富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤 禎一)は、紫外線や熱で酸化した皮脂である過酸化脂質が、皮膚のバリア機能※1を低下させる一因を解明しました。当社は、今回の研究成果を、皮膚のバリア機能低下を予防する成分の処方設計に応用するなど、化粧品の開発に生かしていきます。
- 皮脂の酸化物である過酸化脂質「過酸化リノール酸」と同脂質の分解物「アクロレイン」が皮膚のバリア機能を低下させることを実証しました。
- 皮膚のバリア機能低下(上記1)のメカニズムを検証した結果、「過酸化リノール酸」と「アクロレイン」が皮膚のバリア機能を維持するセラミドおよびアシルセラミドの産生に重要な酵素の遺伝子発現量を減少させることを発見しました。
- 「アクロレイン」が、皮膚のバリア機能維持に関わる重要因子(3種)の遺伝子発現量を減少させることを発見しました。
皮脂は、肌表面を覆う皮脂膜を形成することで、皮膚のバリア機能を維持する役割を果たします。一方で、紫外線や熱の影響を受けると酸化しやすい性質も持っています。酸化した皮脂は、過酸化脂質と呼ばれ、過酸化脂質がさらに紫外線や熱の影響を受け続けると、「アクロレイン」をはじめとする分解物をつくりだします(図1)。過酸化脂質とその分解物は、皮膚のバリア機能低下・炎症などの肌トラブルを引き起こすことが報告されていますが、詳細なメカニズムは解明されていませんでした。そこで当社は、過酸化脂質やその分解物が皮膚のバリア機能に与える影響とその詳細なメカニズムを明らかにする研究に取り組みました。
過酸化脂質とその分解物「アクロレイン」による肌への影響を明らかにするために、皮脂に多く含まれ酸化しやすい性質をもつリノール酸に着目。リノール酸を加熱してつくりだした過酸化脂質「過酸化リノール酸」を皮膚モデルに添加し、48時間培養。その後、「過酸化リノール酸」を添加した同皮膚モデルにて、皮膚のバリア機能の指標である、経上皮電気抵抗値(TER値※2)を測定したところ、「過酸化リノール酸」未添加の皮膚モデルと比べて、低いTER値を示しました(図2)。
また、「過酸化リノール酸」の分解物の一つとして知られる「アクロレイン」を添加し、24時間培養した皮膚モデルにおいても、「過酸化リノール酸」と同様に低いTER値を確認しました(図3)。さらに、「アクロレイン」を加えた皮膚モデルに、異物に見立てた蛍光試薬を添加すると、皮膚モデルの内部に異物が浸透しやすくなっていることを確認(図4)。皮脂の酸化物が皮膚のバリア機能を低下させることを実証しました。
リノール酸を加熱し、「過酸化リノール酸」を作成。皮膚モデルの角層に濃度12mMの「過酸化リノール酸」、および濃度300ppmの「アクロレイン」をそれぞれ添加して培養した。「過酸化リノール酸」を加えた皮膚モデルでは48時間後に、「アクロレイン」を加えた皮膚モデルでは24時間後にそれぞれ皮膚のバリア機能の指標であるTER値を測定し、相対値で示した。
「過酸化リノール酸」を加えた皮膚モデルではTER値が約70%減少し、「アクロレイン」を添付したモデルではTER値が約40%減少した。「過酸化リノール酸」および「アクロレイン」を添加した皮膚モデルでTER値が減少し、皮膚のバリア機能が低下することを確認した。
皮膚モデルの角層に濃度300ppmの「アクロレイン」を加えて72時間培養した。培養後の皮膚モデルに、外部から侵入する異物を想定した蛍光試薬を添加し、皮膚内部への浸透を観察した。
「アクロレイン」を加えた皮膚モデルにて、「アクロレイン」未添加の同モデルと比べ、より多くの蛍光試薬が皮膚内部に浸透した。皮膚のバリア機能が低下していることを確認した。
ヒト表皮細胞を用いて、「過酸化リノール酸」と「アクロレイン」が皮膚のバリア機能の維持に重要な役割を担うセラミドおよびアシルセラミドに与える影響を検証。「過酸化リノール酸」と「アクロレイン」をヒト表皮細胞に添加したところ、セラミド産生酵素SPTLC3※3およびアシルセラミド産生酵素CERS3※4の遺伝子発現量がそれぞれ減少することを発見しました(図5、図6)。
ヒト表皮細胞に濃度1nMと19nMの「過酸化リノール酸」をそれぞれ添加し、24時間培養した。その後、それぞれのヒト表皮細胞中のSPTLC3・CERS3の遺伝子発現量を測定。1nMの「過酸化リノール酸」を加えたヒト表皮細胞における遺伝子発現量を100%とし、それぞれの因子の遺伝子発現量を相対値で示した。
濃度19nMの「過酸化リノール酸」を加えたヒト表皮細胞では、1nMの「過酸化リノール酸」を加えた同細胞と比べて、SPTLC3・CERS3の遺伝子発現量がそれぞれ約20%減少。「過酸化リノール酸」がSPTLC3・CERS3の遺伝子発現量を減少させることを確認した。
ヒト表皮細胞に濃度1ppmの「アクロレイン」を添加し、24時間培養した。培養後にヒト表皮細胞中のSPTLC3・CERS3の遺伝子発現量を測定。「アクロレイン」未添加のヒト表皮細胞における遺伝子発現量を100%とし、それぞれの因子の遺伝子発現量を相対値で示した。
「アクロレイン」を加えたヒト表皮細胞では、未添加の同細胞と比べて、SPTLC3の遺伝子発現量が約20%減少し、CERS3の遺伝子発現量が約30%減少。これらの結果により、「アクロレイン」がSPTLC3・CERS3の遺伝子発現量を減少させることを確認した。
ヒト表皮細胞を用いて「アクロレイン」による皮膚のバリア機能に関連する因子の遺伝子発現量への影響を解析しました。その結果、皮膚の最外層である角層細胞の構造を形成し、外部因子の侵入を防ぐために重要な因子インボルクリン(INV)およびロリクリン(LOR)の遺伝子発現量を減少させることを見出しました(図7)。また、表皮細胞同士を密に接着することで、肌内部の水分蒸散抑制に重要な因子であるオクルーディン(OCLN)の遺伝子発現量を減少させることも発見しました(図7)。
ヒト表皮細胞に濃度1ppmの「アクロレイン」を添加。その後24時間培養した同細胞を回収し、INV・LOR・OCLNの遺伝子発現量を測定した。「アクロレイン」未添加のヒト表皮細胞における発現量を100%とし、それぞれの因子の遺伝子発現量を相対値で示した。
濃度1ppmの「アクロレイン」を加えたヒト表皮細胞では、未添加の同細胞と比べて、INV・LOR・OCLNの遺伝子発現量が減少。「アクロレイン」が皮膚バリア機能に関わる3種の因子の遺伝子発現量を減少させることを確認した。
また、上記の成果に加えて、ヒトから摘出した皮膚を用いて、皮膚中の「アクロレイン」の所在を可視化した結果、「アクロレイン」が角層表面だけではなく、毛穴の中にも存在することを確認しました(図8)。
ヒトから摘出した皮膚中の「アクロレイン」に反応する抗体を用いて、「アクロレイン」と、角層表面および毛穴の中のタンパク質が結合したアクロレイン結合タンパクを染色し、可視化した。
「アクロレイン」は皮膚表面や毛穴の中に存在していることを確認した。
当社は、12月5日より大宮ソニックシティ(埼玉県・さいたま市)で開催される「第1回 日本化粧品技術者会 学術大会」で今回の研究成果を発表します。
お問い合わせ
富士フイルムホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーション部 広報グループ
株式会社 富士フイルム ヘルスケア ラボラトリー
ブランドマネージメント推進本部