このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
超音波診断コラム
排泄ケアをサポートするワイヤレス超音波画像診断装置iViz air(2)排便ケア編
富士フイルムのワイヤレス超音波画像診断装置 iViz air は、5.5インチ画面のスマートフォン型の本体と、ワイヤレスのプローブで構成され、携帯性に優れています。iViz airに搭載している、とくに在宅医療の現場で需要の高い高齢者の排泄ケアをサポートする機能について紹介するシリーズの第2回は「排便ケア」です。
便秘の定義とエコーの活用
「慢性便秘症診療ガイドライン2017」では便秘の定義を「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」としています。便秘は疾患名や症状名ではなく、状態名で、“便秘”を訴える患者さんは便秘症となります。
第22回日本神経消化器病学会(会長:横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 中島淳主任教授、2020年11月19-20日)で「超音波検査による慢性便秘症アセスメント」と題して行われたコンセンサスミーティング(共催:富士フイルムメディカル株式会社)では、在宅で治療を受ける高齢者に多い慢性便秘症への対処法について、アセスメント時にエコーを活用することが提案され、コンセンサスが得られました。冒頭、東京大学大学院医学系研究科老年看護学の真田弘美教授は、「在宅医療を受ける高齢者などで、自ら便秘の症状を訴えられる人は少ない」ため適切なアセスメントが実施されず下剤の過剰投与などが発生しているとし、客観的な評価ができるエコーの活用が必要であると指摘しました。横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学の三澤昇医師は、「便秘の評価にはCTが利用されるが、放射線被爆やコストの問題から設置が難しい施設もあり、在宅患者の適切な評価ができないことがあった」と課題を指摘し、「エコーでも直腸内の便塊が概ね確認できる」としました。一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会の田中秀子理事長は、在宅医療現場では、通常携帯型のエコー機器により膀胱内の残尿観察を行っていることから、「その要領で直腸の便塊の観察も可能」とする見解を述べました。
超音波画像診断装置を活用した直腸内便貯留の観察
恥骨上縁にプローブを当て超音波ビームを尾側に10~30度傾けて膀胱を描出させると、その深部に直腸が描出されます。超音波の減衰が少ない膀胱を介在させることで深部の直腸が観察しやすくなります。直腸の短軸断面を観察すると、直腸内に便貯留があるときには、内容物の表面および内部で超音波が反射して半月型の高エコー域が描出されます。一方で便がないときには、収縮した直腸壁に由来した全周性の低エコー域が描出されます。硬便の有無の評価では、描出された高エコー域の形状に着目します。硬便の場合には音響陰影を伴う三日月型の高エコー域が描出されます。また、ガス貯留時には多重反射の所見が観察されます。
便の硬さの違いによるエコー所見の違い
便の硬さの違いによるエコー所見の違いを直感的(定性的)に理解することを目的とした、簡単なファントム実験を紹介します。100円ショップで購入した「こむぎねんど」(成分は、小麦粉、水、保湿剤、塩分)を3本使用しました(約16g/本)。そのまま練ったものを「普通便」と仮定し、水(約10cc)を含ませて練ったものを「軟便」、市販のカレーのルウ(約5g)を粉砕して練り込んだものを「硬便」としました。市販のコンニャクに直腸の短軸断面を模して、直径約3cmの円形の穴をくり抜き、硬さが異なる3種類の粘土を充填してiViz airで観察しました(図1)。
図1:硬さの違う粘土を使ったファントム実験の構成
結果の画像を図2に示します。「普通便」と仮定した粘土は、短軸像の上側(前方)約2/3は高輝度のエコー像が観察され、下側(後方)約1/3は音響陰影によりエコーが欠落しました。高エコー域は半円型に近い形状となりました。「軟便」を模して水を含有させた粘土では、短軸像が全周に渡って高輝度のエコー像として観察されました。「硬便」を模してカレールウを練り込んだ粘土では、上側(前方)のごく一部に三日月型の高輝度エコー域が描出され、その下側(後方)は音響陰影によりエコーが欠落しました。この実験から、粘土(便)の硬さが増すほど、高輝度のエコー像として描出される領域が減り、音響陰影が出やすくなることがわかります。これは、硬くなることで音響インピーダンスが増大して境界面での反射率が増大(透過率が減少)することと、粘土(便)の内部を音波が伝搬するときの減衰係数が増大する(減衰しやすくなる)ことが相互に作用している結果であると推定されます。
図2:実験で得られた画像
iViz airには直腸観察をサポートする機能が搭載されています。直腸観察モードにして画像をフリーズすると、モニタ画面の下に参考画像が表示されます。
便(-):全周性の低エコー域
便(+):半月型の高エコー域
硬便(+):三日月型の高エコー域
検査者は、この画像と実際にフリーズした患者さんの画像とを比較して、直腸の見え方が最も似通っているものを「便(-)」、「便(+)」、「硬便(+)」、「該当なし」の中から選択します(図3)。その結果は検査履歴の画面(リスト)に反映されます。
図3:直腸観察をサポートする参考画像表示
排泄ケアは人間の“尊厳を守るケア”
身体の中の不要物を排出する行為である排泄は、人間が生きていくうえで必要不可欠なもの。排泄は羞恥心を伴うプライベートな行為なだけに、人間が高齢や障害、疾病の影響で排泄行為を自力で行えなくなると、社会活動への参加意欲が低下したり、自らの存在価値を否定したりするようになりがちです。排泄障害を持つ患者さんが自立した日常生活を送るうえで、排泄のコントロールは不可欠なもの。医療従事者・介護者による患者さんへの排泄の支援は、生活全般の支援にもつながります。排泄ケアは、人間の“尊厳を守るケア”といわれるゆえんです。富士フイルムのiViz airを、人間の“尊厳を守るケア”に役立てていただくことが社員一同の共通の願いです。
■参考文献
コンセンサスミーティング「超音波検査による慢性便秘症アセスメント」.第22回日本神経消化器病学会抄録集(2020).
本記事は2021年4月時点の情報であり、最新の情報とは異なる場合があります。
山崎 延夫
主な経歴:
1982年、大学卒業と同時に医療機器メーカーに就職し超音波画像診断装置の研究開発に従事。
1992年、国立循環器病センターの宮武邦夫先生、山岸正和先生、上松正朗先生(いずれも当時)らと、「組織ドプラ法(Tissue Doppler Imaging, TDI)」を開発し、日本超音波医学会から超音波工学フェロー(EJSUM)の認定を受ける。
2013年、富士フイルム株式会社に入社し現在に至る。
駒澤大学医療健康科学部非常勤講師。
著書に「日本発 & 世界初 エコーで心臓を定量することに魅せられた人々」