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Kodak's legal analysis (301 条発動の法的根拠)
- 日本政府による、通商条約違反、又は米国の国際上の法的権利の侵害
- "unreasonable" practiceの存在
すなわち、米国製品の日本市場へのアクセスを制限するような、組織的反競争行為を日本政府が看過したこと
Fuji's legal analysis
- 301条は現在の違反行為を問題にしているのであって、20年も前に終了した行為をとらえて301条発動の根拠とするのは妥当でない。また、日本政府は「反競争的行為の看過」によって、通商条約違反、又は米国の国際上の法的権利の侵害などしていない。
- Fuji及び日本政府の行為は "unreasonable" ではない。
Kodak は市場の定義につき、Consent Decrees取消し訴訟での「一般用写真フィルムの競争市場は全世界である」という自らの主張と異なる基準を持ち出している。
Fujiの行為は日本の独禁法に何ら違反しておらず、また米国アンチトラスト法の下でも合法であり、更にKodak の米国における行為ほど排他的ではない。- Fujiによる再販価格維持など存在しない。仮にあったとしても、それは (価格競争の余地を与えるという意味で)Kodakにとって有利に働くはずである。
- Fujiの特約卸商やラボとの取引、リベート制度は決して反競争的なものでない。
- 日本政府は反競争的行為を看過などしていない。むしろ、積極的に法執行している。
公取委は、Fuji及び一般用写真材料産業に対して、適切に独禁法を執行してきている。
通産省は、反競争的市場構造の創造を奨励などしていない。
もしKodak が日本政府に問題 (反競争的行為) の是正を望むならば、日本法の手続きに従って措置をとるべきであった。 - 仮にFuji又は日本政府の行為が "unreasonable"であったとしても、(制裁措置の発動には)米国の通商に何らかの負荷や制限が課せられたことが認定されなければならない。しかし、Kodakが日本市場でシェアを伸ばせないことの因は自らにあり、Fujiや日本政府の行為とは何ら関係がない。
コダックの301条提訴に対する
富士フイルムの法的側面からの反論書(要旨)
Ⅰ.序章
1. コダックによる301条違反の主張は法的根拠を欠く。(第Ⅱ章以下に詳論する。)
- 通商条約違反、又は米国の国際法上の権利の侵害の主張につき、301条は現在の違反行為を問題にしているのであって、20年も前に終了した行為をとらえて 301条発動の根拠とすることはできない。
- Fujiの行為は独禁法違反でなく、またコダックの米国における行為と比較しても、決してunreasonableではない。
2. 301条は問題解決の手段としてふさわしくない 。
- すでに確認された貿易障壁問題につき、交渉によって解決を図るのが301条の主旨であり、高度に複雑な調査と事実認定を必要とする、独禁法違反問題に関する救済を求める手段としてはふさわしくない。
- USTRは膨大な量の事実調査をこなすだけのスタッフを有しておらず、また、(独禁法関連の)法的判断基準の前例もなく、その上証拠採否等の手続き上のルールも確立していない。また、日本の独禁法を適用・解釈して判断を下すのに十分な専門的知識も持ち合わせていない。
- 誰もが日本の独禁法第45条に基づき、独禁法違反の疑いのある行為を公取委に報告し、調査を行わせることができるのに、コダックはこれを全く利用していない。
- まず問題とされる行為が発生した国・地域における法律に基づく救済措置を全て尽くさなければならない、というのが国際慣習法上確立されたルールであるにもかかわらず、コダックがいきなり301条に訴えることは許されない。
Ⅱ.日本政府は「反競争的行為の黙認」によって、通商条約違反、又は米国の国際法上の権利の侵害などしていない。
- Doctrine of laches (時効の法理)に従えば、20年も前に終了した行為をとらえて問題にするのはおかしい。
- 301条は、その条文等から見ても明らかに、現在の違反行為のみを問題にしているのであって、既に終了した行為を蒸し返して問題にすることはできない。
- そもそも日本政府は通商条約或いはOECD資本協定に違反していない。(これら条約について、日本は留保条件を付けているが、「留保」は「違反」ではない。米国政府はこれまで日本の「留保」につき異議を唱えていない。)
Ⅲ.Fujiの日本市場での行為は反競争的ではない。
1. コダックによる「組織的反競争的行為」に関する議論には、以下のような根本的な欠陥がある。
- 市場の定義
米国アンチトラスト法は、市場支配力が存在しない場合に、垂直的非価格制限行為を問題にしない。従って、メーカーが流通業者に課している制限行為の違法性を判断する前に、まず市場支配力の有無を判断しなければならないが、この前提として市場の定義が問題となる。
[争点効:市場の定義に関するコダックの主張]
コダックは同意命令取消し訴訟において、「一般用写真カラーフィルムの競争市場は全世界である。」という主張を行い、裁判所は第一、二審ともこれを認めた。これに従えば、(全世界でのシェアが30数パーセント足らずの)Fujiは市場支配力を有しておらず、Fujiの排他的(とコダックが主張しているところの)行為は反競争的とはいえない。
また、コダックは同訴訟において、「写真現像処理業の関連市場は集配ラボに限定されるべきでなく、ミニラボも含まれるべきである。」と主張した。これを日本市場に適用すれば、競争の激しいミニラボが現像処理市場の半数を超える状況下にあって、Fujiは市場支配力を有していないといえる。
争点効(Collateral Estoppel) と呼ばれる米国司法上のルールの下では、訴訟原因の判断の前提として過去に争われた論点につき、裁判所が実際に下した判断に反する主張を後訴で行うことは許されない。従って、コダックは市場の定義に関して、上記と矛盾する見解を後訴において禁じられることになるが、本件において正にその矛盾する主張を平然と行っている。「争点効」は司法上のルールであるとはいえ、一般的に米国では司法=行政間にも政策の一貫性が求められることから、USTRとしても裁判所の判断を無視することはできない。
- 再販売価格維持
Fujiによる再販売価格維持など、そもそも存在しないが、仮にあったとしても、それは競争業者に対して価格競争の余地を与えるという意味で、コダックに有利に働くはずであるのに、この点を全く無視している。
第一、コダックは再販売価格維持がどのようにコダックの市場アクセスを阻害しているのか、全く述べていない。
2. Fujiの行為は日本の独禁法に何ら違反しておらず、また米国アンチトラスト法の下でも合法であり、更にKodakの米国における行為ほど排他的ではない。
コダックが日本市場における反競争的行為を問題にしている以上、USTRはまず日本の独禁法に従って、その主張の妥当性を判断しなければならない。
我々は、(コダックが反競争的と主張しているところの)Fujiの行為が独禁法第19条の不公正な取引に該当するか否かを、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(1991年7月11日発行)(以下“ガイドライン”)に従って評価した。
それと同時に、米国アンチトラスト法に照らしてFujiの行為を評価することも行った。
(法律上特に要求されてはいないが、日本の独禁法に抜け穴が無いことを証明するために役立つ。)
また、301条は外国市場の不公正さを判断するのに、「米国において外国企業に与えられている機会」をも相互的に勘案することをUSTRに求めているため、日本におけるFujiの行為と、米国におけるコダックのそれとを比較することにした。
・Fujiの特約卸商との取引は決して反競争的なものでない。
A. 日本法
日本法ガイドラインでは、単一ブランド流通が独禁法違反になるための要件として次の3つを挙げている。
- メーカーが“市場における有力な事業者”であること
- メーカーによって流通業者に対し拘束条件が課せられていること
- その制限により、競争メーカーが代替流通経路を見つけることが困難になったこと
[評価]
- Fujiは日本のカラーフィルム市場で70パーセントのシェアを有し、“市場における有力な事業者”といえる。
- 特約卸商はFujiによって、契約その他の手段で、いかなる拘束条件も課せられてはいない。
- コダックは、Fujiの特約卸商に頼らなくても、大規模小売店、二次卸、及びその系列ラボを通して、消費者にアクセスすることができ、従って、容易に代替流通経路を見つけることができる。
B. 米国法
a. コダックは「必要不可欠な存在」(注:Fujiの特約卸商のこと)へのアクセスを制限されてはいない。
アンチトラスト法における「必要不可欠な存在」の法理
(シャーマン法第2条:独占の禁止)
要件:
- 「必要不可欠な存在」が独占者によって支配されていること
- 「必要不可欠な存在」が競争者によって複製されることが事実上不可能なこと
- 「必要不可欠な存在」の使用が独占者によって拒絶されたこと
- 「必要不可欠な存在」へのアクセスが競争者に認められる蓋然性
[評価]
- Fujiの特約卸商は独立の事業者であり、Fujiによって支配されてはいない。
- コダックは、Fujiの特約卸商に匹敵する流通体制を築くことが不可能であることを証明していない。
(コダックは何故現有の流通体制では不十分か、また自前で新たな流通体制を築くことができないのかを十分説明していない。) - コダックはFujiの特約卸商にアプローチすらしていない。
仮に、アプローチして拒絶されたにしても、それは特約卸商の独立した判断によるものであり、Fujiとは何ら関係がない。 - コダックは自らの判断でFujiの特約卸商と競合する道を選んだのであり、もし本当にそれを「必要不可欠な存在」と認めるならば、過去20年の間にアクセスできたはずである。
b. Fujiは違法な排他的取引を行っていない。
Fujiの特約卸商との取引は排他的ではない。たとえ排他的な面があったとしても、単一ブランド流通は効率的なうえ、ブランド間競争を促進する効果があるゆえ、アンチトラスト法の下で違法とはいえない。
C. コダックとの比較
- コダックの卸商との取引は排他的である。
コダックはしばしば米国において卸商との間で排他的取引契約を交わしている。 - コダックの大規模小売店との取引は排他的である。
- 巨額の一時金を積んで専売契約を交わす。
- Qualexの現像割引付専用パッケージの提供を条件に、専売契約を交わす。
- コダックは、同意命令取消し訴訟で、自身の排他的取引を「競争促進的」であると弁護している。
・Fujiのリベート制度は決して反競争的なものでない 。
A. 日本法
ガイドラインは、独禁法に違反する可能性のあるリベートのタイプを4つ挙げている。
- 流通業者の事業活動に対する制限の手段としてのリベート (流通業者の販売価格、競争品の取扱い、販売地域、取引先等についての制限)
- 占有率リベート(自社商品の取扱い率に基づきリベートが支払われる場合)
- 著しく累進的なリベート
- 帳合取引の義務付けとなるようなリベートを供与する場合
[評価]
- Fujiのリベートは、コダックのいうように再販売金額に基づき支払われておらず、従って再販売価格を制限する効果はない。また、競合商品の取扱い、販売地域、または販売先を制限するような形で支払われてもいない。
- Fujiの商品の取扱い率に基づいてリベートが支払われることはない。
- 「歴史の改ざん」で詳しく述べたように、Fujiのリベートで著しく累進的なものはない。
- 指定供給元からの購入を対象に支払われるリベートは存在しない。
B. 米国法
排他的効果を持たないリベートは、アンチトラスト法上問題がない。Fujiのリベート制度は排他的効果を持たないし、またFujiのリベートがゆえにコダックが市場にアクセスできなかったことはない。
C. コダックとの比較
- 前年以上の仕入れを条件に(それが達成できないときは、その後数年間、競合ブランドを取り扱わないことを条件に)与えられる4パーセントのVIP リベートは、Fujiのリベートよりはるかに累進度が高く、排他的である。
- コダックは、同意命令取消し訴訟で、自身の累進的なリベートを「競争促進的」であると弁護している。
・Fujiによる再販売価格維持など日本市場に存在しない。
A. 日本法
再販売価格維持は原則として独禁法に違反する。
問題となる行為には、書面・口頭の契約だけでなく、指示価格を守らなければ経済的不利益を課するという趣旨の示唆をも含む。下記のような場合には、「人為的手段」によりメーカーの指示した価格で販売することについての実効性が確保されていると判断される。
- メーカーの示した価格で販売しない場合に経済上の不利益を課す場合
- メーカーの示した価格で販売する場合にリベート等の経済上の利益を供与する場合
- 販売価格の報告徴収、店頭でのパトロール、派遣店員による価格監視、帳簿等の書類閲覧等の行為により、メーカーの示した価格で販売するようにさせている場合
- 安売りを行っている流通業者に対し、安売りについての近隣の流通業者の苦情を取り次ぎ、安売りを行わないように要請することにより、メーカーの示した価格で販売するようにさせている場合
[評価]
- 下落傾向にある小売価格の推移を見れば、Fujiによる再販売価格維持が行われていないことは明らかである。
- Fujiの価格表には、メーカー希望卸価格・小売価格が拘束性のない、単なる参考価格にすぎないことが、明記されている。
- Fujiはいかなる形でも再販売価格を維持していない。例えば、下記の通り。
- 卸商等との契約において、再販売価格につき一切触れていない。
- 安売り業者への出荷を停止したり、苦情を訴えたことはない。
- 再販売価格を維持するためにリベートを利用していない。
- 再販売価格を詳細に監視していない。
B. 米国法
コダックは、Fujiが安売り業者と取引しないことを根拠に、再販売価格維持行為の存在を主張するが、そもそもその根拠自体が間違っている。また、たとえそうであったとしても、アンチトラスト法の下では、再販売価格維持が(契約のような双務的でなく)一方的行為であるならば、違法とはいえない。従って、安売り業者と取引しない政策を打ち出したり、安売り業者への販売を停止することも自由にできる。
C. コダックとの比較
コダックは、再販売価格維持の主張の根拠の一つとして、日本のフィルム価格が米国より大幅に高いと主張している。しかし、日本コダックは、「もし日本市場で今よりフィルムを安く売ったら、米国その他の市場に流出して、コダックフィルムの世界的な価格体系を崩すことになる。」と述べることによって、日本のフィルム価格が米国のそれとほぼ同等、あるいは若干安いことを認めている。
・Fujiのラボとの取引は決して反競争的なものでない。
A. 日本法
コダックがカラー印画紙について主張しているFujiの反競争的行為なるものは、ラボとの関係を通じての市場の囲い込みに限定されている。
ガイドラインによれば、メーカーが流通業者に対して競合メーカーとの取引を制限する場合、次の2つを満たすとき独禁法違反になる。
- “市場における有力な事業者”であるメーカーが、取引先の流通業者に競合メーカーとの取引を拒絶させること
- このような排他的取引により、競合メーカーが代替流通経路を見つけることが困難になったこと
[評価]
- Fujiはラボに対し、Fujiの印画紙だけを取り扱うことを義務づけていない。
- コダックは自身の集配ラボを有しているし、他のラボを買収してネットワークを拡大することも困難でない。更に、ミニラボが現像処理市場の半数を超えるという現状にあって、コダックが代替流通経路を見つけることはたやすい。
B. 米国法
垂直的統合による市場の囲い込みがアンチトラスト法上問題になるのは、囲い込まれる市場規模がかなり大きいゆえに、他の業者の競争力が阻害される場合に限られる。Fujiの行為はそれに該当するものではない。
C. コダックとの比較
コダックは米国の集配ラボ市場で70パーセントを超える独占的シェアを持っている。一方、コダックは、同意命令取消し訴訟で、ミニラボの出現で現像処理業への参入障壁は劇的に減ったと述べている。従って、コダック自身の基準に従えば、集配ラボ業における独占は、現像処理業全体のそれを意味しないことになる。
Ⅳ.日本政府は、一般用写真フィルム・印画紙市場における反競争的行為を奨励したり、黙認などしていない。
1.公取委は、Fuji及び一般用写真材料産業に対して、適切に独禁法を執行してきている。この点は「歴史の改ざん」第Ⅲ章で詳しく論じた通りである。
1977年の法改正によって、寡占産業を常時監視する権限を得た(独禁法第2条7項)。
Fuji及び一般用写真材料産業に対する主な活動は以下の通り。
- 同調的値上げに関する報告(1980年及び1984年)
- Xレイフィルムの件(1981年)
- リベートに関する調査(1987年)
- 寡占産業に関する調査(1992年)
2.通産省は、反競争的市場構造の創造を奨励などしていない。
「写真フィルムの取引条件適正化指針」(1970 年発行)は、(コダックが主張するところの)コダックの日本市場へのアクセスを阻む「自由化対策」とは、何ら関係がない。
3.もしKodakが日本政府に反競争的行為の是正を望むならば、日本法の手続きに従って措置をとるべきであった。
Ⅴ.(コダックが主張するところの)反競争的行為は、米国の通商に何ら負荷や制限を加えていない。
仮に日本政府による不当な行為が存在していたとしても、それがゆえに米国の通商に何らかの負荷や制限が加わったという、「因果関係」が必要である。
1.Fujiの単一ブランド卸商との取引
Fujiの単一ブランド卸商との取引がゆえに、コダックの小売店へのアクセスが阻害されたことはない。
- 最近の低価格輸入品やグレー品の伸長は、流通ボトルネックなど存在しないことを示している。
- 自由化直後の一時期、コダックは価格攻勢や110 システム導入によって、シェアを大いに伸ばした。
- 浅沼との取引中止は、コダック自らが招いたことであった。
コダックは、大規模小売店への直接販売、複数ブランドを取り扱う二次卸への販売、及び系列ラボを通して、消費者にアクセスすることができる。
2.Fujiのリベート制度
Fujiのリベートの累進度は低く、競争メーカーが多少の値引きやリベートで十分対抗できる程度である。従って、コダックに対する排他的効果はない。
3.Fujiによる再販価格維持が仮に存在したとしても、それは価格競争の余地を与えるという意味で、コダックに有利に働くはずであるし、近年の価格下落傾向という事実に反する。
4.Fujiのラボとの取引
(コダックが反競争的と主張する) 買収を通じたラボの系列化は、コダック自身が米国で行ってきたことである。それをコダックが日本でも実現させることを阻む要素は何もない。
5.コダックが日本市場でシェアを伸ばせないことの因は、Fujiの「地元の有利性」と自らの戦略のまずさにある。
- 「地元の有利性」
地元メーカーが競争上優位に立つことは、経済分析の上で実証されている市場現象であり、市場障壁とはいえない。 - コダックの戦略のまずさ
「歴史の改ざん」で詳しく述べた通り、コダックはFujiと日本市場で競争するために必要な措置を何一つ採ってこなかった。
Ⅵ.結論
以上の理由により、USTRは、日本の一般用写真フィルム及び印画紙の市場障壁に関する 301条の調査を終了すべきである。
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