このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
近年、第三者からクリニックや医療法人を譲渡してもらい開業する、いわゆる「クリニックの承継開業」のケースが増えています。
地域における医療機関の維持・継続の意味も込め、たとえば秋田県医師会や福島県医師会など、県医師会がクリニックの承継事業に取り組んでいるところもあります。
とはいえ第三者からのクリニックの承継開業に当たっては、そのメリットとデメリットを慎重に検討する必要があります。
まずメリットですが、クリニック開業の初期費用が比較的安価で済むことが挙げられます。患者が一定数ついているクリニックの場合、承継元クリニックの患者を引き継げるというメリットもあります。
クリニックの新規開業では通常、損益分岐点を超えるまで一定の期間が必要ですが、クリニックの承継開業の場合は当初から損益分岐点を超える例もあり、経営の早期安定が期待できます。
一方、デメリットとしては、クリニック承継の対価(譲渡価格)の計算方法が確立していないため、場合によっては割高な負担を強いられることが挙げられます。
承継における対価は、正味財産の価格に「営業権」を加えて算定します。
正味財産とは、クリニック承継時の現預金、売掛金、棚卸資産、固定資産などからなる「資産価額」から、買掛金、未払金、借入金の残債などの「負債価額」を除いた額のことです。
営業権は「のれん代」と呼ばれるもので、継承元クリニックの評判や集患力を総合的に評価した価格のことです。ただし、クリニックの営業権の計算方法には確立したものがありません。
譲渡価格の決定に際しては、正味財産の正確な評価とともに、営業権の金額が妥当かどうかについても仲介業者などとしっかり協議する必要があります。
この他、前院長の評判が特に良かった場合などは、患者の高い期待に応えられずに患者が離反したり、職員を継続雇用した場合に承継するクリニックの新しい方針に馴染めない古参職員が悩みの種となったりする可能性があることもデメリットと言えるでしょう。さらに、医療機器や内装などの老朽化から、多額の追加コストがかかるケースもあります。
クリニック開業資金が抑えられ、場合によっては準備期間も短くスピーディーに開業できる点は、承継開業の大きな魅力です。
建物や内装、医療機器などが新品であることにこだわるのでなければ、第三者からのクリニック承継開業も選択肢の一つと考えてみてはいかがでしょうか。
なお、クリニック承継開業を仲介業者などに依頼する場合、譲渡対価とは別に手数料が発生します。クリニック承継の手数料は、譲渡対価連動型となっているケースが多く、対価の10%程度が相場のようです。承継には数百万から1000万円程度の仲介手数料が必要になることも頭に入れておきましょう。
本記事を含む、「クリニック開業 成功への道しるべ」のコラムをまとめてご覧いただける印刷用ファイルをこちらからダウンロードいただけます。あわせてご利用ください。
【企画・編集 日経メディカル開発】