このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
1939年に日本赤十字社広島支部病院として設立し、日本赤十字社広島原爆病院との統合を経て広島市を中心とするエリアの中核病院として高度急性期・急性期医療を提供する広島赤十字・原爆病院。
地域に暮らすあらゆる立場の住民の健康を支える同院は、胸部領域の診断ニーズが高まるなか、病院全体の読影水準の均てん化を支援する施策として医療クラウドサービス「胸部X線CADサービス*1」のクラウド運用を導入している。
院長 古川 善也 氏
呼吸器内科 部長 山崎 正弘 氏
古川氏 前身の日本赤十字社広島支部病院から80年以上にわたり地域医療に従事しています。当地では1945年に原子爆弾投下という痛ましい事案が起きました。多くの医療機関が被害を受けるなか、当院は総出で被爆者治療にあたりました。その経験は当院の医療姿勢の礎になっており、現在も被爆者医療の中心的施設として在り続けています。
施設を置く広島市においては、高度急性期・急性期医療を提供する基幹病院のひとつに位置付けられています。診療科数は34科、一般病床数は565床を数え、『人道・博愛』の赤十字精神にもとづき安全・確実な医療を提供しています。
山﨑氏 高度急性期・急性期医療を担う呼吸器内科として、多岐にわたる呼吸器疾患を診断・治療を行っています。肺がんが専門である私をはじめさまざまな専門分野をもつ医師で構成され、診療ニーズが高いCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や誤嚥性肺炎などにも対応し、地域の中核病院として幅広い患者さんの受け皿として機能しています。
古川氏 当院ではCT、MRI、RI検査などに関しては、放射線診断科の専門医と各診療科主治医とのダブルチェック体制としています。しかし、胸部X線検査に関しては、多くの病院同様、主治医が単独で読影し診断するのみであり、主治医が異常に気付かない場合、見落としに直結することを心配していました。また、医師の胸部X線検査読影能力においても、胸部X線検査を日常診療に数多く行っている診療科から、あまり多く行わない診療科までさまざまで、医師の経験や体調によって診断能にばらつきが出るのは否定しがたい事実です。このため、読影する医師をサポートし、見落としを防止する施策を求めていました。
山﨑氏 呼吸器内科医として日ごろ読影に携わる身としては、呼吸器内科医あるいは放射線科医と、専門医以外の診療科医とでは読影の要領は異なります。胸部単純X線画像をかなりの枚数撮影していますが、医師の経験や繁忙状況によっては読影を詳細に行うのが難しいケースもあります。病変の見落としを防ぎ、ひとつでも多くの症例を精密検査して早期治療につなげるために新規ツールの導入を検討したところ、AI技術を活用して開発された胸部単純X線画像の診断を支援する医療クラウドサービス「胸部X線CADサービス」が候補に挙がりました。
山﨑氏 課題だった病変の拾い上げに関しては、「ヒートマップ表示機能」、「スコア表示機能」は病変の存在が疑われる領域をグラデーションカラーで表示するため、読影の経験差を問わず見落としを防止できると思いました。呼吸器内科医として期待がもてたのは、ダブルチェックに近い役割です。いくら読影経験が豊富であっても、当直明けなどは疲労があり集中力を保つのが容易ではないケースもあります。初見では読影経験の少ない医師向けと感じましたが、詳しく知るにしたがって読影に携わるすべての医師にメリットのあるソフトウェアだと思うようになりました。
古川氏 臨床医の立場および医療安全管理者としての立場から、「病変の見逃しをゼロにすることは難しいが、できるだけ減らしたい」、「減らしてもらいたい」と考えていました。一方、病院経営に関わる立場からすると、導入・運用費用が気になるところでもあります。「胸部X線CADサービス」は、これらのいずれの条件もクリアできるAI技術であると判断し、導入を決定しました
既存の読影ワークフローにおける見落とし防止を強化
古川氏 一般診療と健康診断の胸部関連の画像診断時に使用しています。各診療科や健康診断施設で撮影した胸部単純X線画像のデータをクラウドサーバーに保存し、診断医と読影医が画像データを診断・読影した後に「胸部X線CADサービス」の解析結果を確認し、検出された箇所をあらためて確認することで見落とし防止を図っています。
また、月平均で約3,200件の解析をクラウドシステムで運用していますが、胸部単純X線画像を撮影してから診察室に到着するまでの間に解析結果が出るので滞りなく読影業務を行えています。クラウド型であっても解析速度が遅いとは感じません。日々多くの患者さんを診断するうえでは、いかに効率的な診断環境を構築できるかが重要です。クラウドサービスを運用することで読影ワークフローに一工程が増えましたが、これまでの円滑さを維持しながら見落とし防止を強化できています。
山﨑氏 ヒートマップのグラデーションやスコアの数値で表示される検出箇所の確信度については、医師の感覚に近いものがあると感じています。呼吸器内科医や放射線科医でなければ検出するのが難しい病変や異常領域の存在が疑われる領域を適切に拾い上げており、導入当初の目的であった見落とし防止にたしかな実績として貢献しています。
一例として、肺がんを他科がピックアップした症例を提示します。単純写真に比べ「ヒートマップ表示機能」で描出した画像(中央)が、解りやすいことはこの場合、一目瞭然と思います。
古川氏 私も山﨑先生と同じく、臨床医としての判断と齟齬のない解析結果を出していると思います。読影するうえで第一に優先するべきは、病変や異常領域を適切に汲み上げることです。疑わしい箇所を拾い上げる「胸部X線CADサービス」は、当院の方針に合致するツールといえます。
古川氏 胸部単純X線検査は、幅広い診療科で行われる検査だけに、病院の質の担保に重要と考えています。「胸部X線CADサービス」を導入することで、ダブルチェックに近い環境を整えられることから、当院全体の読影精度が向上し、当院の診療の質に好影響を与えているものと考えています。さらに、従来の体制に比べ、見落としに対する診断医のストレス軽減にも役立っているように思われますので、当初の導入目的は十分果たしていると考えています。
山﨑氏 「胸部X線CADサービス」を導入してから各診療科から呼吸器内科に報告が入り、CT撮影を経て病変が検出されるケースが複数あります。呼吸器内科においては科内の読影水準の高さから使用する機会は限定されると思っていましたが、呼吸器内科医でも見逃しかねない症例で貢献しています。一般診療受診者の胸部単純X線画像をクラウドサービスを使って解析したところ、肺尖部の先端にヒートマップが表示されたため画像を再診断したところ気胸が確認されました。気胸は肺尖部の胸膜肥厚があれば肺と胸壁が離れているのを容易に確認できるため見逃すことはありませんが、胸膜肥厚がなく肺と胸壁の境目が目視しにくい症例は集中力を要する診断・読影になるため、「胸部X線CADサービス」の支援機能はとても役立っています。
また、救急外来では限られた時間で適切な診断が求められます。気胸を例にすると、肺尖部の空気の漏れをしっかりと検出できれば救急の患者さんに対して適切に対応できます。その場の診断ひとつで病状の経過に天と地の差が生まれる救急外来において、AI技術が読影を支援するソフトウェアは心強く、操作方法がわかりやすいため問題なく活用できています。呼吸器内科の各医師も「胸部X線CADサービス」が気胸のわずかな兆候も検出すると実感しており、私自身も期待以上の成果を発揮していると感じています。
古川氏 健康診断においても「胸部X線CADサービス」の解析結果が加わることで受診者さんの安心感も増していると思います。診察時にはヒートマップを指し示しながら説明できるため受診者さんにとっては胸部単純X線画像単体での説明と比較して理解しやすく、異常領域の存在の確信度も伝えられるのでCT撮影などの精密検査に円滑に移行できます。
当院は広島エリアの中核病院として、一般診療の患者さん、健康診断の受診者さん、被爆者医療の受診者さんというさまざまな立場の方々の健康を支える使命があります。医療体制を強化することを目的にした診療環境の再構築施策のひとつが「胸部X線CADサービス」であり、病変の存在が疑われる領域を検出し、ヒートマップを表示する機能を通じて、私たちが心掛けている安心・確実な医療を支援する存在として定着しています。
診断医を支援するAIに込めた期待
古川氏 false negative, false positiveを限りなくゼロにしていくためにも、「胸部X線CADサービス」の機能が向上・バージョンアップすることを期待しています。さらに、腹部領域などに診断範囲が拡張していけば、より一層有益な支援ツールになると思います。
山﨑氏 現行バージョンに関しては、当院の診断・読影業務の支援に役立っているので十分満足しています。胸部に限らず病変や異常領域の見落とし防止を進めるうえでも、院長と同じく画像診断の範囲が広がっていくことを期待しています。
古川氏 今後、医療業界全体でAI技術を活用した支援ツールの重要性は増していくはずです。「胸部X線CADサービス」は当院のような高度急性期型の大規模病院はもちろん、少数精鋭の病院やクリニックにおいてもその特長を発揮するのではないでしょうか。日々患者さんと向き合う医療従事者の負担を軽減する支援ツールがさらに普及し、最適な医療を提供する環境が業界全体で整っていくことを願っています。
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