2022.07.29
RoHS(ローズ)指令とは?規制対象となる10物質を詳しく解説
近年、製造業の環境に対する取り組みは、強化され続けています。RoHS指令も環境に対する取り組みの一つで、製造業に携わる人なら一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。
RoHS指令は、人や環境に影響を与えないよう設けた特定有害物質の使用規制に関するEUの法律で、現在では10の物質が「RoHS10物質」と呼ばれ、制限されています。一次請け、二次請け問わず、使用する材料がRoHS対応となっているかを顧客から聞かれることが想定されるため、RoHSとはそもそもどういった規制なのかを把握しておくことが大切です。
RoHS指令とは?
RoHS指令とは、特定有害物質の使用制限に関するEUの法律です。RoHSは、「Restriction of Hazardous Substances」の頭文字をとったもので、日本語では「有害物質使用制限指令」と呼ばれています。
物質の使用制限をすることで、電気・電子機器のリサイクルを容易にし、埋立てや焼却処分時に人や環境に影響を与えないことを目的として制定されました。
また、RoHS指令は2011年7月に改正指令が施行されて以降、「RoHS2」とも呼ばれており、生産者に以下の4つの義務を課しています。
【RoHS2が生産者に課す義務】
改正RoHS指令は、CEマーキングを義務付ける指令のひとつとされたため、対象となる製品の製造者は改正RoHS指令への適合性評価を実施して適合宣言をし、製品を上市するまえにCEマークを貼付することが必要です。適合の根拠を明示する技術文書(整合規格はEN50581)を作成し、適合宣言書とともに10年間保管することが求められます。(カテゴリ11「その他の電気・電子機器」については2019年7月22日より適用開始、それ以外の全てのカテゴリの製品については既に適用済み)
設計変更や整合規格などの変更では適切に対応し、製品の適合状況を適切に維持管理することが求められます。
製造番号など製品識別に必要な情報、および製造者の名前、登録商標、住所および連絡先を製品または包装や添付文書に表示することが必要です。
上市後に不適合があれば製品をリコールし、加盟国の所轄当局にただちに通知しなければなりません。
CEマーキングとは安全を保証するマークで、RoHSの特徴的な義務の一つです。
RoHS指令が制定された背景
RoHS指令が制定された背景には、電気・電子機器の廃棄物の急増と機器に含有される有害物質による健康・環境への影響があります。我々の生活を豊かにする電気・電子機器はさまざまな素材から作られていますが、素材の中には化学反応を起こして生成された化学物質も含まれます。
化学物質には危険度が低いものもあれば人体に影響を及ぼすものもあるため、これらの悪影響を抑制するために制定されたのがRoHS指令です。RoHS指令は2003年2月の公布後、制限物質を追加するなどの改正や適用の追加が数年にわたって行われています。
2003年2月13日 | RoHS(RoHS1)公布 |
---|---|
2006年7月1日 | 施行 |
2011年7月1日 | 改正指令(RoHS2)公布 |
2011年7月21日 | 発効 |
2013年1月2日 | 旧指令(RoHS1)廃止 |
2013年1月3日 | RoHS2に置き換わり |
RoHS指令とREACH規制の違い
REACH規制とは、「Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals」の頭文字をとったもので、「人の健康と環境の保護」や「EU化学産業の競争力の維持向上」を目的として作られた規制です。RoHS指令とREACH規制は、それぞれ化学物質を管理するために作られている点においては同じですが、規制する対象が異なるため、一緒に使われることが多い傾向があります。
REACH規制はRoHS指令と同様に、生産者に以下のような義務を課しています。
- 物質の登録義務
- 物質の認可申請義務
- 物質の使用制限義務
- 物質の情報伝達義務
ここでいう物質は、「通常の物質」「調剤中の物質」「成形品中の物質」を指します。つまり、物質や調剤を製造または輸入する事業者や成形品を製造または輸入する事業者は、上記4点の義務を守らなくてはいけません。
RoHS指令とWEEE指令の違い
RoHS指令とともによく使われるものに、「WEEE指令」というものもあります。WEEE指令は「Waste of Electrical and Electronic Equipment」の頭文字をとったもので、電気・電子機器の廃棄に関するEUの法律です。2003年2月にRoHS指令とともに公布・施行されました。
WEEE指令は電気・電子機器を再利用またはリサイクルし、機器の廃棄物を削減することを目的としています。そのため、電気・電子機器を分別して回収することを目的の一つとしており、機器の種類によって区分を設けることでリサイクルしやすくしています。また、品目ごとにリカバリー達成率が定められており、WEEE指令の対象製品は設計・製造の段階から配慮する必要があります。
RoHS指令の規制対象になる10物質
RoHS指令は、2011年の改正後に規制対象が10物質に変更されました。また、各物質には最大許容濃度が決められています。それぞれの詳細については、以下の表にまとめています。
【RoHS指令の規制対象10物質詳細】
物質 | 最大許容濃度 | 主な用途 |
---|---|---|
鉛 | 0.1wt% | 蓄電池、金属の快削性向上のための合金成分 |
水銀 | 0.1wt% | 歯の治療、農薬、体温計 |
カドミウム | 0.01wt% | 顔料、ニカド電池、メッキ材料 |
六価クロム | 0.1wt% | メッキ材料 |
ポリ臭化ビフェニル(PBB) | 0.1wt% | 自動車用塗料、難燃剤としての添加物 |
ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE) | 0.1wt% | 難燃剤として、電気製品、繊維に添加 |
フタル酸ビス(DEHP) | 0.1wt% | 可塑剤として塩化ビニル樹脂等を柔らかくするのに用いられる |
フタル酸ジブチル(DBP) | 0.1wt% | |
フタル酸ブチルベンジル(BBP) | 0.1wt% | |
フタル酸ジイソブチル(DIBP) | 0.1wt% |
RoHS指令の対象製品
RoHS指令の対象となる電気・電子機器の基準は、「定格電圧AC1000V、DC1500V以下」のものと定められています。具体的には、現時点で11カテゴリーに分けられており、冷蔵庫やゲーム機などさまざまな種類があります。
【RoHS指令の対象製品】
対象製品カテゴリー | 主な製品 | 適用開始日 |
---|---|---|
大型家庭用電気機器 | 冷蔵庫・洗濯機・エアコンなど | 2006年7月1日 |
小型家庭用電気製品 | 掃除機・時計・電動歯ブラシなど | 2006年7月1日 |
情報技術・電気通信機器 | パソコン・複写機・携帯電話など | 2006年7月1日 |
民生用機器 | テレビ・ビデオカメラ・アンプ・楽器など | 2006年7月1日 |
照明機器 | ランプ類・照明制御装置 | 2006年7月1日 |
電気・電子工具 | 電気ドリル・ミシン・はんだ用具など | 2006年7月1日 |
玩具・レジャー用品・スポーツ用品 | ビデオゲーム・電気電子部品を含むスポーツ器具・スロットマシーンなど | 2006年7月1日 |
医療機器 | 放射線治療機器・人工心臓・透析装置など | 2016年7月22日 |
産業用を含む監視および制御機器 | 煙検出器・加熱調節装置・サーモスタットなど | 2017年7月22日 |
自動販売機 | 飲料自動販売機・食品自動販売機・現金自動引出機など | 2006年7月1日 |
上記カテゴリに入らないその他の電気電子機器 | 2019年7月22日 |
RoHS指令の適用除外となる「鉛」
RoHS指令の規制対象に含まれる「鉛」は、用途次第で適用除外となる場合があります。適用除外となるものは、技術的・化学的に代替不可な用途の物質に限ります。具体的には、以下の通りです。
【RoHS指令の適用除外となる「鉛」】
- 鋼材に含まれる0.35wt%までの鉛
- アルミニウムに含まれる0.4wt%までの鉛
- 真鍮に含まれる4wt%までの鉛
これらの物質は、現時点で「技術的・科学的に代替が不可能な用途」であるため、代替可能な物質が現れるまでは適用除外であり続けます。また、適用除外には期限が設けられており、期限が過ぎた場合は適用除外の解除、もしくは延長の検討がEUで行われます。
過去には「六価クロム防食剤」が代替可能となって適用除外から解除されており、今後も期限切れや代替品の登場によって適用除外から解除される物質が出てくるかもしれません。
RoHS指令に関する諸国の対応
RoHS指令はEU加盟国に対する規制のため、日本国内で製造・販売する場合は日本の法令・指令の基準を満たしてさえいれば影響ありません。しかし、グローバルな市場で販売を行う企業は、製品がEU加盟国に輸出される可能性も想定し、RoHS指令を遵守した製造・販売をする必要があるでしょう。
RoHS指令を遵守しなかった場合は、5000ポンド以上の罰金と製品の回収義務のほか、場合によっては製品の輸出を以降拒否されるなどの罰則が課せられます。過去にはスロベニアからの報告によって、中国で製造された製品の部品に使われる「はんだ」に鉛が80%含有されていることがわかり、製品の回収だけでなく企業をEU市場から撤廃するといった事例もありました。
また、EUと関税同盟を結んでいない国では、RoHS指令を雛形法にして、自国の国内法として施行している国もあります。中国の「弁法」という法令がその一例です。