富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤 禎一)は、医薬品事業で培ったリポソーム技術を応用し、水溶性成分の浸透性を高精度に制御し、表皮・真皮での浸透性をそれぞれ高める独自設計の単層リポソーム2種(表皮用リポソーム・真皮用リポソーム)を開発しました。これまで課題であった水溶性成分の皮膚への浸透性向上を実現したことで、より多様な成分を皮膚に浸透させることができます。今後、これらの単層リポソームを化粧品開発に応用する予定です。
リポソームは、細胞膜の構成成分であるリン脂質を、ナノサイズ(1mの10億分の1サイズ)のカプセル状にした微粒子で、薬剤を患部に必要なタイミングで届ける「ドラッグ・デリバリー・システム技術」の一つとして応用されています。当社は、写真フィルムをはじめ幅広い製品開発で培い進化させてきた、高度なナノ分散技術やプロセス技術などを生かし、医薬品分野でリポソーム開発を進めています。
また化粧品分野では、スキンケア化粧品に配合する成分の、皮膚への浸透性向上に向けた研究開発を推進してきました。皮膚は表皮と真皮で構成され、表皮の最外層にある角層は外的因子の侵入を防ぐバリア機能をもちます。成分を皮膚へ浸透させるには、角層のバリア機能を突破させるための工夫が必要です。
油溶性成分の場合は、同じく油溶性成分で構成されている角層との親和性が高い反面、水に溶けづらいため、独自技術でナノサイズに微細化することで、化粧水や美容液などへの配合を容易にするとともに、皮膚への浸透性向上も実現してきました。一方、水溶性成分は、そのまま化粧水などへ配合することは可能ですが、角層との親和性が低く、十分に皮膚へ浸透させることが難しいという課題がありました。そこで、当社は、油溶性のリン脂質で構成され、角層との親和性が高いリポソームの性質を活用し、水溶性成分のさらなる浸透性向上を実現する技術開発に取り組みました(図1)。
リポソームには、大きく分けて、脂質が多層に重なったたまねぎ状の多層リポソームと中空状の単層リポソームがあります。一般的なスキンケア化粧品に配合されるリポソームは、多層リポソームが主流ですが、同リポソームには、脂質膜が多層に重なる構造上、成分を少量しか含有できないという課題があります。このような中、当社は、単層構造により成分の含有スペースが大きいという特長を有する単層リポソーム(図2)を選択。より多くの水溶性成分を含有可能な単層リポソームの開発を進めました。
皮膚内部は表皮と真皮で構成され、表皮細胞やメラノサイトなどが存在する表皮は、ハリやシミに関連します。真皮には線維芽細胞が存在し、皮膚の弾力やシワに関わります。表皮と真皮に成分を届けるためには、まず表皮の最外層である角層を通過する必要があります。
当社は、表皮と真皮それぞれの肌悩みに応じたアプローチをより効果的に実現するために、角層がもつバリア機能の突破を目指し、これまで医薬品分野で培ってきたリポソームの技術を応用。浸透促進剤の分量や脂質膜の構成成分の配合を調整し、水溶性成分の浸透速度を制御することで、①水溶性成分が表皮内に留まる設計とした表皮用、②同成分が真皮まで浸透する設計とした真皮用、の2種の単層リポソームを開発しました。さらに、単層リポソームに含有した水溶性成分の浸透量が、リポソーム化していない場合に比べて表皮用では約3倍、真皮用では約5倍に向上することを確認しました(図3)。
以上から、2種の単層リポソームを使い分けることで、皮膚の狙った場所に成分を届けることが期待できます(図4)。
表皮(角層を含む)を模した人工皮膚モデル膜を用い、水溶性成分の浸透性を検証した。非リポソーム(リポソーム化せず)、表皮用リポソーム、真皮用リポソームをそれぞれ人工皮膚モデル膜に添加し、72時間経過した時点での人工皮膚モデル膜と透過液への成分移行量をそれぞれ計測した。
人工皮膚モデル膜内で確認された水溶性成分は表皮で滞留していることを、透過液内で確認された同成分は表皮を通過して真皮まで浸透していることを表す。
リポソーム化により、人工皮膚モデル膜および透過液への水溶性成分の移行量が増加。非リポソームと比べて、表皮用リポソームでは人工皮膚モデル膜中で約3倍、真皮用リポソームでは透過液中で約5倍の量の水溶性成分が検出された。
表皮用リポソームは、角層にゆっくり馴染むよう設計することで、より多くの成分を表皮に送達することが期待できます。
一方、真皮用リポソームは、角層を素早く通過するよう設計することで、より多くの成分を表皮の奥にある真皮に送達させることが期待できます。
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