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64列CT装置(以下、64列CT)における冠動脈CT検査の課題として、「心拍があがるにつれ成功率が下がること」が挙げられる1)。本研究では最新のモーションアーチファクト補正技術であるCardio StillShot*1(以下、CSS)について、冠動脈ファントムおよび臨床データを用いて補正効果を明らかにする。はじめに冠動脈ファントムを用いてハーフ再構成 CSS ON/OFFの画像を作成し、視覚および円形度の比較を行った。次に冠動脈CT検査で得られた各心拍群のデータから、セグメント再構成 CSS OFF、ハーフ再構成 CSS ON/OFFを再構成し、冠動脈三枝のCPR画像を用いて、2人の循環器科医による視覚評価を行った。その結果、CSSの使用により低心拍だけでなくHR:60-69 bpm、HR:70 bpm以上の症例においても有用性が期待される結果となった。
In coronary CT angiography using 64-slice CT, it is known the issues that "the success rate decreases as the heart rate rises"1). In this study, It is important to clarify correction effect of Cardio StillShot*1(CSS), which is the latest motion artifact correction technology, using a coronary artery phantom and clinical data. In phantom study, half reconstruction images with/without CSS were reconstructed using a coronary artery phantom and the visibility and circularity were compared. In the evaluation for clinical data, segment reconstruction image without CSS and half reconstruction images with/without CSS were reconstructed from data of each heart rate group obtained by coronary CT angiography, and the images were used to create CPR images of the three coronary arteries. The image quality of these CPR images was visually evaluated by two cardiologists. As a result, usefulness with CSS is expected not only for low heart rate but also for HR: 60-69 bpm, HR: 70 bpm or more.
Key Word
Coronary CT Angiography, Cardio StillShot, Motion Artifact Correction, High Heart Rate
2014年の日本冠疾患学会雑誌2)より冠動脈CT検査は2004年から年々増加傾向であることがわかり、また月刊新医療3)-9)の統計からは面検出器が登場した昨今でも64列CTを使用した冠動脈CT検査が最も多いことがわかる。その背景としては面検出器が高価であるのに対し、64列CTは比較的安価でさまざまな規模の病院で導入しやすいメリットが考えられる(図1)。
2022年3月に「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018 年改訂版)10)」と「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018 年改訂版)11)」から、新たな知見をまとめ「2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療12)」が作成された。これまでのベースラインの検査前確率に対し臨床的尤度を加味した修正検査前確率を算出し、経過観察とするのか非侵襲的検査にするのかを求められるようになっている(図2)。
非侵襲的な検査を必要と判断された場合においては中等度以上の症例で冠動脈CT検査が推奨されているが、画質不良が予測される場合は避けるべきとの記載もある(図3)。そのため、心拍が上昇するにつれて64列CTで行うにあたっては注意が必要であった。
図4に当院の2014.12.15~2015.2.15期間における冠動脈CT検査の成功率を示す。heart rate(以下、HR)が上がるにつれ成功率が低下しているのがわかる。また図5にHRのヒストグラムを示すが、HR:60 bpm台までの患者割合が80%程度となっており、HR:70 bpm台まで含めることで約90%となるため、冠動脈CT検査を行うにあたり、これらの検査の成功率が上がることが望ましい。
64列CTにおける冠動脈CT検査の課題の一つである、「心拍が上がるにつれ成功率が下がること」に対して、本研究では最新のモーションアーチファクト補正技術であるCardio StillShot*1(以下、CSS)について各心拍数における補正効果を明らかにし、その有用性を検証する。
CSSとは生データ上で動きの補正処理を施すハーフ再構成法である。 具体的には部分角度画像再構成、動き推定、動き補正の3つの機能から成っている。 部分角度画像再構成では、動き推定用画像の時間分解能を高めるため、敢えて、180度未満の角度範囲で画像再構成し、補正対象画像の中心角度位置から前後それぞれに90度離れた角度位置の画像を動き推定用画像とする。
動き推定では、対向の位置関係にある動き推定用画像間の形状変化を、非剛体レジストレーション技術を用いて、時間と空間3次元の情報を持つ4次元ベクトル(以下、動きベクトル)として抽出する。
動き補正では、動きベクトルを用いて、生データから画像を再構成するが、画素およびビュー毎に動きベクトルを持っているため、ビュー毎に動き補正しながら逆投影することができる。 以上の原理により、心臓の拍動によって生じる画像上のブレを低減することが可能となる(図6)。
富士フイルムヘルスケア株式会社製64列CT 装置SCENARIA View*2を用いて撮影した冠動脈ファントム、および臨床データそれぞれに対してSCENARIA View Plus*3のCSSを適用した。
冠動脈ファントム(フヨー株式会社製MOCOMOファントム)を用いたCSSの基礎実験を行った。
冠動脈ファントムおよび撮影条件は図7の通りとなっており、模擬血管には内部構造のない均一なもの(以下、血管A)および、内部に狭窄および石灰化構造を模擬したもの(以下、血管B)の2種類を用意した。冠動脈ファントムのHRを0 bpm、60 bpm、70 bpm、80 bpmに調整しながら撮影を行い、それぞれについてハーフ再構成 CSS ON/OFFの画像を再構成した。その上でCEV-CPR機能を用いて、ストレートCPR画像、直交断面画像および円形度グラフを作成し、静止画像(HR:0 bpm)を真値とした画質および円形度の比較を行った。
60 bpm、70 bpmについては、血管Aの画像(図8)よりストレートCPR、直交断面ともに動きが改善され、円形度グラフからも円形度が保たれていた。また血管B(図9)では動きにより潰れている描出困難なsoft plaqueや石灰化が補正効果により明瞭に描出され、円形度グラフについても0 bpmと類似していた。
80 bpmについては断面により若干の動きが残り、soft plaqueの評価は難しい印象ではあるものの、石灰化は改善が認められた。
冠動脈CT検査で得られた臨床データからHR<60 bpm群、60 bpm≦HR<70 bpm群、HR≧70 bpm群について不整脈を除く各10例を選択し、セグメント再構成 CSS OFF、ハーフ再構成 CSS ON/OFFにおける各々の最適心位相を検索した。富士フイルム株式会社製 SYNAPSE*4VINCENT*5Ver.3.3を用いて冠動脈三枝(LAD、 LCX、RCA)のCPR画像を作成し、2名の循環器科医により血管の連続性について5点満点(図10)によるスコアリングの評価を行い、得られた結果に対しウィルコクソンの符号順位和検定を行った。
図11よりHR<60 bpm群ではLAD、LCXのみ有意差が認められ、60 bpm≦HR<70 bpm群についてはハーフ再構成に限り3枝ともに有意差が認められた。さらにHR≧70 bpm群についてはセグメント再構成との比較においてもCSSで有意な差が得られた。
図12に60 bpm≦HR<70 bpm群の一例を示すが、ハーフ再構成、セグメント再構成では冠動脈三枝を同時に静止させる位相が得られていないのに対し、CSSでは補正効果により冠動脈(矢印)や心筋(矢頭)の動きが改善されていた。
図13はHR≧70 bpm群となっているが、こちらもハーフ再構成、セグメント再構成では冠動脈三枝(矢頭)の静止位相が得られず、CPR画像でRCAが不連続であるのに対し、CSSでは動きや血管形状が補正され、臨床的な優位性が向上していた。
CSSを使用することにより、低心拍だけでなく60 bpm≦HR<70 bpm、HR≧70 bpmの症例についても動きに対する補正効果が有用であることが確認できた。特にHR≧70 bpmでは、循環器医による臨床データの視覚評価のスコアがセグメント再構成よりもCSSで高いことから、64列CTで課題となっていた心拍上昇による成功率の低下をCSSにより改善できる可能性が示唆された。