このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
クレームやトラブルの処理は院長の業務
勤務医時代、診療方針や処方内容、会計、接遇などに対して何度もクレームをつけたり、過度な要求をしたりする、いわゆる「困った患者」に遭遇した経験がある人も多いでしょう。最近ではクレームにとどまらず、暴言や暴力に訴えてくる人も増えているようです。
病院においては、過度なクレームや会計や接遇などへの不満に対しては、事務長をはじめとする事務部門の担当者が対応するケースがほとんどです。しかしクリニックの場合は、人員も少なく専門部署もないため、困った患者への対応やクレーム、トラブルの処理は、クリニックの経営者である院長自身が自らの責任で行っていかなければなりません。
日々の診療の中で発生する患者からのクレームや、困った患者への対応をおろそかにしてはいけません。度重なる患者対応で診療や業務に支障が出たり、クリニックの評判を落としかねないからです。トラブルは小さなうちに芽を摘んでおくことが肝心です。
では、困った患者による、クレームや過度な要求にはどのように対応すればいいでしょうか。その基本を整理しておきます。
1. 早めの対応を心がける
患者からのクレームなどがあった場合は、そのままにせず、早め(できるだけその日のうち)に対応することが肝心です。すぐに患者に連絡を取り話を聞くなどして、医療機関側の誠意を見せることも大切です。
対応を1週間、2週間と後回しにして「医療機関に無視されている」と感じさせることは、患者側の不満を増大させることにつながります。
2. 話を聞くときは複数で
患者の話を聞くときは、必ず複数で対応するようにしましょう。実際には、経験豊富で話を聞くことが上手な看護師や事務職員に対応させるケースが多いようですが、できる限り院長自身も同席しましょう。病院などでは、院長や理事長がこうした席につくのは最終段階と言われますが、組織が小さいクリニックの場合は、最初から院長が出ていった方が話がスムーズに進むことが多いようです。
なお、患者との話し合いの内容は、日時も含め必ず記録し、可能ならば録音しておくようにしましょう。正確な記録は裁判になった場合に証拠になりますし、弁護士に対応を依頼する場合にも役立ちます。
3. 患者の話は時間をかけてよく聞く
患者やその家族が何を言いたいか、何を不満に思っているかを時間をかけてしっかり聞きましょう。たとえ患者の言い分が理不尽であっても、いきなり反論したり否定したりせず、まずは共感的態度を示し、患者の言い分を聞いた上で、説明が必要なら分かりやすく丁寧に説明することが重要です。
なお、医療機関側に明らかに非がある場合は、早い段階での謝罪も必要ですが、そうでない場合は安易に謝罪の言葉を発しないように注意しましょう。
4. 暴力や脅しがあっても特別扱いしない
暴力や脅しがあった場合も、毅然とした対応をするようにしましょう。弱みを見せると、つけ入られる恐れがあるからです。また、できない約束をしたり、特別扱いしたりすることも避けるべきです。
一部の患者に対する特別扱いは、他の患者に知れるとクリニックの評判を落とすことにつながります。
5. 対応が困難な場合は弁護士や警察に相談を
クレームやトラブルに自院だけで対応が困難と感じたら、弁護士への相談を検討します。特に、医療機関側の損害賠償責任が問題となる場合は、弁護士に介入してもらい交渉を任せると、トラブルの早期解決につながりますし、院長も日常の診療業務に専念できるようになります。最近は、患者とのトラブルを得意とする弁護士もいますので、そうした専門家に相談するのもいいでしょう。
暴言や暴力が激しい場合は、近くの警察に相談し、対処法などについてアドバイスを受けておくことが有効です。また、都道府県医師会や地域の保険医協会の中には、トラブル対応の専門家を抱えているところもあります。クレームやトラブルが深刻な場合は、相談してみるのも一法です。
以上、困った患者の対応法の基本を紹介しましたが、こうしたノウハウやトラブル事例をクリニックの職員全体で共有するとともに、体制の整備も進めておくと、いざというときに安心です。表に対応体制整備のポイントをまとめましたので、参考にしてください。
「困った患者」対応体制整備のポイント
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