2021.10.06
遠隔設備保全と技術継承の事例「日本特殊陶業株式会社 SPE事業部様」セミナー概要
2021年2月24日、「製造現場の働き方改革 2つの事例」をテーマに、日本特殊陶業株式会社 SPE事業部様(半導体製造装置の部品製造)の遠隔設備保全と技術継承事例について、オンラインセミナーを実施いたしました。ここではセミナーでお話しした内容の概要を解説しています。
※日本特殊陶業株式会社 SPE事業部様は、2021年4月に株式会社NTKセラテック様に事業継承されました。本文では、セミナー開催時の名称を使っています。
セミナーの主な内容
日本特殊陶業株式会社 SPE事業部様では、事業拡大による新工場稼働を背景に、熟練保全担当者の不足が課題となっていました。このため、新工場で設備トラブルが発生した場合、トラブルの収束に時間がかかる状況でした。その課題を「スマートグラス」を活用してどう解決したのか?をセミナーにて詳しくお話ししました。
スマートグラスとは?製造業での3つの活用方法
スマートグラスとは、メガネの形をしたウェアラブル端末のことです。下記のような端末です。
<スマートグラス b.g.>
このスマートグラスは、製造業において、(1)遠隔技術支援、(2)技能教育(技能継承)、(3)視覚拡張の3つの活用が可能です。実際に日本特殊陶業株式会社 SPE事業部様の事例を交えながら解説しましょう。
新工場稼働による課題
日本特殊陶業株式会社 SPE事業部様(以下、日特様)には、愛知県の小牧市と宮城県の仙台市に関連会社(株式会社NTKセラテック様)の工場があります。仙台の工場については、比較的新しい工場で、作業者も現地採用であるため、設備について必ずしも熟練されているわけではありません。このため、仙台で設備トラブルが発生すると、小牧から支援しなければなりません。
電話やメールだけで解決できるようなトラブルであればよいですが、場合によっては仙台では保全しきれないようなケースも発生し、出張しなければならないといったことも多々発生していました。中には無駄な出張になったといったケースもあったようです。
2018年に実際にあった出来事ですが、仙台で、あるトラブルが発生しました。いつものように電話やメールでやり取りしましたが、埒(らち)が明かず、結果的に出張することになりました。あいにくその日は台風で、2名の担当者が大変な思いをして仙台まで出張されました。そして、彼らベテラン保全員が仙台で原因を調査したら、「ある設備のOリングが脱落していただけ」ということがすぐにわかりました。
こういったことが結構あり、遠隔地に対して、なんとか設備保全の支援ができないか?という課題をお持ちでした。
日特様が課題解決のために実現したいこと
このような課題ですので、日特様は課題解決のために次のようなことを実現したいとお考えでした。
【愛知県小牧側】
- 仙台で何が起きているのか、あたかもその場にいるかのように、詳しく目視したい
- 設備保全の方法を、お手本を示しながら、仙台側に指示したい
【宮城県仙台側】
- 小牧のお手本を見ながら作業したい
- その結果、早くトラブルを解決し、設備を稼働させたい
日特様の課題解決策
日特様は課題を解決するために、仙台・小牧の双方の設備保全担当者が次のような格好をして、遠隔での設備保全支援や技能教育を実施しています。(工場はクリーンルームのため無塵衣を着用)
<スマートグラス「b.g.」を装着した姿>
双方がこのような格好をすることで、小牧側で作業手本を示しながら、仙台側は、スマートグラスでそれを見て作業することができるようになります。マイクとスピーカーがありますので、SkypeやTeamsなどで会話しながら、作業を進めることができます。
実際には作業者の目には次のように見えています。これは遠隔地の人に、折り鶴の折り方を教えている例になります。
<Enhanlabo「b.g.」による見え方>
日特様でご採用頂いたスマートグラスは、株式会社Enhanlabo(エンハンラボ)のb.g.(ビー・ジー)という製品になります。b.g.を装着すると、目の前の1m先に19インチ程度のディスプレイが浮いているように見えます。ちょうど、スマホの画面が浮いているような状態だと想像してください。b.g.を装着しても、目と目の周りを覆われません。b.g.と肉眼の間には、適度な隙間があり、そこから十分な実視野が確保できますので、肉眼で自分の手元や周囲の状況を安全に見ることができます。
このようにスマートグラスを活用することで、遠隔地の設備保全の支援や技術継承(技能教育)を実現されています。
<各セットをすぐに使えるように台車にマウント>
日特様のスマートグラス活用の工夫
さらに、日特様はスマートグラスを社内でより活用できるように、「活用シーン別に様々なスマートグラスの組み合わせを標準セット化し、それらのセットをすぐに使える状態にしてあります。
さらに、いざというとき、すぐに使えるようにするため、毎月、互いの工場の中を歩き、スマートグラスを通して工場の中を知るという、バーチャル工場ツアーを行い、利用訓練も行っておられます。
こういった工夫の積み重ねで、コロナ禍においても、出張などをせずに遠隔地での保全支援や技術継承を実現されています。