2021年4月、腫瘍科専門外来の新設とともに「がん検診」をスタートさせたモリタ動物病院は、その機会に合わせて院内機器の入れ替えを実施。そこで、同院院長の森田智明先生と後藤匠先生に、健康診断におけるがん検診の取り組みをはじめ、富士フイルム製品を再び選ばれた理由や活用法、そしてその有用性などについてお話をうかがった。
がん検診を打ち出した効果とオーナーさまの意識の高まり
森田 智明 先生
森田先生 下町という土地柄、地域の皆さまに愛されるような地域密着型の動物病院を目指しています。今年の4月に後藤先生が当院に戻ってきたことを受けて腫瘍科専門外来を新設しました。健康診断にもその経験を活かそうと、がん検診に力を入れて実施しています。
後藤先生は日本獣医生命科学大学を卒業後、2012年から3年間当院で勤務したのち、岐阜大学動物病院の腫瘍科・外科に6年間在籍して専門分野で活躍してきました。その期間には数多くの症例を診たでしょうし、開業医が何年に一度、もしくはほとんど出会わないような疾患にも立ち会ったのではないかと思います。そうした経験と知識を兼ね備えているので、その力を健診にも活かせればと考えました。昨今では動物においても、高齢化に伴ってがんが増加しています。その早期発見と治療に貢献できるよう、健康診断におけるがん検診に積極的に取り組んでいます。
後藤先生 岐阜大学動物病院では主に腫瘍の犬猫の診療に従事して、外科手術、放射線治療、化学療法の経験を積んできました。
腫瘍は、教科書通りに治療してもうまくいかないことが少なくありませんし、それがご家族と動物にとってベストな治療方法とも限りません。だからこそ常に動物に寄り添い、ご家族とコミュニケーションを取りながら新しい治療方法に取り組むことで、それぞれにとってのベストをご提案できるように努めています。
後藤先生 一般的な健診(血液検査)をベースに、X線、エコー検査をセットで実施し、病気や腫瘍などが疑われる場合に、他施設でのCT検査や病理検査を行っています。
これまでもフィラリア検査と一緒に血液検査をしてこられたオーナーさまは多くいらっしゃいますが、血液検査のみでがんを早期発見することは困難です。大学での経験においても、年1回あるいは年2回の血液検査を長年受けていたにも関わらず、進行期になってからがんの診断を受けた症例もありました。
血液検査は数値が出るため、それを見てご家族も安心してしまい、画像診断をしないケースが多くあります。しかし何かしらの臨床症状が出ているような腫瘍はかなりの進行期になっているため、残念ながら緩和的な治療以外の選択肢がないこともあります。一般にがんは早期治療することで治癒する可能性があるため、当院ではがん検診をお勧めして早期発見に努めています。
これまでに実施したがん検診の件数は
後藤先生 4月の開始から2か月ほどの期間で、犬40数頭、猫2頭を検診しました。その中でがんが見つかったのは犬8頭、猫1頭です。特にエコー検査で多く見つかりました。
そもそもオーナーさまは健診を目的にいらしているので、動物に強い臨床症状はありません。あったとしても、下痢や嘔吐といった非特異的なものです。ところが、画像を見てみると腫瘍が存在していることがあります。血液検査でも多少の異常は認められるのですが、やはり画像診断をすることで判断しやすくなるのです。
森田先生 一般的な“健診”や“フィラリア検査”ではなく、「がん検診」と打ち出したことにインパクトがあったと思います。はっきり明示したことでご家族の関心や意識が高まり、健診時に『がん検診をお願いします』という方が増えていますね。
もちろん、がんを専門的に扱ってきたスペシャリストの先生がいるという心強さも大きな理由になっていると思います。大学へ修行に行く前の後藤先生を知る方も多くいらっしゃいますので、オーナーさまからの信頼は抜群です。
がん検診をすすめる際の目安はありますか
後藤先生 若い動物に対してはそれほどがんを疑うことは多くないので、基本的には8歳以上にお勧めしています。当院では、一般の健診は5,000円、画像診断は15,000円程度ですので、その重要性をご家族にお話すれば、健診に追加することに抵抗を感じられる方は少ないですね。それよりも一度受けてみる安心感を重視されています。
そうはいっても、犬と猫でどうしても検診数に差が出てしまいます。犬のほうが予防接種などで来院するきっかけが多くあるため、がん検診の啓発がしやすいからです。その一方で猫の場合は、オーナーさまの意識が高くないと来院される機会が少ないので、がん検診の啓発が難しいと感じています。
後藤 匠 先生
後藤先生 緊急性がない症例に関しては外注検査をメインにしていますが、問診をしていると次々に症状が出てくることがあります。健診とはいえ緊急性が高いと考えられる場合は、院内の富士ドライケム IMMUNO AU10Vを活用して内分泌検査を行っています。特に猫は症状が非特異的なため、病名の診断にたどり着くまでが難しいです。例えば多飲多尿があった時に、糖尿病なのか腎機能障害なのか甲状腺機能亢進症なのかを、院内で網羅的に調べられるのは大きなメリットです。
また、当院では小型犬の健診も多く、問診をしていると門脈シャントを疑うことがありますが、この場合もドライケムを使ってアンモニアとTBAを測ることができます。こうした値を院内で測定できれば、健診後に何度も来院いただいて追加検査をしなくて済むため、ご家族や動物の負担を軽減することができるのです。
森田先生 門脈シャントは年に数回は出てきますね。最初は院内で血液を診てから、確定的な診断には他施設のCTを利用しています。院内に検査機器があることによって緊急性の高い動物にもその場で対応できるため、病気の早期発見につながっています。
併せて外注検査もしっかり活用すると、スタッフの負担を軽くすることができます。特にフィラリア検査の時期は忙しくなるので、緊急性の低いケースまで院内検査をしてしまうと回らなくなってしまいます。外注検査においても、富士フイルムさんはフットワークよく対応していただけるのでとても助かっています。
X線やエコーの検査画像をオーナーさまに見せながら結果を説明。
森田先生 後藤先生が戻ってきて腫瘍科を新設したことがきっかけです。富士フイルムさんを選んだ理由としては、さまざまな方面での開発が進んでいるので信頼度が高いですし、長年使ってきた慣れもあります。実は私、富士フイルムさんの隠れファンなんですよ(笑)。
例えば今回、CRからDRに入れ替えたことによって、画像が素晴らしく良くなりました。
以前であれば判断に迷うような部分もクリアに見えています。
後藤先生 肺血管がとても明瞭に見えますし、骨もすごくきれいに写りますね。X線での肺転移の診断はサイズが大きくならないと難しいのですが、DRになったことである程度小さくても発見できるようになりました。
森田先生 また、CRは撮影のたびにカセッテの入れ替えが必要になりますが、DRであれば間隔を空けずに素早く撮影できるため、動物へのストレスも軽減できます。特に呼吸器疾患などの負荷が掛かっている動物においては、スピードが大事ですから。
それに撮影時は鎮静をかけているわけではないので、動物たちがじっとしていてくれずポジショニングが難しいこともあります。けれどDRなら撮影後すぐにモニターに表示されるため、正中がずれてしまった場合にも撮り直しができます。動物への負荷を抑えながら、一連の流れで複数枚撮影できるのはありがたいですね。
後藤先生 CRではカセッテを持つスタッフも必要になるため、繁忙期の健診を回していくには、正直厳しい部分があります。しかしDRなら限られた時間と人数でも対応することができるので、時間的な短縮とスタッフの負担の軽減にもつながっています。
さらには、V Station Tを利用することで画像を一元管理できるのも便利ですね。一つのモニターでX線と超音波の画像を同時に表示できるため、ご家族への説明がしやすくなります。画像の保存場所が別々になってしまうと、管理するのも大変ですから。
画像診断との組み合わせにより病気の早期発見に
超音波診断装置の活用でがん以外の疾患の早期発見も
ARIETTA 65Vの活用法と有用性は
後藤先生 がん検診に利用することで、排尿障害も血尿もない犬の膀胱移行上皮癌を見つけることができました*1。膀胱腫瘍は浸潤性のため正確なサイズを測れているかどうかという点はありますが、隆起していたのは1.4cm程度。検診で見つかった中で最も小さい腫瘍ですが、この段階で発見できてよかったと思います。
膀胱腫瘍は、排尿障害や血尿といったある程度の臨床症状が出てから来院されるケースが多いのですが、その段階ではすでに腎臓病を発症している場合があるため、治療が難しくなってしまいます。移行上皮癌の治療は抗がん剤がメインになるので、腎機能が落ちている状態での治療開始はハードだからです。
また別の犬の例では、肝細胞癌を見つけることができました*2。このケースでは、血液検査で肝酵素の値が高いことが分かっても、エコーなどの次の検査をせず、治療しないまま時間が経ってしまうことが多くあります。しかしエコー検査によりその場で診断を進めることができるため、こうした症例の早期発見につながっています。
検診によって見つかった疾患のエピソードは
後藤先生 がん検診によってほかの病気が見つかるケースも多くあります。例えば小型犬では循環器系の疾患ですね。軽度の僧帽弁閉鎖不全症の動物は、ご家族でも気付くことが難しい状態です。しかしエコー検査により、40数頭のうち10頭ほど見つけることができました。すぐに治療が必要な症例もありましたし、その後のフォローアップをしていくケースもありました。
また、心雑音のLevine1/6の症例では、エコーでどの程度の逆流があるかを見ないとご家族に説明することが難しいため、エコー画像があることでお伝えしやすくなっています。
森田先生 心エコーとなると、どうしてもお預かりする時間をいただかなくてはいけませんでした。以前は昼間に動物をお預かりして夕方のお迎えをお願いしていたため、時間的なハードルが高くなっていたのです。しかし、ARIETTA 65Vの精度と後藤先生の技術が合わさることで、ある程度のお時間をいただければその場で検査することが可能になったため、ご家族の負担も軽減できるようになりました。
森田先生 最新機器を導入したことで、血液、X線、エコー検査を一連の流れで院内で完結できるようになりました。病気を早期発見できる環境が整っていることは、オーナーさまにとっても我々にとっても価値があると思います。
後藤先生 オーナーさまも我々も最も心配なのは、病気を認識していない状態で、どんどん症状が進行していることです。健康診断におけるがん検診によって早い段階で病気が分かれば、何かしらの手を打つことができますから。
森田先生 獣医療の進歩によって動物たちも長寿になってきているので、今後も健康診断におけるがん検診の需要は増えていくと考えられます。大学病院は診察日が決まっていたり、時間が掛かったりするので、どうしても都合が付きにくいことがあります。そうした時でも、当院なら気軽に来ていただけますし、がんを専門的に扱ってきた獣医師もいます。がんにおいても「モリタ動物病院に行けば診てくれる」という認識を広めていくことで、地域の皆さまのお役に立てればと思います。
富士フイルムグループに期待することは
後藤先生 血液で言えば凝固系の院内検査項目が拡充されるとうれしいですね。院内で測定することができればDICやPre-DICの重篤な動物にも対応できます。大学ではそれらが早く判断できたことによって、血漿輸血や全血輸血で救命できたケースが何例もあったので、院内で測定できれば助けられる命が増えるのではないかと思います。
森田先生 将来的に期待するのはCTです。動物病院にも入れられるくらいにコンパクトになってくれるとありがたいですね。現在でもコンパクトなものはありますが、やはり画像の信頼度もあるので導入は見送っています。難しい要望だとは思いますが、富士フイルムさんの技術力に期待しています。
モリタ動物病院(東京都荒川区)導入機器
- 動物用臨床化学分析装置「富士ドライケム NX700V」
- 動物用免疫反応測定装置「富士ドライケム IMMUNO AU10V」
- 動物用X線画像診断システム「FUJIFILM DR CALNEO Smart V」、画像処理ユニット「V Station T」
- 動物用超音波診断装置「ARIETTA 65V」