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概要
MRIの複雑な撮像パラメータ設定は相互に影響し合い、単独での変更が難しい。このため、適切な撮像条件の設定をわかりにくくしている。
今回は簡単な撮像シミュレーターを使用して、この撮像パラメータの特性を理解したいと思う。
はじめに、図1のMRIパラメータシートの解説を行う。
設定できる主要な撮像パラメータはTR、TE、撮像視野(FOV)、スライス厚(Thk)、周波数方向データ数(横方向画素数Frq#)、位相方向データ数(縦方向画素数Pha#)、受信帯域幅(BW)、加算回数(NSA)の8項目である。
これらを初期値から2倍と1/2倍にした場合を示す。それぞれの単位と数値は図に示したとおりである(動画で見にくい場合は停止して見ていただきたい)。
ここで、周波数方向は画像の横方向に設定しており、実際は2倍と表記したのは折り返しを防ぐために2倍のデータ量を採取しているということである。この画像の折り返しに関しての詳細は別項で改めて述べる。
画像の質を4種類の横棒グラフで示す。SN比は初期値からの増減量、コントラストはT1強調寄りかT2強調寄りか、画像の空間分解能は初期値からの変化を表している。
撮像時間はTR×位相方向データ数×加算回数で計算される時間値を示す。
図の左下に信号受信の様子と1画素サイズを表現したが、信号の受信時間は図中の式で表され、画像SN比は受信帯域幅の平方根に反比例することが知られている(例えばBWが4倍でSN比は50%になる)。
1画素のサイズに関しては、図に示すように初期値は約1mm×1mm×10mmである。
撮像対象のファントムとしては2種類の組織(材質)を想定し、図に示すようにTR時間においてT1値カーブで緩和したMR信号が、TE時間後にT2値カーブで減衰したポイントにおいての計測値が画像の輝度となる。
撮像される画像例を右下に示す。縦横の画素数はデータ数に対応するが、横の周波数方向は先に述べたように2倍になっているので、画像は半分に切り出して表示している。
TR変更の様子を図2に示す。
TRを初期値の2倍の2000msにすることで、T1緩和が十分になされてこの影響が減り、T2強調寄りの画像となることがわかる。この場合はTEが20msと小さいため、プロトン密度像に近いものとなっている(Long TR、Short TEでPD強調)。
重要な変化としては撮像時間が2倍に延長していることである。このことから、T2強調画像を得るには、撮像時間がかかることが理解されよう。
逆にTRを半分にすると、T1緩和の影響が強くなるためT1強調画像寄りとなり、撮像時間も半分に短縮することがわかる。
TE変更の様子を図3に示す。
TEを2倍の40msにすると、T2緩和が進みT2強調寄りの画像となる。
逆に半分の10msに設定すると、T2緩和の影響がほとんど無くなり、T1緩和の影響が大きくなる。
また、TEの変更においては画像の分解能や撮像時間への影響は無いことがわかる。ただし、1TR時間中に撮像できるスライス数には影響する(TEが短いほどスライス数が増やせる)。
FOV変更の様子を図4に示す。
FOVを2倍にすると、視野が500mm×500mmとなると同時に、画素数が縦横256から変わらないことから1画素のサイズが拡大する。その体積は縦横拡大で2乗の4倍となるので、信号量が増加しSN比も4倍に大幅に増加する。そのかわり、分解能は1/4の25%に減少するのである。
FOV縮小の場合の分解能は4倍に増加するが、SN比は1/4に大幅に減少する。
また、位相方向である上下に被写体がはみ出した場合は画像の折り返しが発生する。
このように、FOVの変更が画像SN比に大きく影響を与えることがわかる。
Thk変更の様子を図5に示す。
スライス厚を増減すると、1画素のスライス方向体積が比例関係で増減することから、スライス厚に比例してSN比も増減することがわかる。また、当然ながらスライス方向の分解能も増減する。
Frq#変更の様子を図6に示す。
周波数方向のデータ数を変化させると、画像の横方向の画素数が変わると同時に横方向の画素サイズが影響を受ける。データ数と反比例関係でSN比が増減し、分解能も変化することがわかる。
Pha#変更の様子を図7に示す。
位相方向のデータ数変更はとても興味深い。
まず、Pha#を2倍に増加した場合、同一視野の縦方向に2倍の画素数となることから、縦方向の分解能は2倍となる。1画素の体積サイズが半分になるので、信号量も半減する。
しかし、Pha#は撮像時間にも影響するため、撮像時間が2倍に延長して信号の加算効果が生じる。これは画像SN比を√2倍に増加させるので、結果的にSN比は50%×√2倍で70%の低下となるのである。このように撮像時間が2倍もかかっているのにSN比は低下することになる。
反対にPha#を半分にした場合は、画素サイズが2倍となることから信号量は2倍になるが、撮像時間が半分で加算効果は√1/2倍、結果的に画像のSN比は1.4倍に増加する。撮像時間が半減してもSN比が増加する点はとてもおもしろい。もちろん、その代償として分解能が低下するのである。
BW変更の様子を図8に示す。
受信帯域幅の増減は複雑である。BWを2倍にするということは、サンプリング周期が2倍になり、周波数方向のデータ数は変わらずに2倍速サンプリングを行うため、このままだとMR信号を半分の時間範囲までしかサンプリングしないことになる。これは採取データが足りないため、画像に影響が出る(この場合、画像が横に伸びる)。
この問題を避けるために、一般的に周波数方向の傾斜磁場を2倍にして印加し、MR信号そのものを短縮するようにしている。この結果、MR信号を適切に採取して画像への影響が無くなる。
SN比に関しては、BWの平方根に反比例すると先に述べたが、これは熱雑音の式にBW(B)が下記のように入っているからである。
n=√(4・k・B・T・R)
n:ノイズ量、k:ボルツマン定数、B:帯域幅、T:温度、R:抵抗値
NSA変更の様子を図9に示す。
加算回数の増減は良く知られているように、SN比が平方根に比例する。
この理由は信号量が加算に比例して増加するが、ノイズ量はランダムなので平方根で増加するためである。
以下、MRIシミュレーターの応用例を示す。
図10はT2強調画像を得る場合である。
まず、TRを2000ms以上に延長して十分なT1緩和時間を確保する。
次にTEを100ms程度に設定することで、T2緩和を反映したT2強調画像を得ることができる。
図11は撮像時間を変えずにSN比を向上する方法である。
この方法は種々あるが、この例ではまずPha#を半減して撮像時間を短縮する。
次に加算回数を2倍にして撮像時間を戻すと、SN比を2倍にすることができる。
しかし、これは画素サイズが2倍となっているので、代償として分解能を半分に下げているのである。
それでは、分解能を維持して撮像時間を減らすにはどのようにすれば良いか?
その例を図12に示す。
まず、Pha#を下げて撮像時間を短縮する。
このままでは分解能が低下しているので、位相方向の視野を半分に減らして、撮像領域を狭くすることで分解能を維持することができる。
この方法は矩形視野と呼ばれ、膝などの整形領域の撮像では良く用いられている。
ただし、撮像視野から被写体がはみ出ると画像の折り返しが生じるので注意を要する。
SN比に関しては撮像時間を低減した分、平方根に比例して減少する。
より強いT1強調画像を得たい場合など、TEを短く設定することがある。
図13はBWを増加して受信時間を短縮したうえでTEを短くし、T2緩和の影響を排除してT1コントラストを強めている。この場合は先に述べたSN比の低下に注意が必要である。
画像のSN比を改善したい時は加算回数を増加することが常套であるが、撮像時間が大幅に増加することは避けたい。
図14に整数倍ではない加算方法を紹介する。これはPha#を1.5倍に増加した例である。
位相方向のデータ採取回数も信号加算と同義であり、撮像時間も増加する。加算回数と異なるのは整数倍ではなく自由に増加量を設定できる点である。
Pha#を1.5倍の384にすると撮像視野が1.5倍に縦方向に伸び、撮像時間も1.5倍に延長するため、信号加算効果でSN比は平方根の22%増加する。表示時に上下の無駄な領域を切り出すことでFOVを戻す。
以上、解説したようにMRIの撮像パラメータは影響し合い、何かを良くすると何かが悪くなるという状態になる。これらを良く理解した上で適切なパラメータ設定が必要であり、これによりMRI装置の能力を最大限に引き出すことができるのである。