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日本

開発者インタビュー

AI技術を活用し胸部CT画像から肺結節候補の自動検出・性状分析で医師の診療をサポート

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

  • *この記事は、開発に従事した富士フイルム株式会社メディカルシステム事業部メディカルシステム開発センターの一ノ瀬晶路さん、桃木陽平さんに2023年12月にインタビューを行った内容です。
お二人の経歴を教えてください。 今回開発した「肺結節検出機能」と「肺結節性状分析機能」の概要は。 開発の経緯は。

一ノ瀬:PACS(医用画像管理システム)を市場に提供している弊社では、「システムにAIを利用して開発した機能を搭載することで画像診断の質向上と効率化に貢献する」というAI開発方針があります。AIをどのように活用していくのかを考えた時に、まずは「がん」の画像診断を支援する技術を開発していくことになりました。こうした技術があれば、がんの診断がしやすくなるでしょうし、早期発見できれば患者さんのQOL(Quality of Life)向上に貢献できると考えたからです。
がんの中でも、肺がんは罹患者数、死亡者数ともにトップクラスに高いがんです。そこで、放射線科医の先生方にお話を伺ってみたのですが、肺の画像診断は大変な作業であるというお声を数多く頂戴いたしました。というのも、CTの高性能化で早期がんの可能性のある小さな肺結節・淡い肺結節まで指摘できるようになった一方で、何百枚もの画像を丁寧に観察してこうした影を網羅的に拾うのはとても時間がかかるからです。
このようなことから多くの患者さんの役に立ちたい、先生方の画像診断を技術でサポートしたいと思い、第一弾として肺結節検出機能・肺結節性状分析機能の開発に至りました。

桃木:肺がんは研究が盛んで診療ガイドラインの整備が比較的進んでいることも肺結節を第一弾とした理由の一つです。「所見文の候補を提示する」ためには、CT画像中で指定した肺結節がどの性状を持っているかをAIに学習させる必要がありますが、何を認識させるかは人間が定める必要があり、これをガイドラインに沿って決めています。これらの背景から、まずは肺がんを含めた「肺結節」をターゲットに開発することを考えました。

開発する上で苦労した点は。

桃木:肺結節性状分析機能に関しては、「所見文候補を提示する」という機能をAIで技術的に作っていくところが大変でした。最終的なアウトプットである「所見文」にたどりつくためには、何を書くか(データ構造)を決める必要があります。ただ、「肺結節」と一口に言っても、悪性腫瘍もあれば良性の場合もありますし、そもそも腫瘍以外の疾患ということもあります。指定した肺結節の結果を文章で表現するには、いろいろなパターンをカバーしたデータ構造が必要です。
そこで私たちは、ガイドラインに記載がある性状を網羅することはもちろん、共同研究先の病院様から数万件規模の読影レポートを収集させていただいて分析し、共同研究先の医師と何度も議論を重ね、所見文によく記載される性状はカバーできるように、悪性腫瘍以外についても考慮してデータ構造を設計しました。
所見文候補を提示する機能のコアとなる医療言語処理技術については、弊社では初の取り組みでもあり、技術的な知見や開発基盤が全くない状態から製品化できる技術レベルまで構築する必要があったため、非常に苦労しました。

特に開発で力を入れた点は。

一ノ瀬:医師との議論の中で、血管などの正常構造に紛れて指摘が難しい小さな肺結節をなるべく拾い上げるAIを開発することが重要だと理解し、AIに小さな病変を認識させることに力を入れました。小さい病変を多く含むようにデータセットを構築したことに加え、一般的な病変検出アルゴリズムと比べて小さい影に着目しやすいアルゴリズムを開発しました。
さらに、使いやすいAIにするには誤検出数を抑制することも重要です。この点に関しては、弊社の肺野認識技術を活用し、肺野外の候補の検出を抑制する処理を加えています。
肺結節性状分析機能については、肺区域を認識するAIの開発に力を入れました。画像上では肺区域の境目が視認できません。そのため、「区域を塗り分けたデータをたくさん作りAIに教える」という従来のアプローチができないのです。当初すごく悩んだ部分なのですが、先生方へのヒアリングを繰り返す中で、医師が「気管支の支配区域を追って肺の区域を認識している」ことを知りました。そこで、「肺区域は区域気管支の起始部を頂点とし、末梢に広がる」という医学知見をもとに、区域気管支の起始部の位置と、起始部より末梢側の気管支分枝が同一の肺区域であることを学習させました。これにより、患者間の気管支の長さや分岐の違いに対応できる技術を構築することができました。

桃木:肺結節が持つ性状の組み合わせは様々で、無数の組み合わせがありえます。どのようなパターンの肺結節に対しても妥当な所見文候補を提示できるようにするために、翻訳や質問応答などの自然言語処理の研究分野で用いられる「言語生成」のAI技術を用いることにしました。当初は世の中にある技術を所見文を生成する課題に組み込んで試すところから始めたのですが、開発を進める中で、言語生成AIは流暢で自然な文章の生成に優れる一方、入力した情報(性状)を過不足なく生成文に反映できないことがあり、正確性に課題があることがわかりました。そこで、「文章の内容を評価する」技術を開発し、組み合わせることで所見文候補のクオリティを高める工夫をしました。入力した性状を生成文に正確に反映させるところは特に力を入れた部分だと思っています。

開発者として、今後の展望や思いは。

一ノ瀬:検査数の増加、検査機器の高性能化が進む中で、画像を診断する医師不足が顕著になっています。画像診断を支援するAI技術を開発し、肺だけではなく全身に領域展開することで医療現場の課題を解決する。それにより、患者さんがどこでも質の高い画像診断を享受できる、そんな世界を作っていければと考えています。

桃木:先生方が視認した病変を診断する際に迷いや葛藤を抱えることもあるかと思います。今回開発した技術を全身、肺結節以外の他の疾患にも広げつつ、画像と言語を組み合わせて診断や治療方針策定を支援する新しい技術を開発することで、先生方の精神的な負担を軽減していきたいです。

「SYNAPSE SAI viewer」は以下の医療機器を含む製品の総称です。

  • SYNAPSE SAI viewer用 画像処理プログラム 販売名:画像処理プログラム FS-AI683型 認証番号:231ABBZX00029000
  • SYNAPSE SAI viewer用 画像表示プログラム 販売名:画像診断ワークステーション用プログラム FS-V686型 認証番号:231ABBZX00028000
  • SYNAPSE SAI viewer用 肺結節検出プログラム 販売名:肺結節検出プログラム FS-AI688型 承認番号:30200BZX00150000

そのほかのSAI viewer用プログラムはお問い合わせください。

  • *導入後に自動的にシステムの性能や精度が変化することはない。