このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
この記事では、ポータブルエコーを活用して診断した症例についてご紹介します。今回は、皮膚科医の倉繁祐太先生が診察した、50代男性の皮膚腫瘍の症例です。
ポータブルエコーを活用した患者さんのご紹介
住まい:群馬県
性別:男性
年齢:50代
病状の概要:右頬の“腫れもの”
当院を初診した50代男性の葉山貴男さん(仮名)は、「右の頬の部分が腫れてきた」という理由で来院されました。1週間ほど前から、写真のような状態が続いているとのことでした。
このような症状の患者さんを診察する際に確認すべきことは主に2点あります。疼痛の有無と、患部の硬さです。葉山さんの患部を触診したところ、比較的柔らかい状態でした。
ポータブルエコー活用の経緯
これまで、ポータブルエコーは活用せずに診療を行っていました。今回も、初診時の診察で粉瘤(表皮嚢腫)の可能性が高いと判断できました。粉瘤は、皮下に上皮細胞が陥入・増殖して嚢状の構造物(嚢腫)を形成し、内部に角質が貯留する良性腫瘍です。通常は無症状ですが、時に異物反応によって炎症を生じ、発赤や疼痛を伴い嚢腫内部に膿瘍を形成することがあり、このような状態は“炎症性粉瘤”と呼ばれます。なお、一般の皮膚良性腫瘍は内部が腫瘍細胞で占められ充実性腫瘤を形成しますが、視診のみでは粉瘤と区別することが難しい場合もあります。
皮膚科医が粉瘤の診療を行う上でポータブルエコーを活用する意義は、「炎症の有無を評価し、治療方針をより正確に判断できる」ことです。
葉山さんの患部は発赤を伴っていたため、視診と触診のみで炎症性粉瘤と判断できました。しかしながら、対応を検討する上で、嚢腫内部の膿瘍形成の状態により、異なる対応を選択することがあります。膿瘍形成が目立つ場合は切開・排膿することで早期に炎症を軽減することができます。一方で膿瘍形成が目立たない場合は炎症が軽微であり切開などの侵襲を伴う処置を行わずとも炎症を軽減できる場合があります。葉山さんに対しても、炎症の状態をより正確に評価するために、ポータブルエコーを活用しました。
エコーの所見は、皮下の境界にやや明瞭な低エコー領域と、後方エコーの増強でした。嚢腫の壁構造と周囲組織の境界が不明瞭で、炎症性粉瘤の所見に一致し、視診による臨床所見と矛盾しないと判断できました。「右頬部炎症性粉瘤」と診断しました。
ポータブルエコーを使用したことで、嚢腫構造をもつ皮下腫瘍であることと、嚢腫内部の膿瘍形成が顕著であることが判明したので、切開・排膿の処置を行い早期に炎症の軽減を図る方針としました。
ポータブルエコーの活用が早期の処置につながった
視診で確認できた発赤が比較的軽微であったため、ポータブルエコーを使用していなければ抗生剤内服や患部の冷却などの保存的治療を選択していた可能性があります。その場合、炎症や疼痛がさらに悪化し、皮膚が破綻して膿瘍が排出され(自壊といいます)、皮膚に大きな瘢痕が残ってしまう可能性もありました。皮膚科を受診したのに粉瘤が自壊してしまうと、患者さんは「悪化した」、「治療が効かなかった」と感じて治療に対する満足度が低下してしまうことが多いのです。
ポータブルエコーの活用ポイントのまとめ
最後に、今回の症例・ポータブルエコーの活用ポイントについてまとめておきます。
症状把握:右頬部の疼痛を伴う“しこり”。
ポータブルエコーの活用を決断した理由:視診と触診のみで炎症性粉瘤と判断できたが、処置の内容を適切に選択するために、ポータブルエコーを活用した。
活用結果:後方エコーの増強が目立ち、嚢腫構造をもつこと、内部多量の液体が貯留していることが判明した。また、嚢腫壁の境界が不明瞭であったことから、明確に炎症性粉瘤と診断できた。
活用の効果:炎症の軽減を図るために、切開・排膿の処置が必要と判断。円滑に治療方針を決定することができた。
活用のポイント:臨床写真で判断した病変の構造とエコーの所見に相違がないことを確認できた。またエコーの所見から、切開・排膿処置の必要性についても判定できた。
- 販売名
FWUシリーズ
- 認証番号
301ABBZX00003000
医師 / 皮膚科
倉繁皮ふ科医院 副院長
倉繁 祐太 先生
出身大学:東海大学医学部卒業、東京医科大学大学院医学研究科修了(博士・医学)
主な経歴:東京医科大学(助教)、東海大学医学部付属病院(講師)、TMGあさか医療センターなど
専門(学会等):日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本褥瘡学会認定褥瘡認定医師、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本臨床皮膚外科学会専門医
皮膚科医を志したきっかけ:医学生時代の臨床実習で、皮膚科学に強い興味を持ったことがきっかけです。皮膚疾患の診断は、熟練した“皮膚科医としての目”を必要とする、まさに“匠の技”であり、皮膚科医として18年経った現在でも、修練を重ねる毎日です。一方で皮膚科学は皮膚外科手術や皮膚病理診断などの幅広い分野を網羅した学問であり、視診・触診による臨床診断にはじまり、エコーなどによる画像診断、手術による病変の摘出・治療、病理組織による確定診断までをすべて網羅しています。そのため一人の患者さんに対して、初診から治療を終えるまで一貫して関わることができる点が大きな魅力です。
これまでは大規模な病院の勤務医として、皮膚がんの手術や薬物治療、褥瘡診療などを含む皮膚疾患全般の臨床業務を行ってきました。近年はポータブルエコーが身近な存在になったこともあり、皮膚疾患に対して、クリニックや在宅においても今まで以上に高度な診療ができるようになりました。そこで、より幅広い患者さんの診療に携わりたいと考え、母が院長を務めるクリニックに入職して地域医療に邁進しています。また、月1回在宅診療に従事しており、今後も皮膚科医として自身が活躍できるフィールドを拡げたいと考えています。