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日本

合成材料開発分野 研究者

物質をゼロからデザインし、
より豊かな社会づくりに貢献する。

富士フイルムは写真、ヘルスケア、高機能材料などの分野で第一線を走り続けている。
これらの製品の進化を支えているのは、新たな機能や技術を実現させる材料(有機化合物)の開発と言っても過言ではない。
現在、ヘルスケア製品の材料開発の最先端にいる研究者が、これまでのキャリアとその思いを語る。

分子を設計・合成して新しい材料を生み出す
チームリーダーとして「やり切るマインド」を意識

その後、エネルギー関連材料の開発担当を経て、2016年、彼は「動物用臨床化学分析装置」の試薬開発チームに招かれた。メンバーは自分も含めて4人。最年長ということもあり、リーダーを務めることになった。
2013年に発売された「動物用臨床化学分析装置」は、動物病院内における簡単・迅速な甲状腺機能検査を可能にした免疫診断システムだ。主に高齢の犬や猫がかかる甲状腺機能障害は、早期に的確な診断、治療を行えば快方に向かう。それまでは検査に大型の装置が必要で、動物病院は外部の検査機関へ委託するしかなかったが、このシステムによって病院内で素早く検査し、獣医師がすぐに診断できるようになった。
迅速な検査を実現させたのは、特定の蛍光物質を検出する「表面プラズモン増強蛍光(SPF)法」(図説1)という技術。抗原抗体反応を利用した免疫診断システムを世界で初めて実用化した。開発には写真フィルムの色素化合物の研究で培った技術や、「写ルンです」などの高精度プラスチックレンズ成型技術が活かされた。
多岐にわたる材料を手がけている富士フイルムには、全く異なる分野から技術を持ってきて融合させる発想が根付いている。
「必要であれば、若手の考えであろうが、別の製品の技術であろうが、適切に取り入れようという柔軟性が、この会社の魅力です。畑違いの分野を歩んできた私が招かれたのも、まさにこの組織文化のなせる技でした」
チームに課せられたタスクは、検査可能な項目を増やすため、新たな試薬材料を作ること。しかし、彼にとってグループを率いるのは初めての経験。そのうえ、最新の試薬の発売まで3か月しか残されていない状況だった。
「リーダーとしてまず意識したのは、メンバーに納期の大切さをきちんと理解してもらうことでした。ゴールから逆算して作業を進めようと開発の工程を3つに分け、3人で役割を分担して、私が全体を見ながら進めていく体制を基本にしました」
与えられた期間は3か月しかない。それでも、弱音を吐くことは一度もなかった。高い壁にぶち当たっても、目的を達成するまで工夫を重ねて挑み続ける「やり切るマインド」が富士フイルムらしさだと感じていたから、「自分たちにもできるはずだ」と思った。また、新材料を通じて新しい価値を生み出すという、この部署だからこそ味わえる幸福を、みんなと分かち合いたいという気持ちが何より強かった。

図説1 表面プラズモン増強蛍光(SPF)*のしくみ

金薄膜に光を照射すると、近くにある蛍光粒子だけが強く光るという現象を表面プラズモン増強蛍光(SPF)と呼ぶ。この現象を利用することによって測定時の洗浄工程を必要とせず、装置の小型化や測定時間の短縮を実現した。

仮説検証を繰り返しながら新たな試薬を開発
世の中の役に立つものを自分の手でゼロから作り出したい
  • * 部署名・インタビュー内容などは、2019年12月時点の取材内容に基づきます。