このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
神奈川県立がんセンター
頭頸部 外科部長
古川 まどか 先生
神奈川県立がんセンターで、頭頸部外科医として従事しています。頸部から上の眼球と脳を除いた「頭頸部領域のがん」の診断と治療を行っています。私たちの診療現場では、悪性疾患を取り扱うため、初診時にいかに多くの情報を得るかが鍵になります。その中で、20年以上前からエコーを活用しており、一貫してエコー活用の有用性と、手軽に使用可能なポータブルエコーの必要性を強く感じています。
現在、週1回の外来と入院患者さんの診察を担当している中で、エコーを日常的に活用しています。
外来診療では、1日に20~30人の患者さんを診察しています。患者さんの中には高齢であったり、合併症を患っていたりする方も多いため、ある程度病気の状態を早い段階で把握する必要があり、初診にて、おおまかな病期、診断と全身の評価をすることを基本としています。その中で特に前処置が不要であり、多くの情報を得られるエコーが非常に役立っています。
また、当院では常時20人前後の頭頚部がんの患者さんが入院をして、手術、放射線治療、抗がん剤治療などを受けています。多くの患者さんが入退院を繰り返しながらの治療になる中、治療前、治療中、治療後といった要所要所の節目でエコーを使っています。具体的には、治療効果判定をはじめ、追加の手術や投薬の必要性の要否、残存しているがんの有無、がんの再発がないかの確認などをしています。その際、簡単なポータブルエコーでの診察と据置型エコーでの検査を適宜組み合わせて、病状の把握と記録を行っています。
頭頚部がんの診断で一般的な画像診断は、CT、MRIですが、これらの検査は検査前に絶食などの前処置が必要な事も多かったり、歯の治療金属の影響で画像が乱れたり、CTでは放射線被曝の問題もあったり、これらの検査を頻回に施行することはできません。その点、エコーは必要な時に使用でき、被曝がなく、また医療費も抑えられるので「患者さんにとって、非常にやさしい検査」と言えます。
さらに、精度に関してもCTやMRIと同等かそれ以上の情報も得られます。頸部全体像を画像として記録するのにはCT、MRIは不可欠ですが、エコーはデメリットが少ないことが特徴のため、日常診療の質を高める上でもっと広まるべきツールだと考えています。
通常の検査では生理機能検査室で据置型ハイエンドの機器を用いています。外来では、約10年前からラップトップ型のポータブルエコーを使用していますが、携帯することは難しいです。最近では、小型でスマートフォンやタブレットをディスプレイとするワイヤレス型ポータブルエコーが登場しています。今回、ワイヤレス型ポータブルエコーの1つであるiViz airを使用した経験から、頭頸部領域でワイヤレス型ポータブルエコーを使用する利点を挙げます。
はじめに、診察時に頸部の腫脹があった場合、その場で瞬時に用いることができる点です。聴診器のように常時携帯できるので、手術室や病棟、患者宅にも容易に携帯できます。
つぎに、頸部のエコーでは、プローブサイズがあまり大きいと顎の骨、鎖骨などにぶつかって良い画像が得られないので、プローブの幅と厚みは適切なことが望ましいと考えます。視野幅は4cm前後、プローブは軽く、先端はできるだけ薄い方が良いと感じています。
さいごに、手術の際に清潔エリア内で使用しますが、ケーブルがあると、プローブの取り回しが悪くなるだけでなく、清潔面での配慮も必要になるので、プローブカバーに収まるワイヤレスプローブは、清潔エリア内でも取り回しよく走査することができる点です。具体的な使い方としては、術野消毒前に切開部位を走査し、その後、プローブを清潔なプローブカバーに入れて、術中に使用することもできます。病変の確認が目的の場面においては、ワイヤレス型ポータブルエコーが1台あるだけで十分に役立つと考えます。
エコーで嚥下機能の評価を行う
高齢の方を中心に、嚥下機能障害の低下が問題となっていますが、病院の検査室まで足を運ぶことは、高齢の方にとってはハードルが高いことです。
入院中のベッドサイド、在宅や施設など日常の食事に近い環境下で、嚥下運動を評価できれば、最適な食物形態を選択でき、リハビリに直結するのではと考えます。
ワイヤレス型ポータブルエコーなら、どこへでも持参し、自由な体勢でエコー検査を行うことが可能です。嚥下運動のうち最も誤嚥に関係する口腔・咽頭の動きをいかにエコーで可視化し、客観的に評価していくか、そのための標準的手法を打ち立てていくことが課題だと考えています。
患者さんの不安を少なくするためにエコーを活用
当院に来られる患者さんは、他の医療機関からの紹介ですが、紹介状の疑い診断と実際の診断が異なることもしばしばあります。
頸部という部位は、狭いスペースにさまざまな臓器が集中しています。専門医でない場合、一見して正しい診断をするのが難しいのが現実です。例えば、「耳下腺腫瘍」として紹介されてきた患者さんを診た結果、耳下腺腫瘍ではなく、リンパ節が腫脹しており、がんのリンパ節転移であったということも珍しくありません。
したがって、当院の初診にて正しく診断し、患者さんが理解しやすいように説明していくことが、私たちの使命だと思っています。
一方、実際にはがんではないのに、「がん」と言われて紹介されて来られる患者さんもいます。もし「がん」ではないのであれば、できる限り早くその心理的負担やショックを取り除いてあげなくてはなりません。そのような場面で、初期診療においての日常的なエコーの活用が大きく貢献します。
これまで、クリニックなどにとってエコーの導入はハードルが高かったわけですが、ポータブルエコーであれば比較的容易に手が届くはずです。耳鼻咽喉科・頭頚部外科クリニックの初期診療においてもエコーを取り入れることで、正しい情報のもときちんとした病状説明ができれば、不用意に不安を与えることなく、また、心理的負担やショックを受けたとしてもそこから立ち直り前向きに治療に臨む気持ちで当院を受診していただけるのではないかと思います。
若い世代の医師とエコーの親和性
頭頚部のエコーは、約30年以上前から使われていますが、当時はまだ、画質や性能が発展途上でした。そのため、エコーが進化した今でも、エコーは検査者の技量に左右されるため客観性に乏しいと思い込んでいる方もいらっしゃいます。
一方、若い世代の先生は、幼い頃からパソコンやゲームが身近にあったため、「バーチャル」と「リアル」のリンク付けも容易にこなしてエコーの受け入れが良く、さらに、使いこなすスピードも速いです。今後、若手医師をターゲットに積極的にエコー教育を行っていきたいと考えています。この1、2年でエコーの普及が進むのを楽しみにしています。
- 販売名
FWUシリーズ
- 認証番号
301ABBZX00003000