と同義で使われますが、欧米式の署名を指すことが多いです。国際的な文書や契約で使用されます。 - 拇印(ぼいん)
親指の指紋を押すことです。印鑑の代わりとして使用され、主に本人確認が必要な場面で用いられます。
脱ハンコを進める方法
近年のビジネス環境は急速に変化しており、デジタル化やグローバル化の進展に伴い、従来の押印業務の非効率性が顕在化しています。特に2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが急速に普及したことで、この問題がより鮮明になりました。
リモートワークの環境下では、押印のためだけに出社する「ハンコ出社」が必要となり、業務効率を著しく低下させる要因となっています。また、書類の郵送や回覧に時間がかかり、意思決定のスピードが遅くなるという問題も生じています。さらに、書類の郵送や受け取りなど押印に関連する作業自体の工数が増大し、企業の生産性向上の大きな妨げとなっています。
これらの課題を解決するため、押印業務の電子化、いわゆる「脱ハンコ」の動きが加速しています。電子押印の導入により、以下のようなメリットが期待できます。
- 迅速な処理
場所や時間を問わず即時に押印が可能となり、意思決定のスピードが向上します。 - 透明性の向上
押印プロセスの可視化と追跡可能性が確保され、コンプライアンスの強化につながります。 - コスト削減
印鑑管理や紙の保管にかかる費用が軽減され、経費削減に貢献します。 - リモートワークの促進
電子押印システムにより、場所を問わない承認プロセスが可能となります。これにより、リモートワークがより実施しやすくなります。 - 環境負荷の低減
ペーパーレス化により、環境への負荷を減らすことができます。
脱ハンコを推進するためには、まず経営層の理解と決断が不可欠です。そのうえで、以下のような具体的な施策を実施することが効果的です。
- 社内規定の見直し
押印が必要な書類を洗い出し、真に必要なものを精査します。 - 電子署名サービスの導入
クラウドベースの電子署名サービスを導入し、電子的な押印プロセスを確立します。 - ワークフローシステムの活用
申請や承認のプロセスを電子化し、業務の効率化を図ります。 - 社員教育の実施
新しいシステムの使用方法や、電子署名の法的効力について社員に周知します。 - 取引先との調整
取引先にも脱ハンコの趣旨を説明し、協力を求めます。
電子押印やワークフローシステムの導入には、クラウドベースの電子署名サービスや企業向けの文書管理システムなど、さまざまな選択肢があります。企業の規模や業務内容に応じて、最適なソリューションを選択することが重要です。
脱ハンコの推進は、単なる押印作業の電子化にとどまらず、業務プロセス全体の見直しと効率化につながる重要な取り組みです。これにより、企業の生産性向上やコスト削減、さらにはワークライフバランスの改善にも寄与することが期待されます。
法務省によると、「契約書への押印は必ずしも必要ない」とのことです。「私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない」といいます。
まとめ
押印と捺印の違いは、自筆の署名があるかないかです。紙の契約書などといった文書に対し署名、ハンコを押す行為を明確に区別するための言葉の違いです。
近年、多様な働き方や生産性向上を目的としたデジタル化が進んでおり、物理的な紙に対する押印・捺印が不要になるケースも増えています。
社内のデジタル化や脱ハンコを推進するためには、自社の業務プロセスに沿った適切なソリューションを選択することが大切です。
富士フイルムビジネスイノベーションでは、押印業務の効率化と生産性向上を実現するため、クラウド上で文書共有ワークスペースを提供する「FUJIFILM IWpro」と社外向け電子契約サービス「DocuSign」を連携させたソリューションで、紙主体の業務からの脱却をサポートしています。
「FUJIFILM IWpro」は初期費用やランニングコストが低く、導入プロセスも簡易なため、中小企業でも容易に導入できます。また、クラウドサービスであるため、リモートワークにも対応し、場所を問わず作業環境にアクセスできます。
さらに、「DocuSign」との連携により、契約プロセス全体を効率化できます。「DocuSign」で電子サインを行った契約書を「FUJIFILM IWpro」でスムーズに保管・管理することで、文書の検索や共有も容易になります。この連携により、社内外のコミュニケーションがシームレスになり、業務効率が大幅に向上します。これらのツールを活用することで、企業は脱ハンコを推進しつつ、業務プロセス全体の最適化を図ることができるでしょう。
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