富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤 禎一)は、実験動物を用いずに化学物質の皮膚へのアレルギー反応の有無を評価する皮膚感作性試験代替法「Amino acid Derivative Reactivity Assay(ADRA)」が、混合物※1の皮膚感作性の試験法としてOECD(経済協力開発機構)テストガイドライン※2に収載されたことをお知らせいたします。今回、「ADRA」で評価できる物質(被験物質)を、これまでの単一物質だけでなく、混合物にも拡大し、妥当性検証試験にて100%の再現性を実証したことにより、本収載に至りました。国際的に信頼性が高い試験法としてOECDから認められたことは、「ADRA」普及の後押しとなります。
皮膚感作性試験は、皮膚と接触した化学物質によりアレルギー反応が誘発され炎症(かぶれ)を引き起こす皮膚感作性を調べる試験で、開発した新規化学物質や利用する化合物の安全性を評価するために製品企画や製造に先立って行われます。昨今、健康志向の高まりから、化粧品や洗剤などで天然抽出物を用いた製品開発が広がり、混合物の皮膚感作性を評価する試験法が求められていました。今回「ADRA」が、皮膚感作性が起こる過程※3の一つである「化学物質とタンパク質の結合」において、混合物を評価する試験法として初めてOECDテストガイドラインに収載され、このニーズに対応可能となりました。
当社は、高度な化学合成力・分子設計力により生み出した、検出感度が高い反応試薬を用いて、高精度に化学物質の皮膚感作性を評価できる皮膚感作性試験代替法「ADRA」を2017年に開発。2019年に単一物質の皮膚感作性の試験法として「ADRA」がOECDテストガイドラインに収載されたことを受け、「ADRA」の利用促進を図るとともに、混合物の皮膚感作性試験法の開発にも取り組んできました。
今回、当社は、従来の「ADRA」の測定方法に変更を加えることにより、混合物の皮膚感作性評価を実現しました。具体的には、①反応試薬と被験物質を混合する際、被験物質の調製方法を従来のモル濃度※4から重量濃度※5に変更すること、②反応の進行を測定する分析機器には、従来の吸光検出器※6のみならず蛍光検出器※7も利用し、被験物質に応じてそれらを使い分けること、により、幅広い混合物において高精度な皮膚感作性評価が可能となりました。
また、妥当性検証試験として同一施設内および異なる施設間で再現性試験※8を実施した結果、100%の再現性を実証しました。これにより、今回のOECDテストガイドライン収載に至っています。
現在、当社は、開発した「ADRA」の普及に向けて、「ADRA」を簡単に実施できる試薬キット「ADRAキット」(2018年9月発売)、同キットを用いた皮膚感作性評価の受託サービス(2022年4月開始)を、富士フイルム和光純薬株式会社にて展開しています。今後、化粧品や洗剤、消毒剤に用いられる植物エキスなど、混合物である天然抽出物の皮膚感作性試験をターゲットに、化粧品会社や化学品メーカー、試験受託機関などに対して「ADRA」の利用を積極的に提案し、さらなる普及拡大を図っていきます。
当社は、2030年度をターゲットとしたCSR計画「Sustainable Value Plan 2030」で取り組む重点課題の一つとして、「製品・化学物質の安全確保」を掲げています。今後も引き続き、化学物質の安全性評価技術の開発を通じて、化学物質による環境や健康へのリスクの最小化に貢献していきます。
皮膚感作性試験代替法「Amino acid Derivative Reactivity Assay(ADRA)」
ADRAの従来の運用
- 当社が開発した検出感度が高い反応試薬(以下、ADRA試薬)を用いた皮膚感作性試験代替法。実験動物を用いずに化学物質の皮膚へのアレルギー反応の有無を評価できる。ADRA試薬は、紫外線による高感度検出が可能なナフタレン環を含むアミノ酸誘導体の分子構造を有する。
- 単一物質の皮膚感作性評価では、ADRA試薬と被験物質のモル濃度の比率が一定となる反応液を作製し、被験物質と結合しなかったADRA試薬量を高速液体クロマトグラフ(HPLC)の吸光検出器で測定する。高感度に検出できるため、従来方法の「Direct Peptide Reactivity Assay (DPRA)」※9に対して約1/100の量の被験物質で測定可能。
ADRAで混合物の皮膚感作性評価を実現するために従来の測定方法に加えた変更点
- ① 重量濃度への変更
- 天然抽出物は、含有成分が不明であることが多く、被験物質のモル濃度を算出できないため、最適な重量濃度(0.5mg/mL)を見つけ出し、被験物質の調製方法を重量濃度に変更。
- ② 蛍光検出器の活用
- 従来使用していた吸光検出器では、被験物質と結合しなかったADRA試薬量を正確に検出・測定できないケースがあったため、ADRA試薬に蛍光を発するナフタレン環を組み込んだことを利用してHPLCの蛍光検出器を活用。吸光検出器で正確に検出・測定できなかった被験物質に対しては、吸光検出器に加えて蛍光検出器を使用した。
上記2点の変更により、混合物においても、被験物質と結合しなかったADRA試薬量の測定を可能にした。
測定方法の変更によって得られる試験結果の妥当性を検証するため、2019年10月~2020年12月に再現性試験を実施。5施設で10種類の化合物を各3回評価し、同一施設内および異なる施設間で同一の試験結果が得られるかを調査したところ、100%の再現性を実証。
お問い合わせ
報道関係
富士フイルムホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーション部 広報グループ
その他
富士フイルム株式会社
ESG推進部 環境・品質マネジメント部 安全性評価センター