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日本

わかりやすいMRI解説シリーズ その1 ~MRI画像のコントラスト~

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

  • * 本コラムは、執筆時点の情報に基づいて当社社員が記載した内容で、最新の情報とは異なる可能性があります。

概要

今回からシリーズでMRIの基本原理の解説を行っていきたい。
第1回はMRIで重要な画像のコントラストについて説明する。

MRI装置は磁気共鳴現象を利用している。これは図1のように磁場中に置かれた水素の原子核が、ある特定の高周波磁場に共鳴現象を生じ、エネルギーの吸収と放出を起こすものである。

ここで重要なことは、磁場の強さと原子核の磁気共鳴周波数が比例しているということだ。

図2に示すように傾斜磁場と呼ぶ、場所によって磁場の強さを変える手段で磁場に勾配をかけると、位置により図の音叉の音程が異なることで表現できる。ここに外部からある音の音叉を鳴らすと、同じ音の音叉のみが共鳴現象を起こし、振動エネルギーを吸収する。これがMRIの照射過程に相当する。

次に、外部の音叉を止めると、共振した音叉から音が放出される。これがエコー信号である。

図3に示すMRI装置の構成は、均一な磁場空間(静磁場)を形成する磁石(超電導磁石、永久磁石が用いられる)、傾斜磁場を任意に印加するX,Y,Zの3方向の傾斜磁場コイル、共鳴エネルギーを与える照射コイル、エコー信号を検出する受信コイル、さらにこの信号を演算処理して画像を再構成するコンピュータシステムから構成される。また、コンピューターは傾斜磁場の印加や照射タイミングなどの制御も行う。

人体の構成要素の多くを占める水分には多量のプロトン(陽子)が存在する。
これらは、回転する「コマ」に例えられる。
原子は固有な回転数をもつ「コマ」であり、「核スピン」と呼ばれている。
また、回転数すなわち周波数は「ラーモア周波数」と呼ばれる。
さらに、静磁場を与えることにより、ランダムな方向を向いていたプロトンはあたかも小さな磁石のように回転軸が静磁場方向にそって整列する(図4)。

ラーモア周波数 ω=γB
B:静磁場強度(与える磁場の強さ、単位:Tテスラ)
γ:核磁気回転比(定数でプロトンではγ/2π:約42.58MHz/T)

回転しているコマを強制的に倒すと、コマは次第にもとの回転状態にもどる。このとき、回転軸は螺旋状に運動して元へともどる。
プロトンのスピンも同様に横に倒すと、静磁場の方向へともどって行く。
回転するコマと同じ周期の横磁場を与えると、倒されたスピンは回転磁界を生じながら回転運動を行う。そこで、ここに受信コイルを置くと、受信コイルにラーモア周波数の高周波電流が誘起される。これがMR信号となる(図5)。

現実には無数のスピンが存在し、それぞれからの信号の合成された結果がMR信号として検出される。
個々のスピンは、微妙に回転運動が変化し、ばらばらに拡散する。このため、スピンの回転運動の統一性は失われ、MR信号は急速に減衰するが、この減衰過程を横緩和といい、緩和時間をT2値と呼ぶ。
そして、やがて再び静磁場の作用で個々のスピンは静磁場方向に整列していく。
この過程が縦緩和で、緩和時間をT1値と呼ぶ(図6)。

これらの緩和時間は一般的にスピンの運動速度(組織の粘度)、高分子化合物の状態、磁性体の影響、また、組織温度などにより変化する。また、縦緩和時間(T1値)は磁場強度が高くなると延長することが知られている。
MRIではこの緩和時間の差を画像のコントラストとして撮像するのである(図7)。

MR信号には組織固有のT1値、T2値のパラメータがあり、これを反映したT1強調画像、T2強調画像を撮像することにより、生体組織の判別さらには、その組織が病変であるかを知ることもできる可能性がある。これは疾病などの組織の状態変化により、このT1値、T2値というパラメータが変化するためである。

MRIは撮像手法を変更することによって、同一部位でコントラストの異なる各種の画像を得ることができる点が大きな特徴といえる。

T1値、T2値とはそれぞれMR信号の縦緩和時間、横緩和時間という時間のパラメータであり、受信されるMR信号の回復時間、減衰時間に対応している。
T1強調画像ではT1値の短い、つまり縦緩和が早く信号回復が早い組織を明るく表現する。
また、T2強調画像とはT2値の長い、つまり横緩和が長く信号減衰が遅い組織を明るく表現したものである(図8)。

MR信号は図9に示すとおり指数関数的に変化する。組織のT2値、T1値はそれぞれ1/eに減少する時間、(1-1/e)に回復する時間である。一般的にT2値は1~100ms、T1値は100~10,000msといった値である(e:ネイピア数 約2.72)。
ここで、式に示されるTRとはMR信号取得の繰り返し時間で、単位はmsである。また、TEとはMR信号を取得するタイミングとなるエコー時間で、単位はmsである。
これら、TR、TEを適切に選択することで、式のa項またはb項を1に近づけることができ、これによりT1値またはT2値の違いを反映したMR信号を得ることができる。
ただし、完全に1にすることはできないので、それぞれ、T1値とT2値の影響が残った画像となる。このためT1画像とは呼ばずに、T1強調画像という。
また、a項、b項をそれぞれ1に近づければ、水素原子の量を反映した画像が得られ、これをプロトン密度画像という。プロトン密度画像は画像のコントラストは低いが、信号が大きくSN比に優れるため形態情報の取得に有用である。

緩和時間の違いを画像のコントラストに反映する手法を水槽のモデルを使って説明する。
図10の水槽には水を注ぐ蛇口Aと水を排出する蛇口Bが付いている。注ぐ蛇口Aに対して排出する蛇口Bの大きさが10倍から100倍であるとすると、水槽の水はゆっくり溜まって急速に減ることになる。

水を排出したら再び溜めるという動作を繰り返すとして、この繰り返し時間をTrと呼ぶことにする。また、蛇口Bを開けて排出をはじめてから、Te時間たったあと、残った水槽の水量を測るために写真を撮ることにする。

T1値は蛇口Aの大きさに対応しており、水が水槽の約2/3に溜まる時間である。
このT1値を知るには、水を溜める時間を短く設定して、水槽いっぱいに水が溜まる前に写真を撮れば良い。このとき、蛇口Bによる排出の影響を避けるには、すぐに撮影する必要がある。
すなわち、Tr、Teともに短く設定すれば蛇口Aの大きさであるT1値の影響を写真に撮ることができる。
当然、蛇口Aの大きさが大きい方が早く水が溜まり、T1値が短いということになる(図11)。

蛇口Bを開けると、急速に水が排出されるが、この水が約1/3になる時間をT2値と呼ぶことにする。
このT2値は蛇口Bの大きさにより決定され、T2値の違いを知るには水槽いっぱいに水を溜めておき、蛇口Bを開けてからしばらくして写真を撮れば、その時の水の量が蛇口Bの大きさに対応する。残った水が多いほど蛇口Bが小さくT2値が長いということになる。
すなわち、Trを長く設定し、Teも長くすればT2値の差に応じた写真を得ることができることがわかる(図12)。

得られた写真の水量を輝度データとして表示すれば、それぞれのコントラストの画像を撮像できる。
撮像時に撮像パラメータである繰り返し時間TRとエコー信号の取得タイミングTEを適切に設定することにより、T1値、T2値を反映したコントラストの画像が得られることがわかる(図13)。

ここでは定性的に長い、短いという表現を用いたが、撮像内容により適値は異なるが、実際の撮像では1.5T装置でのT1強調画像においてはTR:500ms、TE:12ms程度、T2強調画像においてはTR:3000ms、TE:100ms程度が用いられている。