このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
研究推進本部 イノベーション推進部門
社会実装看護創成研究センター 教授
村山 陵子 氏
10年以上にわたって、末梢静脈カテーテル留置(PIVC)における点滴トラブルの予防・防止に向けた研究に取り組んでいる藤田医科大学の村山陵子氏に、PIVCの課題やエコーを用いたPIVCの意義・今後の展望などについてお話をうかがった。
静脈カテーテル留置の目的、種類、選択基準は。
輸液療法の目的は、血管内へ水分、栄養、薬物などを投与し、血管内容量の増加や標的細胞内への必要物質の供給によって、恒常性の維持や障害された臓器の機能回復を補助することです。静脈カテーテルは、輸液などの血管内投与において、そのルートを確保するために留置します。静脈カテーテル留置におけるアクセス機器は、Vascular Access Device(VAD)と呼ばれ、カテーテルの先端の位置によって、末梢静脈カテーテル(PIVC)と中心静脈カテーテル(CVC)に分けられます。PIVCは長さによって3つに分類され、CVCも留置方法などによって4つに分類されます。VADの選択基準は、国ごとにガイドラインが発出されていますが、感染予防の観点から投与薬剤とカテーテルの留置期間によって決定するのが基本となります。
PIVCにおける課題は。
PIVCの課題としては、catheter failure(CF)とdifficult intravenous access(DIVA)の2つと考えています。CFとは薬液投与終了前に中途でカテーテル抜去が必要な状態のことで、点滴トラブルとも言われます。DIVAとはカテーテルの留置が困難な血管のことです。CFの定義は、何らかの理由で薬剤を持続的に滴下しながら静脈内に注射できず、カテーテルを抜去せざるを得ないこと、とされていて、理由の多くは、腫脹、発赤、疼痛、硬結、滴下不良といった症状・徴候です。CFが起こると、輸液療法は中断しなければならず、また、再留置を行う場合は、患者・医療者双方の負担となり、医療費がかかることも問題となっています。DIVAは留置困難血管のことで、定義は、臨床医が2回以上アクセスに失敗した場合、血管を視診・触診できない場合、患者がDIVAの既往を表明または記録している場合、とされています。DIVAにおいては、カテーテル留置の失敗や遅延によって、診断・治療の遅れ、合併症リスクの増加、医療者のストレスと作業量の増加、患者の不快感・不安の助長、医療費の増加につながります。
PIVCにエコーを活用する研究を始めた経緯は。
従来は、点滴トラブルが起こると、その理由も分からないままにカテーテルを抜去して、再留置を行うという状況でした。そうした中で、私は10年以上にわたって点滴トラブルの予防・防止に向けた研究に取り組んできましたが、ある時、真田弘美先生(現・石川県立看護大学学長、東京大学名誉教授)から「点滴トラブル時のカテーテルの確認や皮下の状態の観察に、エコーを活用してみてはどうですか」とアドバイスをいただきました。そこで、エコーで観察したところ、カテーテルも血管も血管周囲の組織も明瞭に確認でき、「視診・触診では分からなかったことがここまで見えるのか」と驚き、そこからエコーを用いたPIVCの研究に取り組み始めました。なお、私は助産師でもあることから、エコーは産婦人科領域では身近な存在で、従来から看護師でも使用できるツールとして認識していました。
PIVCにエコーを活用することで得られるメリットは。
エコーを使うと、短軸方向では血管径、深度、カテーテルの位置、血管周囲組織の状態などが、長軸方向では血管内でのカテーテル先端の角度(血管壁への当たり方)と位置、静脈弁や血管周囲組織の状態などが確認できます。そのため、カテーテルの留置に適切な血管を選択できる点と、カテーテルが適切に血管内に留置されているかという確認ができる点が大きなメリットです。
出展元 : 看護理工学会 編(2022) 末梢静脈留置技術 ベストプラクティス 照林社
看護理工学会では、PIVCにエコーを用いるアルゴリズムを作成し、エコーを使用しない従来のアルゴリズムに、エコーが推奨される3つのタイミングを組み入れました。具体的に、エコーを使用するタイミングとして、①留置する血管・穿刺部位を決める時、②穿刺時と穿刺後逆血が見られない時、③カテーテル固定時に先端の位置を確認・調整する時、を推奨しています。
PIVCにエコーを使用する際の注意点は。
エコーを使えば穿刺成功率は高まりますが、PIVCにエコーを活用する目的で優先されるのは、点滴トラブルの予防です。エコーで見えるからといって、視診・触診では穿刺できなかったような細い血管や5mm以上深い血管等を選択してしまうと、たとえ穿刺に成功したとしても点滴トラブルが発生する確率が高まります。点滴トラブルを防ぐためには、適切な血管を選ぶことが何よりも重要で、そのためにエコーを使用していることを忘れないようにしてください。なお、エコーを用いたカテーテル留置については、「エコーガイド下穿刺」と言われることがありますが、PIVCにおいては、エコーで穿刺針をガイドするわけではなく、エコーは血管等の観察ツールとして使用します。また、「エコーガイド下」とすると、医師等が行うCVやPICCのカテーテル穿刺を連想されることが多く、そうした誤解が看護師たちの参入を阻む要因にもなります。そこで、私たちとしては、看護師に広くエコーを活用してもらうために、「エコー下」や「エコーを用いた」といった、より適切な表現を用いるようにしています。
開発にも携わられたワイヤレス超音波画像診断装置「iViz air」の評価は。
開発段階からさまざまな要望に応えていただいたこともあり、画質も操作性も良いと感じています。また、ワイヤレスの使い勝手も良く、プローブを薄くしていただいたことで臨床看護においても使いやすい装置になっていると思います。
AI技術を活用して開発したオプション機能「PV穿刺モードPlus」については。
上肢末梢の動静脈をリアルタイムで判別するだけでなく、血管の太さ・深さを数字で示してもらえるので、血管の選択時に迷わなくて済むと感じています。穿刺に慣れた方にも役立つ機能だと思いますが、特に初学者は、PV穿刺モードPlusを使用することでプローブ走査や計測の手間に煩わされる時間が減り、エコー下の穿刺手技に集中できますので、上達も早まるのではないかと思っています。
エコー下穿刺用のドレッシング材「カテリープラス™エコー」を開発した経緯は。
エコーゼリーは穿刺部に付着すると不潔になるため、ゼリーではなく消毒液で代用していました。しかし、消毒液は揮発してしまいますし、静脈はプローブが皮膚に当たっただけでも潰れてしまうほど繊細です。そのため、ゼリーを使うには、皮膚とゼリーの間にフィルムを挟む必要がありますが、従来のドレッシング材ではエコーの透過性が低下してしまうという課題がありました。そこで、ニチバン株式会社と看護理工学会が共同で、エコー透過性の優れたドレッシングフィルムとして「カテリープラス™エコー」を開発しました。カテリープラス™エコーは剝離ライナーと離型フィルムがついていて、留置成功後は、そのまま固定用フィルムとして使用できる点も特長になっています。
看護エコーの今後の展望は。
看護エコーについて、私は視診、触診、打診、聴診、問診と同様に、エコーを「可視化診」とし、フィジカルアセスメント技法の一つと捉えて、普及させていくべきだと考えています。その普及のためには、まずエコーを看護師も使用できるツールとして認識し、エコーの技術を習得する必要があります。その上で、それぞれの施設・現場におけるケアの中でエコーの利点をどのように活用できるのかを考えて、チームで取り組んでいただきたいと思っています。
「iViz air」へのAI技術を使用して開発した機能への付加や、「カテリープラス™エコー」のようなエコー下穿刺用のドレッシング材の開発により、PIVCにおけるエコー活用が促進されることを期待しています。
今後、富士フイルムに期待していることは。
看護エコーの普及・浸透に向けては、複数の看護師が日常的にエコーを使用して、エコーを用いたケアについてディスカッションできる環境が必要だと思います。そうした中で、看護師が使えるエコーがその施設に1台しかないような状況では、なかなか普及が進んでいかないので、より多くの装置を現場に届けられる仕組み等を検討していただければと期待しています。
今後、ニチバンに期待していることは。
穿刺から固定までの留置技術の流れも手技者ごとに方法が微妙に異なることがあるため、使用実績を積む中でフィルムのユーザービリティーの評価、医療従事者、患者双方の満足感の調査、費用対効果の検証を行い、より良い留置技術のサポートとなるよう製品のブラッシュアップを期待しています。
製品名 : エコーガイド穿刺・固定用ドレッシングカテリープラス™エコー
一般医療機器カテーテル被膜・保護剤 医療機器届出番号 : 13B2X00218222201
- 販売名
FWUシリーズ
- 認証番号
301ABBZX00003000