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日本の人口は2008年に1億2808万人を数えましたが、それをピークに減少に転じ、2011年から本格的な人口減少社会に突入しています。国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月に公表した「日本の将来推計人口」によれば、2022年に1億2495万人だった我が国の総人口(在日外国人を含む)は、2045年の 1億880万人を経て、2056年には1億人を割って9965万人になるとされています。
注目すべきは、どの年代も均等に人口が減るわけではなく、15歳未満の年少人口や15〜64歳の生産年齢人口の減少が急速に進むことです(図1)。
1980年代初めに2700万人だった年少人口は、2022年の段階で既に1450万人にまで減っていますが、今後も減少が続き、2053年には1000万人を割り込む見通しです。2022年に7420万人だった生産年齢人口も、2032年には7000万人を切り、2043年には6000万人を下回ると見込まれています。
これに対し、2022年時点で3624万人に上る65歳以上の高齢者数は増加を続け、2032年には3704万人に、2043年には3953万人にまで増えると推計されています。ただし、その後は緩やかに減少していく見込みです。
(厚生労働省「第8次医療計画等に関する検討会」資料より)
人口が減っても高齢者が増えるからクリニックの経営は安泰だ──。そう考える医療関係者は少なくないかもしれません。しかし20年後には、その高齢者さえも減り始め、年少人口や生産年齢人口の急減と相まって、医療ニーズは確実に縮小に向かうでしょう。
医療ニーズの縮小傾向が顕著なのは、入院よりも外来です。医療ニーズの動向を予測した経済産業省のデータによれば、入院のピークが2040年と見込まれるのに対し、外来のピークは2025年に訪れるとされています(図2)。
とはいえ、これはあくまで全国平均の数字。実は人口減少県では、既に外来患者が減り始めています。
厚生労働省が「第8次医療計画等に関する検討会」に提出した資料には、全国の二次医療圏のうち半数以上で、外来の医療ニーズが2015年以前にピークアウトしたことが示されています(図3)。その他の二次医療圏も、大都市を除くほとんどで2030年までに外来の医療ニーズがピークを迎え、その後は外来患者の減少に見舞われる見通しです。
このことは、外来が収入の柱であるクリニックが厳しい時代を迎えることを意味します。ただでさえクリニックの数が増えているところに外来患者の減少という事情が加われば、患者獲得競争が激しくなることは論を俟ちません。地域にもよりますが、人口減少県に位置するクリニックは早めに手を打つ必要があるでしょう。
(経済産業省「将来の地域医療における保険者と企業のあり方に関する研究会」報告書より)
では、どのような手を打てばよいのでしょうか。基本は、少子高齢化やそれに伴う疾病構造の変化に応じて、求められる医療ニーズに的確に応えていくことです。
例えば、出生数の減少によって産科クリニックのニーズは減少するでしょうし、少子化により小児科専門クリニックを訪れる患者は減ると考えられます。一方で、要介護状態の高齢者が増えることから、在宅医療のニーズが増大することは間違いないでしょう。外国人患者の増加が予想される地域では、外国語対応も検討課題になり得ます。
また、先に紹介した厚生労働省の検討会資料には、悪性腫瘍や虚血性心疾患が横ばいか減少していく一方で、大腿骨骨折が大幅に増加する見通しが示されています。大腿骨骨折の治療でポイントとなるのは術後のリハビリテーションであり、病院における今後の医療ニーズが急性期から回復期・慢性期へとシフトしていくことは確実です。クリニックで提供する医療も、回復期・慢性期患者の退院後サポートの比重が高まることが予想されます。
医師にはそれぞれ専門があるため単純に当てはめられない部分はありますが、クリニックの新規開業を考えたり中長期の経営方針を策定したりする上で、地域の人口動態や疾病構造の変化は無視できません。日本の少子高齢化は、世界的にも類を見ないスピードで進んでおり、それに対応できるクリニックのあり方を検討するべき時期に差し掛かっているといえます。
(厚生労働省「第8次医療計画等に関する検討会」資料より)
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