近年、製造業ではDXの取り組みが注目を集めています。DXはITの発展が進むほどより効果を発揮する可能性が高まるため、今後もますます注目を集めていく取り組みとなるでしょう。

そこで当記事では、DXの基本的な情報や課題点、進め方などについてご紹介していきます。これからDXに取り組もうとしている方などにとっても有益な情報をまとめておりますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。

製造業DX（デジタルトランスフォーメーション）とは、製造管理を最適化するために、センサーやデータ分析、機械学習などのデジタル技術を活用することです。企業が現代の市場で競争に打ち勝つために必要なものであると考えられており、DXによって生産性と安全性を高めながら、コストを抑えたものづくりが見込めるとされています。

従来までは、ものづくりの現場でこれまで培ってきたノウハウを個人の経験値として蓄積していたため、属人化する作業が多い点が問題視されている企業もありました。DXによってノウハウや経験をデジタル化することで、スキルなどの共有ができるようになり、属人化を解消することができるでしょう。

製造業の分野では、製造コストの削減や製造工程の効率化は重要視される傾向にあります。しかし、人の手を使ったアナログ的な手法では効率化にも限界があるでしょう。そこで注目されているのが製造業DXです。

製造業DXでは、デジタル技術を導入し、データ分析を活用することで、企業は精度を高めつつ市場投入までの時間を短縮し、さらにコストとリソース配分を最適化できます。これにより、人力による労力を最小限にしつつ効率化を図ることが可能です。量産品をなるべく低コストかつ迅速に製造しなくてはいけないという課題が常に付きまとう製造業において、デジタル技術は導入を検討すべき必須のツールであると言えます。

DXが製造業に与えるメリットは効率化やコスト削減などさまざまで、必要性については十分にある旨をご紹介しました。ただ、DX化自体にはいくつかの課題があり、それらを解消しないことにはDX化の実現は難しいでしょう。以下でご紹介する3つの課題を確認して、DX化を図る際の検討材料として把握しておきましょう。

製造業でのDX化を進めるためには、デジタル技術を扱える人材を確保しなくてはいけません。そのため、スキルのある人材の不足は、DXを導入する際の大きな課題の一つといえるでしょう。

データマネジメント、アナリティクス、AI・MLに必要なスキルや経験を持つ従業員を見つけることは簡単ではありません。教育をするにしてもそれ相応の期間が必要になりますし、育成にかかるコストは決して低いものではないでしょう。なので、導入したデジタル技術の有効性と精度を確保するためにも、人材不足の解消は優先して考えるべき課題の一つです。

デジタル技術が普及するまでの製造業では、現場が強い体制が築かれていたため、属人化している業務が多く見られる傾向にありました。その名残で、様々なツールが普及している現時点でも属人化した作業が残ってしまっているところも少なくありません。

そのため、DX化を図るうえで、属人化した業務はできる限りデータ化して業務の標準化を図る必要があります。データ化を図る際、業務の特性ゆえに属人化を解消できないケースもあれば、担当者がそれを拒絶してデータ化に協力してくれないケースもあるため、DX化がスムーズに進まないといった課題が発生する可能性が高いです。

製造業におけるDXが直面する最大の課題は、テクノロジーに関連するコストがかかることです。データや分析などのデジタル技術への投資は高額になりやすく、長期的なコミットメントと多額の予算が必要となります。これは、財務的な圧力に制約され、必要なIT投資を行う余裕がないケースが多く見られる中小企業にとって、大きな課題となるでしょう。

投資に関する課題を解決するためには、補助金をうまく活用して負担をなるべく減らすことが重要です。

先に紹介した課題を解決できる見込みが立ったら、実際にDX化を進める具体的なプランを検討していきましょう。以下で解説する製造業DXの進め方を参考に、自社に適した方法を考えてみてください。

DXを進める最初の一歩として、DXへの理解を深めましょう。「DXとはどういったものなのか？」「DXによって得られるメリットは？」といった内容をしっかりと把握しておけば、DX化を図る価値を再確認できます。

また、DXは担当する各従業員に理解してもらうことも大切です。チームのリーダーがDX化の価値を把握しているだけでは意味がありません。実際にDX化に取り組むチーム全員で価値を知ることができれば、モチベーションの維持に繋がりますし、円滑にDXを進めていけるでしょう。

DXの理解や進める価値の周知ができたら、実際に取り組むために必要な人材の確保と、データの収集を実施していきましょう。人材確保では、ただ人を集めればいいという訳ではありません。デジタル技術を使用できる人材を確保しなくてはならず、デジタル技術を現状利用できない人であっても、しっかりと覚えていく意思のある人を採用していくことが大切になってきます。

データ収集では、ITツールやIoT機器などを利用してデータの収集と分析を進めましょう。データの項目等は、導入するデジタル技術に必要となる項目を調査して収集するようにしてください。

データと人材が揃ったら、製造プロセスを最適化するための戦略開発に注力しましょう。データが揃えば製造プロセスの中で非効率な部分を明確にできるため、そういった部分をデジタル技術によって自動化していけば最適化が進みます。最適化が進めば進むほど業務は効率化して、製品を市場に投入するまでの時間を短縮できるでしょう。

もし最適化が完了しても、データの収集は継続して行うことをおすすめします。

製造業DXは導入する技術などによって結果や手段が異なります。そのため、企業ごとに自社にマッチしたDX化の方法を検討する必要があるでしょう。そこで以下では、DXのイメージが抱きやすくなるように、他社の導入事例をご紹介していきます。実際にDX化に成功している事例を知って、成功するイメージが具体的に描けるように努めましょう。

西島株式会社では、独自のCAMシステムとIoT技術を導入することによってDXを推進しています。自動車関連の専用工作機を製造する西島株式会社は、「高齢者雇用」と「女性活躍」が特徴で、定年制度がないことから60歳以上の方が約130人中24名を占めています。それゆえに、デジタル技術を導入することで、高齢者の方や子育てによって時間の都合が付きにくい女性でも効率よく働ける環境を実現しました。

例えばCAMは作りだめができるため、時間の都合が付きにくい女性であっても、都合の良い時間に働くことができます。他にも、IoT技術の導入によって、業務効率化が図れたため、新型コロナウイルスの影響で７時間勤務の２交代制に変更しても、問題なく対応ができました。
出典：2021年版ものづくり白書（P.150 コラム）

ワイ・ケー・ピー株式会社では、作業工程のデジタル化にIoT技術を導入することでDXを推進しています。「中小企業こそデジタル技術の活用が必要だ。」と可児力社長が語るほど、デジタル技術の必要性を強調しており、プラスチック製造における各工程の効率化を目指しています。

主に作業工程のデジタル化に取り組んでおり、材料投入や点検記録、作業日報などの手書き作業をIoT技術により自動化しました。また、IoTシステムはメーカーが提供するものを購入するのではなく、自社で開発を進めた点もワイ・ケー・ピー株式会社の大きな特徴で、補助金などを利用することで購入するよりも比較的安価で導入しています。さらに自社で開発したことで、その時の状況によって改善や改良にも柔軟に対応できるシステムを実現しています。
出典：2021年版ものづくり白書（P.146 コラム）

株式会社三松では、SINSと呼ばれる「三松統合生産管理システム」を開発したことで、DXの取り組みを推進しています。小ロット製造代行サービス会社として、あらゆる小ロット製造を請け負う株式会社三松は、SINSを利用することによって、リアルタイムで生産工程の進捗状況の「見える化」を実現しています。これにより、製造代行における細かな工程データやコスト管理のデータを「見せる化」しており、そうすることで顧客の安心・信頼を取得しています。

1997年頃より、生産管理を紙文書からSINS に本格移行したことで、2017年頃には受注オーダーが30倍、1日当たりの受注ロットが6分の1になりました。製造業において、小ロットの受注は大量生産と比べて効率があまりよくなく、売り上げに直結しにくいと考えられている傾向もある中で、ロット数を小さくしても生産が伸びた点はSINSの大きな効果であると言えます。
出典：2021年版ものづくり白書（P.152 コラム）

製造業DX（デジタルトランスフォーメーション）とは、製造管理を最適化するために、センサーやデータ分析、機械学習などのデジタル技術を活用することです。製造業DXは効率化・自動化が世界的に進められてきている製造業界において欠かせないものとなってきており、製造業の市場で生き残るために多くの企業が取り組みを進めています。

ただ、中小企業など数十名規模の工場などでは、人材が不足したり、属人化した業務をDX化する負担が大きすぎたりするケースも少なくありません。そのため、DXを推進する場合はそれ相応の準備が必要になることを覚悟する必要があるでしょう。

ですが、そういった課題を解決しつつDX化を進めることができれば製造工程の効率化が図れ、企業の質が高まることは間違いありません。だからこそ、DXの価値を見極めて自社に適した方法で取り組むことが大切になってきます。