このウェブサイトはクッキーを使用しています。このサイトを使用することにより、プライバシーポリシーに同意したことになります。

日本

わかりやすいMRI解説シリーズ その3 ~MRIのパルスシーケンス~

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

  • * 本コラムは、執筆時点の情報に基づいて当社社員が記載した内容で、最新の情報とは異なる可能性があります。

概要

「わかりやすいMRI解説シリーズその1 MRI画像のコントラスト」で紹介した時間パラメータTR、TEと、その2「MRI画像の再構成手法」で解説した2DFT画像再構成手法をまとめるもの、それがMRIのパルスシーケンスである。

先述のようにMRIにおいて画像を得るためにはスピンからMR信号を得なければならない。さらに、繰り返し時間:TRとエコー時間:TEをコントロールする必要がある。このために拡散するスピンを再度収束させエコー信号を生じさせる。
図1に示すように、スピンの拡散により消失するエコー信号をこのモデルのようにスピンを倒すことに使用した90度励起パルスの2倍の大きさのパルスを照射する。この結果、スピンはさらに180度倒され反転する。反転されたスピンは横緩和により拡散した個々のスピン差が収束し、再びエコー信号を生じる。即ち所望のTE時間の半分のタイミングで180度パルスを与えればTE時間でエコー信号が得られることが分かる。勿論、TRの設定は90度励起パルスの間隔で設定する。

図1 スピンの拡散と収束

2次元画像を撮像するためには撮像断面を選択する必要がある。これは、スピンを倒す照射パルスを与えるときに傾斜磁場を印加しておくことで行う。
図2に示すように、励起のRF周波数により撮像断面を決定することができ、断面位置の変更は周波数の調整により行い、スライス厚さのコントロールは傾斜磁場の強度(傾き)により行うことができる。この傾斜磁場の印加方向がスライス方向ということになる。

図2 撮像断面の決定

MRIのパルスシーケンスは図3に示すパルスシーケンスチャートで表現される。
パルスシーケンスチャートはMRI撮像法の設計図と呼べるもので、横軸が時刻、縦軸には一般的に上からRF励起、スライス選択磁場、位相エンコーディング(位相エンコード方向傾斜磁場)、周波数エンコーディング(周波数方向傾斜磁場)、一番下にMR信号のタイミングが描かれているものである。
この図において、

  1. 第一のRF励起パルスによりスピンを90度倒す。(このときスライス選択磁場印加)
  2. 1/2TEの時間内に位相エンコーディングと周波数エンコーディングを印加する。
    位相エンコーディングは信号受信の度に1ステップずつ変化させながら位相方向マトリクスの数だけ印加していく。
  3. スライス選択磁場を与えながら1/2TE時刻で180度(反転)パルスを照射する。
  4. TE時間を中心に周波数エンコーディングを与えながらMR信号を受信する。

ここで、1/2TE時間内に信号受信時に印加する周波数エンコーディングの半分の量(強度×時間)の傾斜磁場をあらかじめ印加しておき、反転パルス前後で相殺して、MR信号がTE時刻を中心に正確に生じるように調整している。

このように180度パルスを使用してエコー信号を再収束する方法は「スピンエコー(SE)法」と呼ばれている。

図3 パルスシーケンス(スピンエコー法)

MRIでは撮像時間の高速化が必要とされ、また、最短TEの短縮も重要である。
図4に示すグラジエントエコー(GrE)法は高速化手法の1つであり、信号の収束にRFパルスではなく、傾斜磁場の極性反転を用いる。

周波数エンコーディングの傾斜磁場をあらかじめ与えておき、これを反転すると位相の進んだスピンは遅くなり、逆に遅れたスピンは早くなるため、拡散した信号は再び収束してMR信号を生じる。
このグラジエントエコー法ではRFパルスの印加が1回で済むため、MR信号を得るまでの時間を短くでき、TEの短縮化、TRの高速化が可能となり、高速撮像の手法として常用されている。

図4 高速撮像法

人体組織にはさまざまなスピンが存在している。特にT2値の違いにより早く拡散するスピンと、ゆっくりと拡散するスピンがある。スピンエコー法では、図5のように周波数エンコーディングの印加により拡散したそれぞれのスピンは180度パルスで反転して収束する。
どのようにスピンの拡散速度が異なろうとも、同じ過程を戻るのであるから、必ず同時に収束する。つまり、磁場の不均一や傾斜磁場のリニアリティに影響されずに、正確にMR信号を取得して画像を撮像できる。これがスピンエコー法の最大の利点である。

図5 ウサギとカメの山登り(スピンエコー法)

一方、グラジエントエコー法では傾斜磁場の反転を用いてスピンを収束させるため、磁場均一度の差異や傾斜磁場のわずかな乱れから道のりに差が生じ、結果的にスピンの拡散状態により、MR信号に差が生じて画像に劣化(欠損やボケ)が生じる。
つまり、グラジエントエコー法はスピンエコー法と比較して画質が劣化しやすい(図6)。

図6 ウサギとカメの山登り(グラジエントエコー法)

グラジエントエコー法のパルスシーケンスチャートを図7に示す。
スピンエコー法と比較してシンプルであり、高速化が可能であることが理解されよう。

  1. RF励起パルスによりスピンを90度*1倒す(このときスライス選択磁場印加)。
  2. 1/2TEの時間内に位相エンコーディングと周波数エンコーディングを印加する。
  3. 1/2TE時刻で周波数エンコーディングの傾斜磁場を極性反転させる。この結果、拡散されたスピンは収束に向かう。
  4. TE時刻を中心に周波数エンコーディングを与えながらMR信号を受信する。
  • *1 実際は高速撮像時のコントラスト確保のために90度よりも浅い角度が選択される。

図7 パルスシーケンス(グラジエントエコー法)

これら2種類の撮像手法は診断目的に応じて選択されて使用される。
グラジエントエコー法では磁場環境の影響により組織のT2時間が見かけ上変化する性質があり、このためT2に“*”マークを付け、「T2*(T2スター)」と呼び区別している。
図8の半月板損傷などの例では、病変にコントラストの高い画像が得られるグラジエントエコー法によるT2*強調画像の方が確認しやすいと言われている。

図8 スピンエコー法とグラジエントエコー法の画像