このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
クリニック、病院などの医療機関に限らず「利益が上がらない」「赤字だ」という理由だけで、会社や医療法人などの事業体は倒産しません。倒産は「手形が落ちない」、「銀行への返済ができない」といった資金のショートによって起こります。
一旦、資金ショートが起こると、取引先への支払いや、クリニック職員の給与支払いも滞るようになります。信用が落ち、クリニックで取り扱う医薬品や医療用具の仕入れに影響が出たり、職員の退職も起こりますから、医業活動に支障が出て、倒産に近づくことになります。
資金ショートはクリニック経営が安定している時は起こりませんが、クリニック開業直後で手元の資金が潤沢でないときや、過剰投資などでクリニック経営のバランスが崩れるとたちまち顕在化します。倒産を未然に防ぐには、収益だけではなくキャッシュ・フロー(お金の流れ)を把握しておく必要があるのはそのためです。
クリニックの経営状態を示す財務諸表には、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書の3種類があります。この中で、お金の流れを示すのがキャッシュ・フロー計算書です。損益計算書に似ていますが、全く異なるものです。
損益計算書は、一定の期間内に、どれだけの収益が上がり、どれだけの費用が出て、どれくらいの利益となったかという財務状況を示す書類です。実際のお金の動きではなく、取引が行われた時点で売上や費用を計上します。
これに対しキャッシュ・フロー計算書は、入金・出金があった時点で計上するため、実際のお金の動きを把握することができます。
キャッシュ・フロー計算書は通常の企業においては①業務活動(医業)に関する資金の増減、②投資活動に関する資金の増減、③財務活動による資金の増減の3つで構成されますが、医療機関では①の業務活動(医業)による資金増減部分が大半を占めることになります(図参照:厚生労働省 キャッシュフロー・計算諸原則より作図)
医療機関であるクリニックの場合、特にキャッシュ・フローに注意を払わなければならない様々な特殊事情もあります。
診療行為を行って売上が発生しても、患者自己負担分以外の約7割の診療報酬は、診療月の2カ月後に入金されるため、損益計算書上のお金の動きと実際のキャッシュ・フローに大きな差が出ます。
高額な医療機器などを購入した場合、一旦資産として計上したうえで毎年「減価償却」の方法で毎年分割して経費化することになります。しかし、代金は支払ってしまっているため、損益計算書上の利益は実際のキャッシュ・フローよりも大きい金額となってしまいます。
また、診療材料、医薬品在庫は、使用した時に費用として処理しますが(在庫部分は費用にならない)、キャッシュ・フロー上は代金を払ったときに計上します。
このような特殊事情から、医療機関であるクリニックでは、損益計算書上のお金の動きと実際のキャッシュ・フローに大きな差が出ることが少なくありません。
損益計算書上は利益が出て黒字であっても、実際には手元にお金がなく各方面への支払いができなくなると、最悪の場合、倒産してしまうケースもあります。いわゆる「黒字倒産」です。そうした意味でも、資金繰りに課題がある場合は早めに対処することが重要と言えるでしょう。
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