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コダックは、相変わらず富士フイルムを非難するキャンペーンを続けているが、先週、日本のフィルム価格は米国のフィルム価格よりも大幅に高いことを示す新しい「証拠」なるものを発表した。
コダックの主張によれば、この言うところの価格差が日本市場の閉鎖性を示しており、この障壁を利用して富士フイルムが不当に高い価格を維持し、その母国市場を利益の聖域にしている、という。
悪いくせは直らない、と言うが、この301条調査におけるコダックの事実歪曲のくせは、相変わらずである。事実は、日本と米国のカラーフィルムの価格は、卸売価格レベルでも小売価格レベルでもほとんど同じなのである。大幅な価格差があるというコダックの主張は、きちんと内容を分析すれば、すぐそのいい加減さがわかる。結論としては、今回のコダックの言う「証拠」なるものは、日本市場の障壁の証拠などではなく、コダックが単に数字をもてあそんでいることの証拠に過ぎないのである。
コダックは、その主張の中の図1において、日本製フィルムの日本国内における平均卸売価格を米国その他の国への平均輸出価格と比較して、日本国内の卸売価格が米国への輸出価格の3.1倍と高く、他国への輸出価格と比べても同じようなものだ、と示そうとしている。
第一に、おそらくコダック自身もわかっていると思うが、このような比較自体がばかげている。国内の平均卸売価格というものは、日本における全ての営業関連経費、流通経費等を含んだものであるのに対し、米国への平均輸出価格というものは、米国における同様の経費を全く含んでいない。要するに、コダックはリンゴとミカンを比べているようなものである。さらに言えば、コダックの言っている欧州諸国への輸出価格は、少なくとも富士フイルムとは何の関係もない。ごく少量の特殊な製品を除いて、富士フイルムはコダックの取り上げている1994年には、カラーネガフィルムをこれらの国には輸出していなかったのである。(*1)
次に、コダック流の方法に従って、このばかげた比較をコダック自身の米国内価格と米国から日本への輸出価格に適用してみると、その差はコダックの言う日本の数字よりも大きい。コダックの1995年度における35mmカラーネガフィルムの米国内平均卸売価格は、8,321円/平方メートルである。(*2)
また、大蔵省統計による米国から日本への平均輸入価格(CIF)は2,025円/平方メートルである。(*3)
従って、コダックの方法論をコダック自身の価格に適用するならば、その結果は米国内における平均卸売価格は日本への平均輸出価格の4.1倍と高い、という結論になる。すなわち、この二つの価格の乖離は何も日本に限ったことではなく、むしろ米国におけるそれの方が大きいのである。しかし、結局のところこの乖離は何の証拠価値も持っていない。それはそもそもの方法論の欠陥=こういった比較をすること自体がばかげていること=から出てきた意味のない数字にすぎないのである。(*4)
コダックの主張の第2は、1995年第1四半期の小売価格に関わるものである。コダックはその主張の図2において、フジブランド35mmISO 100 24枚撮りの小売価格は、日本では5.41ドルであるのに対し、米国では2.67ドル、ドイツの写真店では3.92ドル、ドイツの大型スーパー・デパートでは3.38ドルとしている。
このコダックのいう小売価格は全く実態をあらわしていない。コダックは単に日本の非常に高い価格を取り出してきて、それを米国の非常に低い価格と比較しただけである。現実はどうかといえば、以下に示すとおり日米両国の小売価格は同レベルである。ただ、両国の価格はブランド、小売業者のタイプや大きさ、フィルムの感度や単品・マルチパック品といった要素によって大きく異なっている。コダックの比較はこれらの要因を無視しているのである。
まず、コダックの用いている日本市場の価格は、総理府総務庁統計局による全国59都市の価格データに依拠しているが、この調査は電話による聞きとり調査であり、また調査結果においてはブランドを特定していない(フジのブランドかどうかわからない)。さらに重要なことには、写真専門店の価格のみを調査している。一方、米国の価格としてコダックが用いているのはニールセン調査のデータであるが、この調査は大規模小売店、スーパーマーケット、ドラッグストアという低価格戦略をとっている小売業者のみを対象にしている。このことだけをとってみても、コダックの行っている比較がいかにずさんなものであるかがわかる。
さらに言えば、コダックは日米両市場のフジブランドのフィルム価格を比較しているようだが、これは日本におけるプライスリーダーの価格を、米国においてはプライスリーダーたるコダックを追う2番手であり従ってコダックより低く設定せざるをえない価格と比較していることを意味する。また、米国の価格として取り上げているのは、フジブランドの中でも日本では販売していないより低価格のセカンドブランド品の価格である。最後に、コダックは都合の良いことに円の対ドルレートが90円と異常に高かった時期を価格比較の時期として選んでいる。以上、全ての点において、コダックは日本の価格が高目に、米国の価格が低目に出るようにデータを操作していると言わざるをえない。(*5)
このフジの価格を不当に見せるためのデータ操作というコダック流のやり方を使わせてもらうならば、次の表1に示すように、コダックの価格をいかにも不当なものにみせることも簡単なことである。
《表1 コダック流の恣意的な日米小売価格比較》 (単位:US$)
表1は外部の調査会社による1995年9月の価格調査のデータをベースとしている。日米両国において、富士フイルムは定期的に小売価格の動向を調査するため、独立の調査会社を用いている。日本においては、日本リサーチセンターが毎月東京・大阪における32の小売業者の店頭価格を調査しており、米国においてはAdvance Marketing Servicesが四半期ごとにニューヨーク・ロサンゼルス・シカゴ・ワシントンDCにおける数十の小売業者の店頭価格を調査している。これらの調査会社は、長年にわたり=コダックが301条提訴を行うはるか以前から=富士フイルムの委託をうけ、これらのデ-タを業務として作成し提出してきている。
表1は、1995年9月の日米両国における調査結果から、いくつかの店頭価格を選んできて作成したものであり、小売の業態別・ブランド別・製品タイプ別の表である。どのようにデータ操作が行われているかと言えば、各々の業態・ブランドの組合せにおいて、米国における最も高い価格と日本における最も低い価格を選んで表にしているのである。このようなやり方で、これもコダック流に日本のフジブランドのフィルム同士を、日本は写真専門店、米国はディスカウントストアの価格で比べた場合、ISO 100 3本パックについては、日本の価格(6.85ドル)は、米国の価格(8.99ドル)よりもずっと低い。さらに転じて、コダックブランドフィルムの米国における写真専門店の価格(13.81ドル)と日本のディスカウントストアの価格(6.90 ドル) とを比べてみると、まさに米国価格は日本の価格の2倍という結果が得られるのである。また、ISO 400 3本パックについてみれば、コダックにとってさらに都合の悪い結果になる。
コダック流の恣意的な比較はこのくらいにして、両国の価格レベルの妥当な比較を行ってみよう。そのためには、同じ小売業態同士で、かつリ-ディングブランド同士を比較することが必要である。 (*6)表2は、そのようなやり方で1995年9月及びその一年前の1994年9月の両時点における価格を比較したものである。(*7)ここでは、4つの異なる製品タイプ(ISO 100 単品、IS0 100 3本パック、ISO 400 単品、及びISO 400 3本パック)及び3つの異なる小売業態(写真専門店、ディスカウントストア、スーパーマーケット)で比較を行った。(*8)
《表2 平均価格比較》
日本の価格(フジフィルム)と米国の価格(コダックフィルム)の比較
ここで用いられているデータは、コダックの用いているそれよりも、はるかに理解しやすく、信頼性が高く、かつ市場実態を反映したものであることがお判りいただけるであろう。(*9)コダックがその比較において用いた日本の価格は、前述のように、ISO 100単品のみを調査対象としており、この製品タイプは、日本市場の約34%をカバーしているに過ぎない。(*10)一方、日本リサーチセンターのデータは、 ISO 100と400の各単品とマルチパック品をカバーしており、この製品タイプは日本市場の約95%をカバーしている。(*11)
次に、コダックがその比較において用いたニールセン調査のデータは、フジブランドのISO 100単品のみであり、米国市場の3%未満しかカバーしていない。(*12)これに対し、Advance Marketing ServicesのデータはコダックブランドのISO 100と400をカバーしており、このブランド-感度の組み合わせは、米国市場の30%をカバーしている。(*13)
このように、独立の調査会社による上記のデータは、コダックのデータよりはるかに市場実態を的確に反映しており、従ってこれを用いてリーディング・ブランド同士を、同じ小売業態、同じ感度・パッケージタイプで比較すれば、より適切な結果を得られることがわかろう。
この表2(及び別紙3)のデータは、富士フイルムがこれまでに言ってきたことを完全に裏付けるものとなっている。即ち、日米両国市場の小売価格はほぼ同じレベルなのである。(*14)小売業態と製品タイプの組み合わせにより、米国の方が高かったり、日本の方が高かったりしているが、1994年9月の調査では12の製品タイプ-小売業態の組合せのうち7つの場合において米国価格の方が高く、1995年9月の調査では8つの場合において米国価格のほうが高い。少なくともここから明らかなのは、コダックの主張する日本の価格は米国の価格よりはるかに高いということは、全く根拠のない言いがかりだ、ということである。(*15)
コダックはその主張の中で、1994年8月から1995年5月の間、日本と米国の価格レンジに接点がないことを示すチャートを出している。コダックは日本の価格レベルが継続して高いということを主張したいがためにこのチャートを使っている。
しかし、ここでまたコダックのチャートは、市場の実態でなく作成者の良心のなさを示しているに過ぎないのである。コダックは再び日本政府によるカメラ専門店の電話による聞取り調査の結果を使っている。従って、再びコダックは日本のカメラ専門店価格と米国のディスカウンター価格を比較し、また日本のフジブランドフィルム価格と米国のフジブランドフィルム価格を比較しているのである。
表3は、1994年3月から1995年9月までの間の3ヶ月毎の日本と米国の最高価格と最低価格を示すグラフである。
このグラフは、カメラ店、ディスカウンター及びスーパーマーケットに関する外部の調査データに基づいている。これらのグラフは、フジの日本での最高と最低価格、コダックの米国での最高と最低価格をフィルムのタイプ別に示している。
これらのグラフは、日本と米国の価格レンジには、接点がないというコダックの主張を根底から覆すものである。一般的に言えば日本の価格レンジは、より広い米国の価格レンジの中に入るのである。言い換えれば、米国の最高価格は日本の最高価格より高く、米国の最低価格は日本の最低価格とほぼ同じレベルである。さらに別紙4と5では、フジブランド同士及びコダックブランド同士の価格比較が示されている。
別に驚くにはあたらないが、これらの比較を見るとそれぞれのブランドは、母国市場では、プレミアム価格で売られ、海外ではディスカウント価格になるという、いわゆる“母国市場の優位"というよく知られた概念と一致していることがわかるのである。
さらにコダックのもう1つの「証拠」なるものもガタガタと崩れていくのである。
《表3 最高価格と最低価格の分布》
日本:フジフィルム、米国コダックフィルム
コダックの最後の主張は、1989年第3四半期から1994年末までのカラーフィルムの消費物価指数を分析したものである。この期間に指数は100.9から100.5に変化し、途中99.8以下に下がることはなく、コダックはこのような安定性は日本市場で価格競争がないことの証明だと主張しているのである。
何と未熟な議論であろうか。当該期間の消費者物価指数全体では97.1から107.1に上昇しているという事実を考慮に入れていないのである。(これは、コダックが引用しているフォトマーケット誌の同じグラフ上に示されているにもかかわらず、コダックはこの部分をわざわざ省いた上で提示している。)(*16)言い換えれば、日本全体の価格レベルは、この期間10%上昇しているのに、名目上のフィルム価格は一定なのである。従って、コダックが引用している証拠は、まさに期間中実際の(インフレ率調整後の)フィルム価格は下がっていることを示しているのである。名目上の価格動向を示しても何の意味もなさないのである。(*17)
さらに注意すべきことは、コダックがこの期間を選んだことは、偶然でも何でもないことである。1989年の第1四半期のカラーフィルムの消費者物価指数は106.3%であり、更に、1年前は111.2だったのである。(*18)コダックは明らかに時間軸を自分に有利なように操作したのである。ひどいことに、さらにコダックは、実際の価格と名目の価格との相違を意図的に忘れ去ったのである。
また、この消費者物価指数が用いているフィルム価格は、上記の総務庁調査のデータであり、従って写真専門店のみであり、価格低下の激しい大手ディスカウンター、スーパーマーケットの実態は少しも反映されていないことも注記しておこう。
コダックの「日本の価格は人工的に高い」という主張は全くの虚偽である。コダックが恣意的に選択した対応のとれない比較とは対照的に、以上に示した第三者による調査は日本と米国市場の価格レベルはほぼ同じことを示している。
コダックの事実誤認を指摘することとは別に、より大きな構図を見失ってはならない、つまり、日本の高価格についてのコダックの主張が根本的な矛盾に満ちている点である。コダックの301条提訴というのは、コダックフィルムの日本市場からの不公正な排除ということに関してのものであったはずである。
そこで、高価格は、もし仮にあるとしてだが、何故この面でコダックに損害を与えていると言えるのであろうか。もし仮に日本の価格が人工的に高いとしてもそれはむしろコダックに競争上の機会を与えるもので、コダックが攻撃的に低価格競争を挑んだならば何ら市場障壁とはならないのである。
言うまでもなく、過去10年間のコダックの日本市場における政策は価格競争を拒否することだったのである。1986年に当時のコダックの社長、ケイ・ホイットモアはこの点について明快であった。
「社長は、円高の収益により値下げして、日本の消費者に還元することはまず可能性がないと言った。コダックは日本ではプライスリーダーではないと強調し、日本の競合相手と競争するために、値下げを実行するつもりはないと述べた」(*19)
より最近の1993年には、日本コダックの幹部は次のような率直な見解を述べているのである。
「日本でこれ以上安く売れば米国などに逆流し、コダック製品の国際的な価格体系を崩す」(*20)
このように、コダックの価格レベルに関する議論全体は、事実という面に照らし信用できないというだけでなく、何らの意味もなさないものである。日本における高価格が仮に存在するとしても、それはコダックにとってマーケットシェア獲得のための絶好の機会を与えているにすぎない。そして、それはコダック自身何度も認めているように、自分でそのチャンスを使わなかったのである。これらはすべて富士フイルムのせいだとでも言うのであろうか?
コダックの偽りの事実、そしてその不合理な主張は全くのナンセンスである。富士フイルムはコダックがこんなことをだまし通すことを断固拒否する。日米両国の消費者も同様である。最終的にUSTRも同じ立場を取ることを期待する。
《別紙1 大蔵省貿易統計》(品別国別、単位:1,000円)
・1995年5月
・1995年6月
・1995年7月
《別紙2 公正な日米小売価格比較》
カラーDP代はEサイズ、( )内は前年同月価格、(Y:市町村銘柄)
(1) Camera, (2) Color film, (3) Color photo printing
《別紙3 写真の都市別小売価格》(平成7年6月、単位:円)
(Photographic Retail Prices by Cities in Jun. 1995)
《別紙4 最高価格と最低価格の分布》
《別紙5 最高価格と最低価格の分布》