富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤 禎一)は、湿度の低下による刺激(以下、湿度差刺激と表記)で肌荒れが生じる一因を解明しました。またチャ葉エキスに角層中の重要なバリア関連因子であるアシルセラミド産生酵素の発現促進効果を見出しました。
今回の研究成果
- 3次元皮膚モデル(以下、表皮モデル)を任意の湿度および時間で培養可能な湿度制御培養装置を開発しました。
- 湿度制御培養装置を用い表皮モデルに湿度差刺激を与えた結果、角層水分量とバリア機能が低下することを実証しました。またアシルセラミドの産生に重要な酵素「ELOVL4」※1が減少することを発見しました。
- チャ葉エキスにELOVL4の発現促進効果を見出しました。
湿度差刺激を受けた肌は敏感になり、炎症を生じやすいことが知られています。本研究では、肌のバリア機能に重要なアシルセラミドの産生を補うことで「刺激にゆるがない肌」へ導く新しいスキンケアの可能性を見出しました。当社は、今回の研究成果を化粧品の開発に応用していきます。なお、本研究は2022年3月25日より名古屋国際会議場で開催される「日本薬学会 第142年会」で発表する予定です。
研究背景
季節の変わり目やマスクの着脱による肌の不調に悩む方が多い一方で、そのような環境の変化により肌荒れが生じるメカニズムに関しては、あまり研究が進んでいませんでした。そこで当社は季節の変わり目やマスクの着脱時に生じる「湿度差」に着目し、皮膚に与える影響を明らかにすべく研究に取り組みました。
人の肌は表皮と真皮からなり、表皮の最上層には角層細胞と角層細胞間脂質で構成される角層が存在します。角層細胞間脂質の約50%はセラミドとアシルセラミドで構成され、これらが層状に積み重なったラメラ構造※2を形成して、肌のバリア機能※3を発揮しています。特にアシルセラミドはセラミドを規則正しく整列させ、強固な構造に整える機能があり、バリア機能の維持に重要な因子として知られています(図1)。アシルセラミドは溶解性が低く結晶化しやすいため角層細胞間へ効率的に浸透させるのは困難でしたが、当社は独自のナノテクノロジーにより、「ヒト型アシルセラミド」をナノサイズで安定分散させることに成功。同成分がラメラ構造の修復や肌のバリア機能を向上させることを確認しています※4。
角層細胞間脂質にセラミドとアシルセラミドが規則正しく整列することによって、肌の水分蒸散を防いだり、外部因子の侵入を防いだりするバリア機能が維持される。
今回の研究成果の詳細
1. 湿度制御培養装置の開発
細胞や表皮モデルなどの生物試料は通常培養に必要な培地成分の蒸発を防ぐため、高湿度(90%RH※5前後)で培養されます。これまで表皮モデルを低湿度に曝して培養する実験の多くは、乾燥剤の使用や培養器の加湿用バットを取り除くなどの方法で行われており、厳密な湿度制御は行われていませんでした。今回当社は乾燥空気と飽和水蒸気を混合させることで、任意の湿度に調湿した空気を作製可能な湿度制御培養装置を開発しました(図2)。この装置を用いることで任意の湿度および時間を指定し、表皮モデルを調湿空気に曝して培養することが可能になりました。
【図2】湿度制御培養装置
2-1. 湿度差刺激によって角層水分量およびバリア機能が低下することを実証
湿度制御培養装置を用いて湿度差刺激が皮膚に与える影響を検証しました。表皮モデルを高湿度(90%RH)から低湿度(30%RH)へ変化させて培養した結果、角層水分量が減少することが分かりました(図3)。また肌内部のバリア機能の指標であるTER値が低下し(図4)、外部から肌内部に異物が侵入しやすくなること(図5)を確認でき、バリア機能が低下することを実証しました。湿度差刺激を受けた肌は水分量が減少し、細菌等外部の物質をより侵入しやすくしてしまう状態になると考えられます。
【図3】湿度差刺激による角層水分量への影響
【図4】湿度差刺激による肌内部のバリア機能への影響
実験方法
湿度制御培養装置を用い、表皮モデルを高湿度(90%RH)から低湿度(30%RH)へ変化させ6時間培養。培養後の表皮モデルで角層水分量および、経上皮電気抵抗値(TER※6)を測定した。90%RHで培養した表皮モデルの計測値を100%とし、各計測値を相対値で示した。
結果
湿度差刺激を受けた表皮モデルでは角層水分量が減少した(図3)。またTER値が減少し肌内部のバリア機能が低下することが分かった(図4)。
【図5】湿度差刺激によるバリア機能(外部因子の侵入防御)への影響
実験方法
湿度制御培養装置を用い、表皮モデルを高湿度(90%RH)から低湿度(30%RH)へ変化させ48時間培養した。培養後の表皮モデルに対し、外部から侵入する異物を想定して蛍光物質を添加。皮膚への侵入を観察した。
結果
湿度差刺激を受けた表皮モデルでより多くの蛍光物質が皮膚内へ侵入し、バリア機能が低下していることが分かった。
2-2. 湿度差刺激によってアシルセラミド産生酵素が減少することを発見
次に湿度差刺激が皮膚のバリア機能に重要なアシルセラミドへ与える影響を検証しました。表皮モデルを高湿度(90%RH)から低湿度(30%RH)へ変化させて培養した結果、アシルセラミドの産生酵素ELOVL4の発現が減少することを発見しました(図6)。
【図6】湿度差刺激によるELOVL4発現減少
実験方法
湿度制御培養装置を用い、表皮モデルを高湿度(90%RH)から低湿度(30%RH)へ変化させ6時間培養した。90%RHで培養した表皮モデル中の発現量を100%とし、ELOVL4の発現量を相対値で示した。
結果
湿度差刺激を受けた表皮モデルで、ELOVL4が有意に減少することを確認した。
上記の結果から、湿度差刺激を与えた表皮モデルで角層水分量およびバリア機能が低下することを実証しました。ELOVL4が減少することで、新たにアシルセラミドが産生されにくくなり、長期的な保湿力・バリア機能の低下につながります。これが湿度差刺激により肌荒れを生じる一因であると考えます。
3. チャ葉エキスにELOVL4の発現促進効果を発見
湿度差刺激によりアシルセラミド産生酵素ELOVL4が減少し、肌のバリア機能の低下につながることから、ELOVL4の発現を促進させる成分の探索を行いました。その結果、酸化防止効果で知られるウーロン茶由来の成分「チャ葉エキス」にELOVL4の発現促進という新たな効果を発見しました(図7)。
【図7】チャ葉エキスのELOVL4発現促進作用
実験方法
表皮細胞にチャ葉エキスを10ppmの濃度で添加。24時間培養後に細胞を回収し、ELOVL4の遺伝子発現量を測定した。エキスを添加していない表皮細胞における発現量を100%とし、ELOVL4発現量を相対値で示した。
結果
チャ葉エキスによりELOVL4の遺伝子発現量が有意に増加することを確認した。
今回の研究で、湿度差刺激によってアシルセラミドの産生に重要な酵素「ELOVL4」が減少し、肌のバリア機能が低下すること、また、チャ葉エキスにELOVL4の発現促進効果があることを実証しました。
今後当社は、この研究成果を化粧品開発に生かしていきます。
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