このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
藤田医科大学 総合診療プログラム
大道 卓也 先生
神谷 龍輝 先生
湊 しおり 先生
(以上、五十音順)
藤田総診(藤田医科大学 総合診療プログラム)の2021年度の新専攻医で、「携帯型超音波機器を用いた総合診療研修専攻医に対する超音波教育に関する教育プロジェクト」に参加している3名に、これまでのエコーとのかかわりや教育プロジェクトに対する意気込みなどについてお話をうかがいました。
エコーとのかかわりは三者三様
自己紹介をお願いします。
大道先生 名古屋大学医学部を卒業後、名古屋第二赤十字病院(八事日赤)で初期研修を受け、現在、医師3年目です。医師を目指した理由は、父親が医師だったことも大きいのですが、もともと気軽に相談できる医師として身の回りの人たちや地域に貢献したいという想いがあり、その中で、子どもから大人まで、どのような症状でも「専門外」と言わずに受け止める医師になりたいと考えて総合診療医を志しました。
神谷先生 島根大学医学部を卒業後、松江生協病院で初期研修を受け、医師としては今年で3年目です。医師を目指した理由は、看護師の母親が長野県の諏訪で働いていた際に、地域医療のパイオニアである鎌田實先生(現・諏訪中央病院名誉院長)のお話を聞き、書籍も読ませていただいて、地域の人たちと一緒になって健康を守っていく鎌田先生のような医師像に憧れを抱いたからです。そして、学生時代に医療法人かがやき 総合在宅医療クリニックの市橋亮一先生にお会いしたことがきっかけで在宅医療に興味を持ち、在宅医療と最も親和性のある総合診療専門医への道を選びました。
湊先生 広島大学医学部を卒業後、青森県八戸市で初期研修を受け、3年目からは愛知県で整形外科の診療に従事して専門医を取得し、現在は医師10年目です。直近の2年間は離島へき地プログラムに参加して、千葉県銚子市の島田総合病院で内科、産婦人科、整形外科の診療を行っていましたが、その中で自分の医学知識をあらためて見直して、ブラッシュアップしたいという想いが強くなり、総合診療プログラムへの参加を決めました。
これまでのエコーとのかかわりは。
大道先生 もともと低侵襲でリアルタイム性のあるエコーに興味を持っていたのですが、初期研修1年目の冬に上松(東宏)先生とお会いさせていただいた際にPOCUSのお話をうかがってエコーに対する興味をさらに高めました。そして、2年目の秋に上松先生から教えていただいたポケットエコーを購入して、日々の診療で活用したり、自主的な勉強に使用していました。
神谷先生 私の初期研修先はそこまで規模が大きくなかったため、診療科によってエコーを学ぶ機会に差があり、循環器や泌尿器といったエコーが広く活用されている診療科ではエコーを学ぶ機会が多かったのですが、その一方で腹部や筋骨格系のエコーに触れる機会は限られていました。ほかに、在宅の研修では、エコーで尿量を測定して患者さんやご家族とのコミュニケーションに役立てたり、腹腔穿刺のガイドとして使用する手技を教えてもらい、エコーは在宅でも非常に有用なツールだと感じました。
湊先生 初期研修から整形外科に進もうと考えていた時に、ちょうど整形外科領域のエコーが流行り始めていて、その頃から東京の運動器エコーセミナーを受講したりもしていたのですが、当時は外来にエコーがある施設が少なく、実際に診療でエコーが使えるかというとなかなか難しい状況でした。その後もエコーに対する興味は持ち続けていて、機会があればセミナーを受けているのですが、なかなか思うように使いこなせない“片思い”の状態が続いています。
身体所見とエコーの組み合わせで診断精度が向上
聴診、触診、打診との比較において、エコーの位置づけは。
大道先生 心雑音に関してはその場でエコーをパッと当てられるので、心エコーは聴診器代わりにもなると思います。腹部エコーに関しては、私の技能レベルの低さもあるかもしれませんが、打診や触診で診察してCT撮影という流れをエコーで代替できるかというとなかなか精度的に難しいかなと思うところがあります。
神谷先生 心雑音のケースでは、大動脈弁狭窄症(AS)や大動脈弁逆流症(AR)を確認したいので、ドプラがあるといいなと思う時はありますね。腹部に関しては、泌尿器領域ではエコーが有用だと思いますし、腸管の動きについてもしっかりとto-and-froが見られるようになればエコーの方が有用かなと感じています。身体所見との関係では、まずは身体所見を確認して、その上で診断精度を高めたい、分からないから見てみたい、あるいは患者さんやご家族に見てもらいたいというケースでエコーを使用しています。
大道先生 私も患者さんやご家族に納得していただくツールとして、エコーを活用することがありますね。また、身体所見との関係では、エコーは身体所見の答え合わせとして使うことも多く、その身体所見に対してそれ以上の評価をする時に最も有用なツールだと感じています。
湊先生 身体診察では体全体を上から下まで見ていくこともありますが、エコーは何かありそうだと思って当てることがほとんどですよね。そこは身体診察との大きな違いだと思います。
ポータブルエコーに対するイメージは。
大道先生 据え置き型やラップトップ型との比較では、在宅医療や小規模な施設であれば高画質のポータブルエコーで十分ではないかと感じています。また、私の学生時代を振り返ると、臨床実習でエコーに触れる機会がとても少なく、おそらく年間の合計で10分も触れていないのではないかと思います。これは施設内にあるエコーの台数に起因するものだと考えていて、もし高画質で機動性の高いポータブルエコーが学内や施設内に複数台あれば、学生や研修医のエコー教育に非常に役立つと考えています。
神谷先生 やはり大きな装置を持ち運ぶのは大変ですし、患者さんのご自宅やベッド周りの環境はさまざまなので、ポータブルエコーは在宅でも有用だと思います。
湊先生 ポータブルエコーは、手技や処置をする際に場所を選ばず迅速に見たいものが確認できる点が強みだと思っています。
1人1台でエコーが上達しやすい環境に
総合診療を学ぶ場において、ポータブルエコーの教材としての有用性は
神谷先生 私は今、病棟チームに在籍していて、回診の時は1人1台貸与されたポータブルエコーを常に持ち歩いています。その中で、指導医の先生からエコーの使い方を教わる機会も多く、例えば、肺エコーでうっ血性心不全の患者さんに肺水腫を確認した後に胸水を確認して、さらに頸静脈にもエコーを当てると実はすごく怒張していたというような症例を、その場にいる全員で一緒に画像を見ながら共有できるというのはすごく大きいですし、ポータブルエコーの教材としての有用性を実感しています。
湊先生 リアルタイム性はエコーのメリットでもありますが、その一方で学習の難しさにもつながっていると思っていました。当然ながら教科書には静止画が掲載されていますし、動画を見てもエコー像と走査している様子を同時に見るのはとても難しいのです。その点で、1人1台ポータブルエコーがあれば、機会を逃さずに教えてもらい、その場で実践できるので、上達しやすい環境にあると感じています。
大道先生 私自身、購入したポータブルエコーでセルフエコーもしていましたが、自分に当てるのと患者さんに当てるのではエコーの角度も見え方もまったく違うので、エコーを学ぶ際は被検者の存在がとても大事だと感じています。現在のように1人1台ポータブルエコーを持っていれば、空いた時間に専攻医同士でお互いにエコーを当てて自主練することもできますので、とても勉強になると思います。
最後に、今回の教育プロジェクトに対する意気込みをお願いします。
湊先生 まだ講義が始まっていないのでエコーの使い方に悩みつつも、エコーの教科書を見直したり、自分の体に当てたりして試行錯誤している段階ですが、今度こそ苦手意識をなくして、エコーと“両思い”になれるようにがんばりたいと思っています。
神谷先生 今回のプロジェクトで、まずはエコーに対する苦手意識をなくして、自分の中でのエコーの可能性を広げていきたいと考えています。今は、回診以外でも余裕のある時はどんどん患者さんにエコーを当てるようにしていて、常に手元にエコーがあることでエコーを使う頻度が上がったと実感しています。せっかくの機会なので、6か月の貸与期間を最大限に活かして、エコーのスキルアップに努めていきたいと思います、
大道先生 今回のプロジェクトを通じて、心臓や腹部のエコーをブラッシュアップするのはもちろん、エコーへのアクセシビリティを活かして、今まであまり当てたことのない皮膚や関節、甲状腺など領域にもチャレンジして、スキルを身につけたいと考えています。まだ1か月の段階ですが、ポータブルエコーが常に手元にあることで、これまで以上にエコーを活用していこうと思うようになりました。プログラム指導医の上松先生は私の憧れの存在なので、いつか上松先生くらいエコーを使いこなせるようになって、エコーの裾野を広げていけるようになりたいと思っています。