このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
近年、エコーを活用した排泄アセスメントが注目されています。アセスメントとは、「何が問題なのかを明らかにする」こと。排泄ケアとは、単に汚れたオムツをかえるとか訴えのままにトイレの介助をするなど、その時その時の対応をすることではなく、いかにオムツを濡らさないようにするのか、排泄回数を正常に近づけるために何をすればいいのか、など問題自体を解決していく方法を考えて対処することです。問題が起きている原因を明らかにすることによって、適切な対処方法を知ることができます。排泄障害を持つ患者さんの便や尿が排泄される前に、エコーを使って腸や膀胱に溜まっているものを観る排泄アセスメントの有効性についてエビデンスが蓄積されつつあり、排泄前の状況を可視化するツールとしてのエコーへの期待が高まっています。
富士フイルムのワイヤレス超音波診断装置 iViz air は、5.5インチ画面のスマートフォン型の本体と、ワイヤレスのプローブで構成され、携帯性に優れています。これまでの携帯型エコー装置では、患者さんが横たわるベッドの周辺のスペースが限られている場合には、本体を保持する(置く)ことができる場所とプローブを当てたい患者さんの検査部位との位置関係によってはプローブのケーブルが検査の邪魔になって、患者さんに体位変換や移動をお願いすることも。このようなシーンでもiViz airのワイヤレスプローブは自由な取り回しが可能になります。
ここでは、iViz airに搭載している、とくに在宅医療の現場で需要の高い高齢者の排泄ケアをサポートする機能について、「排尿」と「排便」の2回に分けて紹介します。第1回は「排尿ケア」です。
排尿後に膀胱内に尿が残ることを「残尿」、尿が残っている、残っていないに関わらず尿が残っているような感じがすることを「残尿感」といいます。排尿直後の残尿量は数ml~15mlが普通で、一般に50ml以上の残尿がある場合、治療の対象となります。
膀胱炎、尿道炎、男性では前立腺炎、女性では膀胱下垂などがある場合、炎症症状や膀胱の下垂状況が刺激となって、実際の残尿量が15ml以下でも、強い残尿感を持つことがあります。一方、糖尿病に合併する神経因性膀胱や、前立腺肥大症で排尿困難が長く続いた症例、脳卒中や脊髄疾患などでは、残尿感は全くないのに、多くの残尿を認める症例があります。
正常な排尿の一つは「残尿がない」ことですが、残尿感があるから残尿はある、残尿感がないから残尿はないとは一概にいえず、残尿量を測定するなど客観的な評価が重要です。残尿量の測定には、これまで尿道より管(カテーテル)を膀胱まで挿入し、出て来る尿の量を測定していました。管の挿入は痛みを伴うことが多く、気軽に行えるものではありません。近年では超音波検査(エコー)で膀胱の画像を出して残尿量(膀胱の体積)を測定する方法が一般的になってきました。膀胱の横断像と縦断像の2断面をそれぞれ描出して、3つの径の長さを計測したうえで、膀胱を楕円体と見立てて楕円体の体積公式に当てはめることで、近似的に膀胱体積、すなわち尿量を推定します。
iViz airはAI技術のひとつであるDeep Learning(深層学習)技術を活用して開発した膀胱尿量自動計測機能を搭載しています。この機能を使うと、検査者は患者さんの膀胱の横断像と縦断像の2断面を正しく描出することに専念するだけ。あとの計測はiViz airが自動でやってくれます(図1)。検査者は自動計測の結果を確認し、結果に納得できない場合には、同じ画像に対して、検査者自身が手動でキャリパ計測をすることもできます。
自動計測の精度を検証した結果を図2に示します。30症例を対象に、膀胱尿量計測に習熟している超音波検査技師が膀胱の横断像、縦断像を取得しました。左のグラフは、その画像に対して自動計測機能により推定した尿量値と、計測直後に排尿することで得られた、尿量実測値の関係を示したもの。右のグラフは、超音波検査技師が、従来の手動でのキャリパ計測により推定した値と、実測値との関係を示したものです。比較的少ない尿量から大きな尿量まで、iViz airの膀胱尿量自動計測が、ベテランの超音波検査技師による手動計測と比較して、遜色のない精度を示しました。この結果は、エコーの初心者、尿量計測の初心者であっても、iViz airで患者さんの膀胱の横断像と縦断像の2断面を正しく描出するやり方さえ習得すれば、ベテランの超音波検査技師がキャリパ計測により推定する尿量計測とほぼ同等の精度が得られることを示唆するものです。実際に、自動処理によって得られた計測結果の代表例と、とその尿量推定値、実測値の比較を図3に示します。(1) 尿量が少ない膀胱、(2) 膀胱の近傍にエコーフリースペースを認める症例においても、膀胱の領域を正しく自動抽出できています。
iViz airを使って臨床のベッドサイドで非侵襲的、かつリアルタイムに膀胱容量および残尿を簡便に評価することができます。医療の現場でご活躍されている皆さん、中でも特に看護師さんが尿閉の早期発見や尿路感染予防、個別の排尿パターンに則した排尿誘導や間欠導尿など、排尿ケアや高齢者のQOL 向上にiViz airを積極的に活用していただくことを、私たち富士フイルム社員は願ってやみません。
第2回は、iViz airに搭載している「排便ケア」をサポートする機能について紹介します。
今井睦朗,江畑徹郎,蔦岡拓也.深層学習を用いたユーザ支援機能のハンドヘルド型装置への搭載.Jpn J Med Ultrasonics Vol. 47 Supplement(2020).S551
本記事は2021年4月時点の情報であり、最新の情報とは異なる場合があります。
山崎 延夫
主な経歴:
1982年、大学卒業と同時に医療機器メーカーに就職し超音波画像診断装置の研究開発に従事。
1992年、国立循環器病センターの宮武邦夫先生、山岸正和先生、上松正朗先生(いずれも当時)らと、「組織ドプラ法(Tissue Doppler Imaging, TDI)」を開発し、日本超音波医学会から超音波工学フェロー(EJSUM)の認定を受ける。
2013年、富士フイルム株式会社に入社し現在に至る。
駒澤大学医療健康科学部非常勤講師。
著書に「日本発 & 世界初 エコーで心臓を定量することに魅せられた人々」