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日本

整形外科におけるワイヤレス超音波画像診断装置「iViz air」の活用
肘内障、肩の関節鏡手術などの5つの超音波活用事例

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

前原外科・整形外科 小児科
齋藤 豊 先生

愛知県豊明市にある「前原外科・整形外科 小児科」にて、整形外科医として従事しています。専門は肩や膝などの関節外科ですが、整形外科全般の診療、診察、手術、またその際の麻酔を担当しています。現在、エコーを日常的に活用していて、主に皮下組織や筋、腱などの軟部疾患の患者さんを診たり、肩関節注射をはじめ神経ブロックを行ったりする際にエコーは役立っています。据置型とポータブルの両タイプのエコーを適宜使い分けている中、ワイヤレス超音波画像診断装置「iViz air」を整形外科診療に活用することの有用性を特に感じています。その理由を、5つの症例をもとに紹介していきたいと思います。

カクテル注射(関節周囲多剤カクテル注射)時のエコーの活用

当院では、外来とリハビリを合わせて1日約300人の患者さんが来院します。私は日々70~80人の患者さんを診察していて、その内の3分の1の患者さんにiViz airを使用しています。中でも、注射の際にiViz airは重宝しています。

例えば、人工膝関節置換術の際にはブッロク注射の一つ「カクテル注射」をしています。カクテル注射とは、手術後の鎮痛のために使用するもので、鎮痛剤数種をカクテルのように混ぜて、術中に創部から直接関節周囲に注射をする方法です。

カクテル注射では膝窩部(膝関節後方)への薬液の注入がとりわけ重要になります。膝窩部には、静脈、動脈が走っています。通常であれば盲目的に注射を行いますが、誤って動静脈に針を刺してしまい、手術後に出血させてしまったり、針を深く刺し過ぎて静脈内に鎮痛剤が大量に入ってしまったりすることも起こり得ます。

そこで、iViz airで「見える化」をすれば、手術中に整形外科医が動静脈の位置を確認し、血管穿刺のリスクを抑えることができます。また、症例によっては坐骨神経を創内からブロックすることも可能です。

赤・青〇:大腿動静脈、黄〇:脛骨神経、青点線:薬液

半月板縫合におけるエコーの役割

また、半月板の縫合術の際にもiViz airを活用しています。縫合術にて、皮膚切開をしない「all-inside法」を行う時、関節後方に穿刺する際に動静脈や神経を刺さないようiViz airを使用し、「見える化」をするのです。

半月板というのは、関節包のすぐ下に位置していて、そのわずかな隙間に針を刺して縫っていきます。もし、その針が貫通し過ぎると、神経にあたったり、仮性動脈瘤を作ったりと神経が損傷しますし、手術後に合併症を起こす危険もあります。整形外科医は皆、針が血管や神経に当たらないように、針の長さを設定して、縫う角度に細心の注意を払って半月板を縫合します。

iViz airを活用することで、手術をしながら確実に動静脈を避けて、半月板を縫うことができます。仮に、手術中に不安を感じたり、明らかに血管に針が当たってしまったりした場合、どこに針が入り、どこを損傷してしまったかを確認することも可能です。

黄線:後方関節包、青線:大腿動静脈

異物摘出でもエコーを活用

もう一つ、直近でこのような症例がありました。就業中に機械の部品が損傷し、その鉄粉が腕に刺さってしまった愛知県在住の50代会社員男性の方が来院しました。初診でX線撮影し、腕の中に鉄粉が滞留しているのを確認。その鉄粉は、静脈のすぐ近くを貫通していたため、後日手術となりました。

手術当時は、男性に全身麻酔をかけ、iViz airで神経と静脈の損傷がないかを確認しました。幸い、どちらにも異常はありませんでした。鉄粉や金属片が極度に小さくなければiViz airの画面に写りますし、深さもわかります。今回も鉄粉の位置をiViz airで確認できました。鉄粉の位置から最短の距離で、かつ、神経と筋肉を傷つけないルートを定めて皮膚を切開するラインを決めました。

無事に摘出した後、出血をしていないかもiViz airで確かめました。異物摘出にはエコーは向いていると考えます。さらに、iViz airのようなワイヤレスエコーであれば、配線や電源コードを清潔エリアに持ち込んだ後、それらを固定する必要がありません。清潔面、安全面、そして時間面においてメリットがあると感じています。

「肘内障」で保護者の満足度向上

次に、一般外来での症例を紹介します。乳幼児におこりやすい「肘内障」のケースです。整復の際、ワイヤレスのiViz airを使用しているのですが、活用においては、主に2つの利点を感じています。まずは、お子さんの恐怖心をやわらげることです。お子さんは痛い方の肘を抱えた状態で入って来ます。従来、医師が痛い腕を触診して、レントゲン検査で骨折していないことを確認した後に、輪状靭帯の脱臼を治していました。

それが、iViz airを活用することで、脱臼か所を可視化できるため、画像で輪状靱帯に起始する回外筋の腕橈関節内への引き込み像(J-sign)を確認し、痛い腕を上げることなく回外法を用いて恐怖心を与えることなく整復ができます。実際には「エコーの検査は痛くないからね」と伝え、超音波画像を確認している間に手をクリっと回し、「ほら、痛くないでしょ?」と声掛けをします。整復の瞬間は若干の痛みを伴う症例もあるようですが、精神的な負担は軽減されていると感じています。

もう1つの利点は、保護者の満足度が高いことです。エコーの画像を提示しながら、整復する瞬間を見てもらうことができます。以前はレントゲンを撮りに行き、「骨に異常がないから肘内障です」と診断し、治していましたが、診察室内で診断をつけて治療をしています。移動時間もない上に、診察室内で診断・治療ができるので、親御さんの満足度と安心感が高まっていると感じますし、医師としても業務効率化につながっていると実感しています。

肩の関節鏡の手術時のエコーの活用

最後に、私が考えるポータブルエコーの可能性として、「肩節鏡手術時の活用」があります。関節鏡の手術では、カメラを入れるポータルの「位置決め」が難しい症例があります。特に肩関節は神経や血管が集中している部位です。体型による問題や骨折後の症例など術前に、神経や血管を損傷せず、操作性のよい適切な部位にポータルを作成することが手術を滞りなく行うためのカギとなります。

通常、術前計画の段階で、ポータル位置は決定されていますが、術中の判断で新たにポータルを作成しなければならない症例もあります。例えば、肩関節脱臼におけるHumeral avulsion of the glenohumeral ligaments(HAGL病変)では、肩関節の前下方からポータルを作成しなければならず、筋皮神経の損傷のリスクがあります。手術中に関節灌流液で腫れてしまった関節のポータル至適位置を探すのは熟練の肩関節外科医であれば可能かもしれませんが、より安全にかつ特別な経験なくこのポータルを作成するためには、iViz airは有用と感じます。

関節鏡手術中にエコー検査を行う場合、従来の据置型では関節鏡のモニターなどの機器もあるため場所の確保や清潔操作にストレスを感じることもありますが、iViz airであればそれらのストレスを感じることなく、スムーズに手術を進めることができます。

今回は整形外科分野での主な症例を5点紹介しました。今後、訪問診療の分野においても活用できると考えます。