このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
信州大学医学部保健学科看護学系/ 信州大学医学部附属病院内視鏡センター
兼任教授
中山佳子 先生
小児消化器病の診察において、1日に約30人の患者さんを診ています。その半数は難治性疾患の方、もう半数は機能性消化管疾患の方です。機能性消化管疾患の患者さんの内、10人弱が便秘で来られています。私は当院の他に、県内の病院で小児消化器外来も担当しているのですが、そちらでは1日に10人以上の便秘のお子さんを診察しています。その際、腹部を可視化できるエコー検査は有用ですし、さらに、スマホ型のポータブルエコーは小児の便秘症において、直腸に溜まった便の評価においてその効果を最大に発揮すると実感しています。
便秘症を患う小児の診察現場
便秘症のお子さんは、硬くて大きな便を出すために肛門が切れてしまったり、病院で無理やり浣腸をされたりと、お尻にトラウマ抱えていることが多いです。病院に来るとまた浣腸をされるのではと恐怖心を感じています。
そういうお子さんにとって、診察室に入ったとたんに目に入る大きなエコー装置は、警戒心をさらに煽るもののようです。「あれで何するの?」「痛いことするの?」と不安そうに聞きます。
診察時、「お尻見せて」って言っても、パンツをおろさせてくれなかったり、おむつを開けると外肛門括約筋をピシッとしめて見せてくれなかったり。肛門にトラウマのある子どもさんはすぐにわかります。まずは仲良くなって、またこの病院に来てもいいよ、と言ってくれることを目標に診察をはじめます。
スマホ型のポータブルエコーがある診察室の風景をみてください(写真)。
この診察室にくる子どもさんの反応は、今までと少し違います。今の子どもたちは幼児のうちからスマホを見慣れています。おもちゃと同じ感覚です。「ちょっとスマホでお腹を見るだけだよ」というと、お子さんが自主的にお腹を出して、プローブを当てさせてくれます。スマホの画面の中を、興味津々に覗こうとするほどで、全く警戒心を抱かない。この「スマホ型」というのが、小児科の診療ではいいなと、実感しました。
親御さんからしても、子どもに泣かれると辛いですよね。お子さんが泣かないことは、親御さんにとっても心理的負担の軽減につながるのではないでしょうか。また、お母さまの場合、妊娠時にエコー検査をしていた方がほとんどですので、エコーは非侵襲的だということを把握されています。そのため、お子さんのエコー検査には不安を全く感じられないようで、評判はとても良いです。
スマホ型のポータブルエコーは、膀胱の背側にある直腸の便の溜まり、いわゆる直腸便塞栓の描出に優れています。エコー検査をし、大きな便の塊が直腸にあるとわかった場合、まずはお子さんと親御さんに「浣腸をしていいかどうか」を聞くようにしています。コミュニケーションができるお子さんが「浣腸は絶対に嫌だ」って言ったら、親御さんに浣腸をしてほしいと言われても、初めての診察では浣腸をしません。「私は浣腸しないので」とお子さんと約束をして、お子さんに「あの病院は行ってもいい」と思ってもらえるように信頼関係を築くことを心がけています。お子さんの意思を尊重しながら、治療と診断を重ねています。
便秘症の小児におけるエコー活用の症例
実際にスマホ型ポータブルエコーを診療で使用した症例を紹介します。そのお子さんは乳児期から便秘症の幼稚園児で、外来で初めて診察した時には、ベッドに横になって診察すること、腹部超音波検査にも抵抗があり、ビデオを見ながら何とかエコー検査を行うと、直腸からS状結腸に硬い便が溜まっていることが確認されました(写真:治療前)。トイレットトレーニングが終了しておらず、オムツには便がときどき付着する状態で、直腸が6センチと正常の倍近くに膨んでいました。自宅で浣腸をしても便が出にくいとご家族は言われました。子どもさんは、浣腸をしたくないといいます。そこで、ガストログラフィン注腸で便秘の原因となる腸管の病気を鑑別しながら、便塞栓を取り除き、緩下剤とレスキュー薬としての刺激性下剤による便秘症の治療薬を処方しました。
その後、週に1度の外来診療で、子どもさんのエコー検査への抵抗はなくなり、ビデオを見なくても検査ができるようになりました。直腸に溜まっている便の硬さや大きさをスマホ型ポータブルエコーで見ながら、下剤の量やレスキュー薬を使うタイミングをご家族と相談しました。
治療開始から2か月ほどたった時点で、トイレで排便ができるようになり、便失禁もありません。ポータブルエコーでは、直腸の便の貯留も観察されなくなりました(写真:治療後)。
この間に、親御さんに「硬い便が少し軟らかくなっています」と伝えると、「ちゃんと薬は効いているのですね」、「この子にあっているのですね」という反応があったり、時には「でも、やっぱり治すのは簡単じゃないのですね」と言われたり。治療を始めた直後は、うんちが出ているので下剤を早く減らしたいという気持をお持ちでしたが、一緒にポータブルエコーの画面を見ながら治療を継続することについて理解を深めていただけました。
このお子さんに関しては、スマホ型ポータブルエコーを使うことで、お腹やお尻を診察室で見せてくれるようになり、診察を始めてからの2か月間で親子の変化を実感した一例です。
治療前
治療開始2か月後
ポータブルエコー活用のさらなる可能性
小児科の患者さんの中には脳性麻痺等による重度心身障がい児(者)の方もいます。お子さんは年を重ね、体が大きくなっても寝たきりの状態が続きます。片や、親御さんは年齢が上がっていくので、お子さんを連れての通院が徐々に難しくなっていきます。そのため、地域の訪問診療の先生と連携することも多くなります。
重度心身障がい児(者)の患者さんには、便秘症の合併が多いです。定期的に浣腸や摘便をしている方も稀でありません。訪問診療の際、ポータブル性とバッテリーの持ちが良いスマホ型ポータブルエコーは、直腸便塞栓や尿閉などの評価において心強いツールになると思います。
また、二分脊椎の患者さんでは程度はいろいろですが、排尿と排便障害を伴い、自己導尿や浣腸を定時で行います。
患者さん本人や親御さんにとって、毎日定時で浣腸するのは難儀なことです。「摘便したのにちょっとしか出ない」、「浣腸したのに液しか出ない」ということも実際にあり、患者さんや親御さんは、便の溜まり具合の有無をとても気にされます。こういった時にポータブルエコーで腹部を可視化すれば、在宅で残尿と残便を確認し、患者さん本人や親御さんに共有できるようになります。
このように医療的ケア児(者)の在宅医療の領域おいても、ポータブルエコー活用の可能性拡大に期待しています。
- 販売名
FWUシリーズ
- 認証番号
301ABBZX00003000