このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
院長
桑本 信綱 氏
2021年11月、横浜市港北区の新羽駅前に新規開業した「新羽くわもと消化器内科クリニック」。消化器内科を専門として東京・神奈川の総合病院で実績を積み、「患者さん一人ひとりの暮らしに寄り添った診療を実現したい」という思いで独立を決意したという桑本 信綱院長に、開業までのプロセスについてお話を伺った。
立地・物件選定
消化器内科を求める地域の事情から「私がやらなければ」と決断
当初は、横浜だけでなく神奈川県内で幅を持たせて候補地を探していました。コンサルタントから物件の紹介を受けていましたが、自宅から遠かったり設備が古かったりと、条件に合うものがなかなかない。そんな中で、たまたまよいタイミングで挙がってきたのが、この物件でした。
実はこの場所は、私が入る少し前まで別の先生が長く消化器内科のクリニックをやっていたところなんです。それが急に閉院になってしまったために、以前からかかっていた患者さんが困っているという話を聞きました。さらに、この近くにあるもう1軒の消化器内科クリニックも、先生が高齢のため近々閉めることになっていて、この地域で消化器内科にかかっている患者さんがとても不便な状況に置かれていると。それで、「私がやらなければ」と考えたのが、ここに決めた最大の理由でした。
もともとこの地域に特別な縁があったわけではないのですが、前の勤務地からそれほど遠くはなく、駅から1分と立地も申し分ない。また、「居抜き」なので大がかりな工事を行わずにそのまま使うことができて投資も大幅に抑えられますし、以前の患者さんにも戻ってきてもらえるかもしれない。そうしたクリニック経営上のメリットも大きかったですね。結果的に、とても恵まれた物件を選定できたと思います。
内装レイアウト
見た目の快適さや清潔感を重視して改装工事を実施
元は前の先生が約15年前に始められたままの造りで、古びている部分もありました。クリニックというのは具合の悪い人が来る場所で、見た目の快適さや清潔感はとても重要ですから、その点は改善したいと考えました。
とはいえ予算にも限りがあって全面改修も難しい。そこで、患者さんが入る受付と待合室、診察室の内装をがらりと変えることにしました。清潔感のある白をベースに、木目調の壁や濃い色のソファなどで落ち着いた雰囲気を出しています。以前とは全く印象が違っているはずです。
なお、間取りを変えられず、新型コロナなどの感染症対策として空間的にスペースを分けることができなかったため、今は発熱のある患者さんと他の患者さんで来院時間を分ける形で対策を行っています。
医療機器選定
当院では、内視鏡、X線画像診断システム、エコーに加え、電子カルテや画像診断ワークステーションなど、多くの装置・システムを富士フイルム製でそろえていますが、こうした選定を行った理由は、主に価格面と連携性への期待にありました。また、開業前の忙しい時期に、複数のメーカーや代理店と話をするのは大変ですので、できれば一社に交渉先をまとめたいという考えもありました。
実際の選定段階では、富士フイルムの営業所ですべての装置・システムのデモをしていただきました。その際、特に私が専門としている内視鏡については、これまで富士フイルムの内視鏡での臨床経験がないため、価格にかかわらず少しでも気に入らなければお断りしようと考えていました。しかし、デモでLED光源搭載内視鏡システム「ELUXEO」に触れた際に、画像の見やすさや操作性などについて問題がないことを確認でき、その他の装置・システムについてもよい感触を得たことから、すべてまとめて富士フイルムにお願いすることにしました。
実際に「ELUXEO」を使用した感触としては、画像が鮮明で、色合いも違和感がなく、従来と遜色なく検査が行えると実感しています。また、特殊光観察のBLIとLCIは、まだ完全には使いこなせていないのですが、ほぼすべての症例で使用しており、有用性を感じています。今後、さらに知識や症例数を増やしていく中で、BLI・LCIをもっと使いこなして、診断の精度向上を図っていきたいと考えています。
X線撮影については、開業前は経験がなかったのですが、クリニック向けX線診断システム「CALNEO Compact」「FCR PRIMA」ともに、簡便に扱うことができています。
超音波診断装置「ARIETTA 65LE LV」については、以前勤務していた総合病院で使用していた最上位クラスの装置に劣らない画質が得られていると感じています。奥にあってきれいに描出することが難しい膵臓や肝臓の深部もよく見えるので、非常に助かっています。
撮影画像を集約的に表示する、クリニック向け医用画像診断ワークステーション「C@RNACORE」も画像が見やすく、患者さんへの説明もしやすい。強いていえば、クリニック向けクラウド型電子カルテ「Hi-SEED Cloud」との連携がさらに良くなれば助かります。特に、消化器内科は多くの検査を行うため、検査に必要な書類やレポートなどがすべて電子カルテとスムーズに結びつけば、いっそう効率化が進むと思っています。
乾式臨床化学分析装置「富士ドライケムNX500」は、クリニックでも病院と同様に、血液検査の結果をその日のうちにお示ししたいと考えて導入しました。操作はスタッフに任せていますが、想像以上に結果が早く出ることに驚いています。
今後の検討課題は、AI技術を用いた内視鏡画像診断支援システムの導入です。また、胸部のX線検査については、病変の見落としが重大リスクに発展する可能性もあるため、AI技術による診断補助を活用していく必要性が高いと思っています。
人材募集・教育
アンケートをもとにスタッフの接遇向上に取り組む
開業に当たってスタッフは以前のつてで来てもらったので、特に新規募集は行いませんでした。
スタッフの教育には力を入れています。医療や病気について、また接遇についての定期的な勉強会を、自前でやったり業者に依頼してやってもらったりしています。
接遇に関していえば、最近、患者さんへのアンケートを始めたのですが、その中で「ここがよくなかった」といったご意見をいただくことがあります。スタッフの対応が悪かった部分などがあれば、しっかりフィードバックして、改善につなげるように努めています。
集患対策
日々の診療に最善を尽くして信頼関係を築くことが何より大切
近隣からの患者さんは、当院の看板や配布したチラシを見て来院する方も多いのに対して、内視鏡の検査で予約してくる若い方などは、圧倒的にウェブ経由ですね。今はインターネットの時代で、ウェブの口コミなども重要ですから、いずれはもっと情報発信もしていければと思っています。
ただ、現状ではそこまで手が回りませんし、しっかりした信頼関係さえあれば、特に宣伝をしなくても患者さんは来てくれるはずだと考えています。ですから、今は、毎日の患者さんに寄り添い最善を尽くす。そしてアンケートなどでご意見を聞き、きちんと取り入れる⸺そうしたことに注力している段階です。
院内レイアウト
開業までのスケジュール
開業経験を踏まえて
自分一人ですべての開業準備を進めていくのは不可能なので、コンサルタントなどに頼ることは必要です。しかし、任せきりでは自分の望まない形になってしまうかもしれない。そうなったら長い目で見て大きなマイナスですから、法律や経営などに理解を深めながら、自分自身が要所でしっかり決断しながら開業準備を進めていくべきだと思います。
当院は、自身の体調に少しでも気になることがあれば、気軽に立ち寄っていただけるようなクリニックを目指しています。私がこれまでに培ってきた知識や経験を最大限に生かし、上部・下部内視鏡検査を含めた地域の消化器診療全般を担うことで、地域の方々から信頼を積み重ねていきたいです。