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日本

AI活用や最新の医療機器を相棒にする開業医セミナー
Webオンデマンドセミナーレポート

在宅医療におけるポータブルエコーと携帯型X線撮影装置のご活用事例

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

2022年7月29日~8月8日に配信された「AI活用や最新の医療機器を相棒にする開業医セミナー」より、城西在宅クリニック・練馬の川原林伸昭氏による講演の要旨を紹介する。

城西在宅クリニック・練馬
院長
川原林 伸昭

在宅診療における画像診断の意義

私は、1993年に防衛医大を卒業して、約25年間、防衛省で勤務した後、行田総合病院で外科部長を務め、2021年7月1日に城西在宅クリニック・練馬を開業しました。

まず、在宅診療における画像診断の意義についてですが、日本は2010年をピークに人口が減少し、団塊の世代が後期高齢者になる2025年には、高齢化率が30%を超える超高齢化社会に突入します。また、高齢化の進展に伴って医療費も上昇し、2040年には80兆円近くになると予想されています。

現在、こうした医療費の上昇を抑制するために急性期および慢性期の病床削減が計画されています。その受け皿として、回復期病棟の増床に加えて、在宅で約33万人の診療を行う試算になっていますが、在宅医療に対する不安などが要因となって、なかなか在宅医療への移行が進んでいない現状があります。

そこで、在宅診療において画像診断を活用して検査・治療の質を向上させ、在宅医療でも安心して医療が受けられるという安心感を醸成していくことで、超高齢化社会に向けた医療体制の構築に貢献できるのではないかと考えています。

在宅診療における画像診断の実際

1.検査について

当院では、富士フイルムの携帯型X線撮影装置「CALNEO Xair」、ワイヤレス超音波画像診断装置「iViz air」のコンベックスとリニアを導入しています。

まず、在宅における胸部X線撮影についてお話ししていきたいと思います。

症例1は、69歳女性、慢性心不全の急性増悪で入院されていましたが、治療を拒否されて退院し、訪問診療の介入となりました。訪問時には、SATが78%まで落ちていて、意識レベルが低下し、頻呼吸、血圧の低下も見られました。X線撮影を行うと、心拡大が顕著で、肺のうっ血所見が見られました(図1)。そこで、BiPAPを直ちに導入して酸素化を行い、利尿剤等を投与しました。

図1

症例2は、92歳女性、誤嚥性肺炎の症例です。X線画像を見ると、右の上葉、中葉に浸潤影があり、air bronchogramも見られます(図2)。そこで、禁食、抗生剤、酸素投与を行い、CVも挿入して栄養管理を行うなど、一般病棟と同レベルの治療を行いました。

2020年の死因別割合では、肺炎と誤嚥性肺炎を足すと4位となり、主に高齢者の診療を行う在宅医療では肺炎の診断・治療が重要な位置を占めています。また、肺炎の重症度分類(A-DROP)において2点以上であっても、認知症やADLの低下によって入院治療が適切ではない場合も少なからずあります。したがって、これからの在宅医療では、肺炎について一般病棟で行われてきた治療を担っていく必要があるのではないかと考えています。

図2

症例3は、68歳男性で、救急搬送依頼をしたものの行き先がなく、救急車の中で約16時間、酸素投与を受けていました。私が駆けつけてX線撮影を行うと肺炎が認められました(図3)。当院では第5波の際に42名の新型コロナ患者の診療を行いましたが、入院できる方は本当に限られていたため、自宅でのトリアージが必要でした。そうした場合に客観的な評価ができるX線撮影が非常に有用だと実感しました。

図3

症例4は、86歳女性で、施設入所中に転倒して動けなくなったということで緊急往診しました。X線撮影を行うと、右の大腿骨の転子部骨折があり、そのまま緊急搬送としました(図4)。施設から救急搬送を行う際は付き添いが必要になり、時間もかかります。その場でX線撮影を行って骨折の有無を確認できることについては、施設の方々から非常に喜ばれています。

図4

続いて、エコーを含めた検査についてお話ししたいと思います。

症例5は、91歳男性で、体動困難、右手痛ということで、緊急往診しました。以前に大腸がんと言われたということで、直腸診を行うと、AV6cmの後壁に隆起性病変を認めました。そこでエコーとX線撮影を行うと、肝臓に多発する腫瘍が認められたため多発肝転移、また、肺にも腫瘍性病変を認められたため肺転移ということで、直腸がん、ステージ4と診断しました(図5)。この方はBSCを希望されたので自宅で治療を行いましたが、こうしてスムーズにご希望に添えるのは、在宅で診断できるメリットの一つだと思っています。

図5

症例6は、89歳男性で、総胆管結石の治療後、在宅診療になった方ですが、発熱と右季肋部痛で緊急往診しました。エコーで見ると胆嚢の緊満があって胆石があり、壁肥厚があってdebrisがある、いわゆる急性胆嚢炎の憎悪を呈し、Sonographic Murphy's signも陽性だったため、急性胆嚢炎と診断して、救急搬送を行いました(図6)。

図6

症例7は、82歳男性で、胃がんの再発、BSCの方です。腹部膨満、食思不振、腹痛、嘔吐があって、往診しました。X線撮影とエコーを行うと、腹水が大量にあり、拡張した小腸が見られます。ただし、狭窄部がいくつかあるので、腹膜播種による多発イレウスと診断して、サンドスタチンを開始しました(図7)。また、腸管では直腸の診察もエコーで十分に行うことができます。

図7

症例8は、尿路感染を繰り返していた93歳男性で、39度の発熱があり、緊急往診しました。X線画像では左に大量の胸水を認めて、腹部では小腸ガスが多量にあります。エコーを行うと胸水があり、水腎症があったため、X線画像をよく見ると膀胱内にも膀胱結石がありました。そこで尿路結石による閉塞と、それに伴う感染症、尿路感染と考えました(図8)。また、尿路系について、iViz airにはAIを活用して開発された残尿測定機能があり、同機能を夜間頻尿の患者さんに用いると、どのようなタイプの頻尿なのかが分かります。

図8

2.治療について

iViz airは、画質が良いことに加え、ワイヤレスなので使い回しも良好です。私は腹水穿刺を行う際、リニアで下腹壁動静脈の位置を確認してから穿刺するようにしています。胸水穿刺も同様にリニアで肋間動脈を確認してから穿刺しています。やはり在宅では、出血時の対応が非常に難しいので、一手間をかけることが大事だと思います。

また、エコーはCVを挿入する際のガイドとしても有用で、私はその際もリアルタイムで血管の有無を確認するために、リニアとコンベックスの両方がある方が良いと思います。医療事故調査支援センターが発行している「医療事故再発防止に向けた提言 第1号」の「中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析」においても、エコーでプレスキャンを行うことや穿刺時にガイドワイヤーをエコーやX線透視で確認することが推奨されています。そして、同6号の提言では、胃管挿入時にX線などで位置確認を行うことが推奨されており、やはり事故防止のためにはエコーやX線を活用することが重要になります。

在宅診療における画像診断の経済

X線撮影を在宅で行うのは大変ですが、診療報酬はやや低めになっています。その一方で、エコーについては、令和2年に報酬制度が改定されて、訪問診療時に定期の検査としてエコーを行った場合、一律で400点とされました。ただし、往診の場合は従来の点数で算定されるかたちになります。
そこで、例えば100万円の装置を購入したとすると、大体25か月で回収できることになります。なお、X線については保守費用も発生するので、回収は期待しない方が良いと思います。

今回、在宅診療における画像診断について、意義・実際・経済の観点からお話をさせていただきました。冒頭に申し上げたとおり、エコーやX線撮影を活用することで、在宅における画像診断能力が向上し、在宅医療の質が向上します。その結果、皆さまのクリニックがこれからの超高齢化社会に貢献することとなりますので、ぜひ導入をご検討いただければと思います。ご清聴ありがとうございました。