このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
北海道対がん協会 会長
加藤 元嗣 先生
人間ドックセンターウェルネス
吉村 理江 先生
とくしま未来健康づくり機構
徳島県総合健診センター
青木 利佳 先生
加藤先生 本日は「胃内視鏡検診は新たな領域へ」というテーマで、検診の最前線でご活躍されている徳島の青木利佳先生と、福岡の吉村理江先生をお迎えしました。
私は1年前に北海道対がん協会の会長になりましたが、おふたりから比べると内視鏡検診に関しては初心者に入ると思っています。経験豊富なおふたりのお話を伺いたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
吉村先生・青木先生 よろしくお願いします。
加藤先生 最初に、自己紹介を兼ねて当施設を紹介させていただきます。国立函館病院にいた一昨年には、函館市の内視鏡検診システムの立ち上げに加わり、効率のよい内視鏡検診を実施してきました。現在私の所属する北海道対がん協会は道内市町村の約9割のがん検診と特定健診を請け負っています。札幌市は4年前から内視鏡検診を始めていますので私は毎日内視鏡検診に携わっている状況です。
私が赴任した当初は通常径内視鏡と経鼻内視鏡が半分ずつでした。検診施設のため、富士フイルム社製経鼻内視鏡(EG-840N)を新規で導入し、現在では全例に経鼻内視鏡を使用しています。
では吉村先生、自己紹介とご施設がどのように内視鏡検診に携わっているかお話をしていただけますか。
吉村先生 当センターは1990年に開業した職域中心の任意型検診健診施設で、対策型胃がん個別内視鏡検診も件数は少ないですが対応しています。1995年に通常径内視鏡検査を開始して、2005年に富士フイルム社製の経鼻内視鏡を導入しました。2008年からは経鼻内視鏡のみで行っており、現在の年間検査数は約9,500件です。私自身はウェルネスで内視鏡検診に携わって、今年でちょうど20年目になります。
加藤先生 職域が多いということですが、バリウムと内視鏡の割合はどれくらいですか。
吉村先生 2017年にバリウムと内視鏡の件数が逆転して、今は内視鏡が約60%、バリウムが約40%の割合です。
加藤先生 全例経鼻内視鏡ですか。
吉村先生 スコープは経鼻内視鏡のみで、挿入ルートは鼻か口か、受診者のご希望に対応しています。受診者の約90%は鼻挿入を希望されます。
加藤先生 ありがとうございました。それでは青木先生、自己紹介とご施設の状況を教えてください。
青木先生 当施設は、加藤先生のご施設同様、対がん協会の支部になります。徳島県は人口が70万人くらいの小さな県で、施設の規模も先生方のご施設と比べて小さいです。対策型内視鏡検診は、1次と2次の両方を引き受けています。内視鏡検診は2ベッドで実施しており、ドクター1人につき1日最大11~12件。年間の検査数は約4,000件です。
私が赴任して11年目になりますが、当初内視鏡検査数は年間約2,000件でしたが、内視鏡検査に対するニーズの高まりと、少しずつ効率を良くしていくことで内視鏡検査数を増やすことができました。人間ドックもX線から内視鏡に変わってきている状況もあり、内視鏡検査を増やすことができると人間ドックの数が増えるということで、内視鏡検査数を倍増させることに施設の協力が得られました。
内視鏡時にピロリの感染診断を行い、積極的に除菌をして今は現感染の方は5%以下で、多くが未感染か既感染の方になっています。
加藤先生 今はほとんどが除菌後の方なのですね。その中でもピロリ未感染の方が半分以上でしょうか。
吉村先生 2021年度はピロリ未感染が70%弱で、既感染が30%弱、現感染はわずか3%まで減ってきました。ただ30代の現感染は5.5%と少し高めですので、特に若い世代の初回受診者は注意が必要だと思っています。
青木先生 10年前は胃がんの発見数も多かったのですが、リピーターが増えて、胃がんの発見数は半減している印象です。現在は、除菌後胃がんか未感染胃がんが多いです。
加藤先生 吉村先生の施設も発見がんのほとんどが、除菌後胃がんですか。
吉村先生 当センターでは検査総数が増えてきている分、発見胃がん件数はあまり減っていませんが、発見胃がんのピロリ感染状態割合は大きく変わってきました。除菌の保険収載前は現感染胃がんが半数以上でしたが、今では除菌後胃がんが全体の約60%、残りは当センターが未感染者の割合が多いこともあって未感染胃がんが約30%を占めています。
加藤先生 内視鏡によるピロリ感染診断の実際ですが、皆さん胃炎の京都分類を使っていると思います。現在第3版を準備中ですが、未感染所見にはRAC、胃底腺ポリープに新しくスクラッチサインが加わります。除菌後所見は地図状発赤が特徴的ですが、フジツボサインが追加されました。また、自己免疫性胃炎の所見として、逆萎縮、残存胃底腺粘膜、固着粘液、白点が、PPI/P-CAB胃症にクモの巣粘液が加わり充実しました。
RACと、びまん性発赤は表裏の関係ですので、胃角部周辺粘膜をしっかりと観察することが大切です。スクラッチサインは、スコープと粘膜が接する時にこすった時のような状態になるのがオリジナルです。
黄色腫はピロリ菌除菌後の所見として除菌後も長期に残るため診断に有用です。フジツボサインは生検すると腸上皮化生です。私は地図状発赤が消えてくるとフジツボサインに変わると思っています。また軽度萎縮の症例は既感染と未感染の鑑別が難しい時があります。未感染では幽門腺粘膜は白色調ですが、胃底腺粘膜への移行はグラデーションになるため線は引けません。軽度萎縮の除菌後は前庭部に萎縮が残っているため本来の腺境界から境界をもって萎縮粘膜がはみ出します。また、胃角部に斑状の萎縮粘膜を認める場合もあります。
除菌後では地図状発赤の出現が約3割で、残り7割はピロリ感染所見と未感染所見が併存する場合になります。除菌後に残存する萎縮や黄色腫を認め、それにRAC、胃底腺ポリープ、スクラッチサインがある場合は除菌後と診断できます。
ピロリ菌感染診断は実際どのように行い、難しい症例はどのようなものなのか、吉村先生からお願いします。
吉村先生 除菌歴がなくて、自然除菌後なのか未感染なのか、前庭部の粘膜が萎縮なのか幽門腺なのか悩む症例があります。
加藤先生 青木先生はいかがですか。
青木先生 未感染相当だというほどきれいになっていて、あまり萎縮がなかっただろうなという人は、本当にわからない時があります。例えば現感染でも、インジゴを撒くと胃小区模様は見えますがびまん性発赤はないというような場合、迷う症例はあります。
加藤先生 前庭部優位胃炎で、萎縮範囲がC1かC2の方が除菌するとそのようになりますね。
青木先生 それも除菌歴があるとわかりますけどね。
吉村先生 除菌歴が無いとわからないですよね。
青木先生 無いとわかりません。自然除菌だと思う時は胃角を越えて少し白く見える萎縮がある症例で、LCIにするとわかりますが、WLIにするとわからないといった症例も経験しました。
加藤先生 私も経験しましたが、萎縮範囲はLCIでよくわかります。
青木先生 私もLCIにすると萎縮の範囲がわかると思います。
加藤先生 確かに未感染でも白色調の粘膜が前庭部に見えることもあります。私の施設では、腺境界の部位に白色調の粘膜が見えなければ萎縮ととらないルールにしています。
青木先生 ルールを作っておかないと、そこはあいまいになってしまうことがありますね。
加藤先生 最近だと好酸球性胃炎やPPI胃炎は未感染ですが、発赤があり、現感染を疑う症例を経験することがあります。
吉村先生 私もPPI関連胃症は胃体部がLCIで濃い紫に見えたり、ひだが腫大・蛇行したりするので、現感染との鑑別が難しいと思っていましたが、最近は前庭部が比較的きれいということで鑑別できるのではないかと思っています。
加藤先生 前庭部粘膜の正常についての定義は明らかになっていません。前庭部粘膜には中心細静脈は見えませんが、移行帯には中心細静脈が見える所もありますし、幽門腺領域は人によって幅があります。感染者はLCIでわかります。
NHPH感染胃炎や自己免疫性胃炎の診断には、前庭部粘膜が正常と診断することが大事な時代になってきています。
ピロリ感染状態を診断するには、LCIは有用ですか。
吉村先生 もちろん有用です。
加藤先生 BLIはいかがですか。
吉村先生 今のスコープはBLIも明るいですし。胃角を超えた萎縮があるかどうかはLCIと同じくらいわかりやすいと思います。ただ、現感染と既感染の鑑別には向かないです。
加藤先生 除菌後や現感染の時の前庭部は色調がまだらで統一の色ではないですね。LCIでは、紫、赤、白、黄色に見えて、未感染は否定できます。
またLCIはピロリ感染診断だけではなく、LCI-FIND*1でがん検出に有用だと証明されました。LCIを併用した経鼻内視鏡は患者さんが楽な分、よく時間をかけて検査ができるという利点があると思います。
加藤先生 経鼻内視鏡は患者さんがげーげーしない、苦しがらない検査ができるのがいいですね。
吉村先生 検査する側もストレスなくできます。
加藤先生 「検査を早く終わらせなければ」という気持ちがないですね。
吉村先生 検査中に話ができるので、例えば途中で鼻の痛みがあるかを確認して、内視鏡が入っている角度などちょっとした調整をすることもできますし、そこは大きなメリットだと思います。
加藤先生 患者さんに検査中の画像を見せて説明しながら検査をしていますか。
吉村先生 はい。受診者用モニターを見ていただきながら、検査中は実況中継するようにしています。
青木先生 私もそうです。内視鏡画像を見てもらいながら「ここはどの部位です」と説明しながら検査をすると検査後時間短縮になります。
吉村先生 そうですね。
加藤先生 検査中に所見の説明が済んでいるので、検査後の説明は、「では1年後ですね」でいいですね。
吉村先生 経鼻は食道胃接合部を深吸気観察できるのも大きなアドバンテージですね。鎮静してしまうと深吸気観察はできないので、これは経鼻の最大のメリットだと思います。
青木先生 患者さんの協力が得られるということですね。
加藤先生 IEEの進歩についてはいかがですか。
青木先生 IEEは進歩していて、WLIは要らないくらいに思っています。病変が見つかった時には一応WLI、BLIに切り替えて見て、最後はインジゴを撒いてそれぞれで撮影します。WLIだとこんな感じで見えるのかという確認のために使いますが、診断の過程においては食道も含めてLCIで見た方がWLIよりいいと思っています。もちろん食道ではBLIも使います。行きか帰りでLCI、そして帰りはBLIで食道を観察し、胃の中はLCIだけという使い方で検査を行っています。
IEEとWLI の両者を使うほうがいいのではと言われることがありますが、私はとにかく早く終わらせてあげたいと考えるのでどちらか一方で見るならばIEEだけで見るようにしています。
加藤先生 LCI-FIND1)もWLIかLCIを先攻モードと後攻モードで切り替えています。両群でのトータルのがんの発見数は変わりませんが、先攻モードと後攻モードでLCI のがん発見率が有意に高い結果でした。
青木先生 加藤先生はLCIとWLIと、両方で2回見ているのですか。
加藤先生 私はもうLCIでしか見ていません。
青木先生 私も同じです。
加藤先生 病変が見つかったらWLIに切り替えることもありますが、吉村先生はいかがですか。
吉村先生 私はLCIで拾い上げられなかった胃がんも経験しているので、基本的に胃内はLCIとWLIの両方で見ています。ピロリ感染状態によってどちらをメインに観察するか、など使い方を変えていますが、除菌後はLCIメインがよいと思います。
加藤先生 食道は必ずBLIで観察していますか。
吉村先生 食道はBLIとLCIで観察していて、WLIは使っていません。
加藤先生 胃内視鏡観察の実際についてお聞かせください。
青木先生 当施設における胃の内視鏡観察の実際についてお話しします。今後部位認識AIについても注目しています。誰かが撮影した画像を全部網羅的に撮れているかどうかを他者がチェックすることはすごく大変なことだと思います。
加藤先生 大変ですよね。
青木先生 網羅的に胃の中が撮れているか判定する際メルクマールを入れて撮ること、基本的に必要なカットについては、知っておくことが大切だと思っています。工夫をしないと観察が難しいと言われている場所、例えば噴門部小弯や胃角後壁などを知って、どうすれば撮影できるかを考えながら撮影するべきだと思います。
加藤先生 観察の仕方は人によって違いがあると思いますが、撮り方はどうしていますか。
青木先生 食道胃接合部は吸気してもらい、胃内は空気量が少ない状態でスコープが入っていますので、後壁を見ながら前庭部まで行って、前庭部を観察してから十二指腸を見て、胃内は空気を入れながら噴門に向かって小弯側をスコープが上がって行きます。穹隆部で水を吸引して、最後は体弯側を観察します。
加藤先生 穹隆部を見た後はどうしていますか。
青木先生 穹隆部を見た後は、噴門を全周性に観察して、再度小弯側を前庭部まで見ます。
加藤先生 そこで小弯側を見ていますね。2回小弯側を見たことになりますか。
青木先生 そうです。小弯側は初め上に上がっていく時は空気量が少ない状態で見て、穹窿部を見た後は胃内の空気量が増えている状態で見るようにしています。噴門を見る時は小弯側や前壁がよく見えるように空気を多めに入れて小弯側を見ます。そして胃角から前庭部辺りまでスコープを下ろしてきて、今
度は見下ろしで見るようにしています。
加藤先生 吉村先生はいかがですか。
吉村先生 私は、胃に入ったら送気せずに十二指腸まで行きます。十二指腸から胃に戻り、前庭部から前壁、小弯、後壁、大弯と、らせん状に体上部まで洗浄送気しながら上がっていきます。体上部で水の溜まりを吸引した後、穹窿部、噴門周囲をグルッと回して見てから、Jターンで小弯側を振り子のように前後壁を網羅しながら胃角まで下ります。この時点では十分に送気されているので、胃角小弯から角裏の前後壁まで見ます。最後に広がった体部大弯ひだの間と、空気量が少ない状態の見下ろしでは盲点になりやすい体中部~上部前壁を見て終わります。観察法にはいろいろ流派があると思うのですが、私は研修医時代に教わった医局のやり方をそのまま変えていません。
加藤先生 私は青木先生と同じような見方です。十二指腸までは大弯側も見るようにして十二指腸からの帰りは小弯を見てまた戻す方法です。
吉村先生 そのような先生が多いですね。
加藤先生 必ず同じ場所を2回見るというルールです。皆さん十二指腸は先に見ますか。
吉村先生 十二指腸は先に見ます。十二指腸まで入れていく途中で胃粘膜を見ながらピロリ感染状態が推定できるので、そのあとの胃内観察に有利だと思います。
青木先生 私も十二指腸が先です。加藤先生はいかがですか。
加藤先生 先に見ます。最後に十二指腸を見るという先生もいらっしゃいますね。見方は人それぞれですが、大事なのは観察しづらい場所をしっかりと観察すること。見逃しなく全部見ているのであれば慣れた方法でいいと思っています。
青木先生 私もそれでいいと思いますね。
吉村先生 当センターは大学医局の非常勤医が毎年数人変わって、観察方法も少しずつ違うのですが、観察順序を統一したり、枚数を決めたりはしていません。連続的に撮ってくれさえすれば、自分と違う撮り方をしていてもダブルチェックで困ることはありません。
青木先生 こう撮っていったとわかればいいですね。
加藤先生 二次読影のために観察の順番を決めるというのは本末転倒ですね。
青木先生 順番を決めなくても、連続的に撮っていれば何ら問題ないですし、コマ送りみたいに早く見ることができます。逆にあっちこっちと撮られると、見るのに時間がかかります。
加藤先生 撮影するのが目的ではないという点で私自身も反省することがありました。スコープ挿入時にがんを見つけたとき、先にそこに時間をかけて観察することで他の部位の観察が撮影中心になってしまい、多発癌を見逃してしまった経験があります。
青木先生 病変が複数ある可能性もありますね。
吉村先生 私は十二指腸に向かう途中で病変に気付いても、その場ですぐ撮影はしません。あくまでも自分のルーティンの順番を守るようにしていて、ルーティン途中で病変部位に来た時に、しっかり観察して撮影するようにしています。そうでないと、どこまで見ていたかわからなくなってしまいますので、自分の観察順番は崩さないようにしています。
加藤先生 食道観察で工夫されていることを教えてください。
吉村先生 まず私が食道観察を工夫しようと思ったきっかけは、食道がん症例の過去画像を検討した際、どこが撮れていてどこが撮れていなかったのか、病変を見逃していたのかを検討することがとても難しくて、こんな撮り方ではダメだと思ったことです。
お恥ずかしい話ですが、今までは食道が膨んだら撮るというスタンスで、自分の撮り方に一定のルールがなかったので、食道唯一のメルクマール、生理的狭窄部第1(①)、第2(②)、第3(③)を上手く使って根本的に撮影方法を変えようと考えました。
実際には、まず食道挿入直後は反射が辛いので②まで進めて、左主気管支・大動脈弓の左側からの圧排、椎体の後壁からの圧排を頼りに周在性を整えてから1枚目をLCIで撮影します。ここを起点として、挿入時は2つのモードで観察撮影していくのですが、まずはLCIで②から③を送気で広げた状態で2-3枚に分けて撮ります。食道胃接合部まできたら必ず深吸気をしていただいて、バレット粘膜や逆流性食道炎の有無をチェックしながら撮ります。その後、BLIに切り替えて空気をやや抜いてbrownish areaをチェックしながら②に戻ります。そして、②から③に向かって今度はBLIで先ほどと同じ順序、同じ間隔で撮っていきます。
加藤先生 戻る時に撮るのではなくて、一回戻ってもう一度撮っていくのですね。
吉村先生 1回目のLCI観察の記憶が残っているうちに、BLIも同じ順序、同じタイミングで撮る方がオリエンテーションをつけやすいと思います。
加藤先生 確かにほとんど同じ場所に見えますね。
吉村先生 抜去時は、BLIで観察します。③から②は挿入時に2往復して撮影しているので、原則観察のみで、空気を入れず寄ってくる粘膜を見ながら②に戻ります。そして、②から①の入口部まで蠕動に合わせながら1-2枚撮影して終了です。
このように撮り方のルーティンを決めておくと、後で振り返ったとき、画像順序から部位を把握することができます。
挿入時に2往復すると言っても、③から②に戻るのはせいぜい10-15cmですので、これまでそれで反射がきつくなるような印象はありません。
加藤先生 そうですね。頸部食道まで戻るとちょっと辛くなるかもしれませんね。行きで見逃していて、2回目で病変を見つけるケースはありますか。
吉村先生 第2狭窄部の裏側の病変に後から気付くことがあります。ここは送気しすぎると見えにくい部位になるので、空気を入れずに観察する抜去時に注意するのがよいと思っています。
加藤先生 咽喉頭はいかがですか。
吉村先生 咽喉頭は挿入時にLCIとBLIで観察しています。ただ反射が強そうな方は諦めていますし、問診で咽喉頭がんのハイリスク群は抽出しているので、ローリスクの方にはそこまで必要ないと考えています。
ハイリスクで経鼻挿入ならば、バルサルバや発声法をしてもらうこともありますが、全例ではやっていません。
青木先生 私は反射が強い人は諦めます。でも逐年で検診を受けていただいていると相手方も慣れてきて、そんなに反射が起きないと思っていただけると協力してもらえるようになることもあります。
加藤先生 経鼻は舌への圧迫がないので、口腔粘膜に接しなければ、スコープを振り回しても何ともありませんが経口で左右に振ろうとすると、どうしても刺激が出ますね。
青木先生 最近は経鼻内視鏡で検査中に鼻で呼吸をする呼吸法を実施している先生がいらっしゃいます。私もその方法を取り入れています。
吉村先生 上咽頭が狭くて通らない時も、鼻で吸ってもらうと開きますので入りやすくなります。
加藤先生 おっしゃるとおり鼻呼吸してもらうと開きますので観察しやすくもなりますね。
加藤先生 次に将来展望ですが、どのようにするともっといいスコープや観察などができると思いますか。
吉村先生 今のスコープも高性能で満足しているのですが、今後は拡大観察まではできなくても、生検すべきかを判断してくれるAIがあったらよいと思います。
青木先生 私はもっと内視鏡は進化していくべきだと思っています。メーカーが切磋琢磨してここまできたと思います。経鼻内視鏡は高画質になり、よく見えるようになりましたが、もっと進化できると思っています。それからIEEもよくなってきました。また、今後AIももっと進化していくべきだと思いますし期待しています。
加藤先生 AIにはどのような期待をされていますか。
青木先生 やはりがんの診断でしょうね。AIはもっと進化すると思います。方向性さえ間違わずに進化していけば、今以上に有用なツールになると思っています。
加藤先生 今は上部内視鏡検査では拾い上げのサポートとしてAIが活躍していますが、大腸のように質的診断にも期待したいですね。その先には量的診断、深達度も診断してくれるようなAIも欲しいですね。
青木先生 将来内視鏡検査は名人じゃなくても誰が検査をしても、受診者の皆さんが利益を受けられるようになって欲しいと思います。目指すところは内視鏡検診の均てん化だと思います。
加藤先生 最後に、胃がん検診マニュアルについてお聞きします。現在の胃がん検診は、胃がんだけを見つければいいとのコンセプトで、行政への報告には胃がん、胃がん疑い、胃以外の悪性病変、異常なしの4つしかありません。それについてはどう思っていますか。良性疾患は拾い上げなくていいですか。
青木先生 X線の時はそれでよかったのですが、内視鏡は色々と見つけることができるので、徳島県では例えば食道がんもカウントするようにしています。
加藤先生 集計にはなっていませんが実際に胃潰瘍や十二指腸潰瘍を見つけた時はどうしていますか。
吉村先生 福岡市は、所見用紙に潰瘍などの良性疾患もチェックするところを作っています。逆流性食道炎や好酸球性食道炎などの良性疾患でも、生活指導や治療への橋渡しは我々の重要な役目で、良性疾患といえども拾っていくべきだと私は思っています。
加藤先生 胃炎診断はしなくていいとマニュアルには書いてありますがいかがですか。
青木先生 徳島県の検診では、皆さん胃炎診断を実施していますし、やらなければいけないと思います。
加藤先生 IEEを使わなくていいと書いてありますね。
青木先生 IEEだけで観察しないように指導している地域もあるとお聞きしますが徳島県はダブルチェック時、提出いただいた画像中にIEEが入っていないと「なぜIEEを使わなかったのか」と思うようになっています。LCIだけの症例でも、網羅的に観察できていればOKとしています。
加藤先生 確か某地方では、LCI画像をダブルチェックに提出できないと聞いたことがあります。
吉村先生 福岡市はIEE使用に関して規定は設けていないので、LCIのみでも提出できます。ただ、二次読影医にはLCI画像に不慣れな先生もいらっしゃるので、IEEを効果的に広めていくためには、我々ももう少し努力が必要かもしれません。
加藤先生 本日はお忙しいおふたりの先生をお迎えし、「内視鏡検診は新たな領域へ」というテーマでお話しいたしました。内視鏡検診が新たな領域に入ったことは間違いありません。もっと先を見据えてメーカーも努力してほしいと思いますし、我々も勉強しなければならない、ということでこの会を締めたいと思います。どうもありがとうございました。
吉村先生 ありがとうございました。
青木先生 ありがとうございました。白熱しました。