FUJINON 4K CINELENSの製品ラインナップに新しく加わったXKシリーズは、ZKやHKシリーズの表現力を保持しながらも、驚異的な操作性を実現した製品となっている。今回は最新の撮影技術を駆使し、映像制作を行うマリモレコーズにXKシリーズの実力を評価してもらった。
最近の映像制作の撮影はもっぱら大判センサーによる「デジタルシネマ」のカメラで行うことが多くなった。一昔前まではビデオとシネマには技術的にも大きな垣根があったが、加速度的に動画機材は進歩を遂げ、誰もがボケ味のあるシネマ画質を手にできる時代になったといえるだろう。
さらに各社から発売になる新機種のカメラは4Kという高解像度のスペックを纏い、昔では想像もつかないほどの「高画質」な映像を誰でも撮影できるまでになった。そこで大切になるのがレンズだ。デジタルシネマの時代に、唯一アナログの情報を運ぶ場所になる。だから私も撮影の際はできるだけレンズにはこだわるようにしている。例えば単焦点のレンズを使う理由もそこにある。単焦点のプライムレンズ群はズームレンズでは表現できないキレ味があるという印象が強いからだ。もちろんズームレンズも現場で使うことは多いが、特に4K制作がメインになると、画質へのこだわりを単焦点レンズで形にしたいという思いは常にあった。
またPLマウントとなると、ズームレンズの選択肢も減ってしまうため、現場で使うレンズは常に数本の単焦点セットになることが多かった。
ところが今回XKレンズで撮影をして、そういった自分の中の常識が覆されてしまった。私の個人的な印象ではあるが、XKレンズはパーフェクトPLズームレンズといっていいだろう。見事に従来のPLレンズが持つ魅力をいかんなく発揮すると同時に、「完璧」なまでに高い機動性や操作性を実現したズームレンズだと実感している。
ちなみに撮影は延べ3日間行い、モデルを被写体としたXKレンズの製品プロモーション映像を制作した。
XKレンズが捉えた映像の切り抜き。その描写力は単焦点のPLレンズに匹敵する
まずはなんといっても20㎜-120㎜というズーム焦点距離が最大の特徴であるといえる。この焦点距離のレンジは、映像制作で必要とされる画角のほとんどを網羅する長さであるといっていいだろう。つまりPLマウントのレンズでありながら、「レンズ交換を必要としない」環境を手にすることができるのだ。やはり現場で求められるのは撮影効率で、少ない時間でいかに多くのカットを収録できるかというのが勝負。慎重に行わなければいけないレンズ交換によるタイムロスや、レンズ交換で生じる色味の調整も割と大変な作業といえるだろう。
ズームレンズ一本で撮影の画づくり全てが完結できるメリットは非常に大きい。今回モデルのフルフィギュア(それどころか、かなりの引きの映像も撮影した)から顔の寄りまで、ほぼほぼ全てのコンポジションを一本で作り上げることができた。
また通常の広域のズームレンズであれば、ほとんどの場合Tドロップするのが当たり前である。しかしXKレンズは20㎜-120㎜を通じてT3.5という、一貫した開放値で撮影に挑めるのだ。これには正直驚きである。しかも我々の制作現場においてT3.5という明るさはとても心強い数字でもある。決して妥協のない露出調整が行えるとなると、ただただありがたいと感じてしまうほどだ。
また作品を通じて一定した色の統一性を持たせられるというのも、レンズ一本で撮影ができる大きなメリットともいえる。
20mmの画角と120mmの画角~絞りの値が落ちることなくズームができる。
撮影監督の中には、単焦点レンズにこだわる人が多いと感じる。
特にPLマウントにおいては単焦点を使うことが当然のようになっていることもある。おそらくその大きな理由が冒頭でも触れた「画質」であるといえるだろう。ズームという機能を搭載すると、どうしても画質が甘くなるという印象を持っている人は少なくない。それはシャープさや解像感といったものがよく挙げられるが、ズームレンズは収差といったレンズ固有のゆがみなどが強く出てしまうという点も指摘されてきた。ところがXKが捉える画質は、そういった単焦点レンズと肩を並べるほど素晴らしいと言っていい。これぞFUJINONクオリティというべきか、肌の質感、シネマ特有の空気感、あらゆる角度でみてもシネマレンズの力を十二分に発揮する一本である。
特に今回は4K解像度の作品制作となったのだが、正直、編集作業をしながら見とれてしまうほどの描写力を持っていると実感している。モデルの肌や、衣装のテキスチャ、撮影舞台が醸し出す雰囲気を素晴らしいまでに映し出してくれた。
今回使用したカメラは3台。SONY PXW-FS7とRED EPIC DRAGON,そしてRED WEAPONで撮影を行った。
XKが持つイメージサークルは基本的にS35mmをカバーする大きさなので、REDを使う場合は5Kのセンサーサイズが最大になる。5Kであれば2台のREDは100fpsというハイスピード撮影が可能になるので、スローモーションの演出をメインに加えた。またFS7との相性も抜群で、DCI4Kの60pをメインに撮影を行った。ちなみにFS7のレンズマウントはEマウントとなるため、Eマウント―PLマウント変換を使いXKをカメラに装着。この場合はロッドを使ったレンズサポートをつける必要がある。いずれにせよ、撮影中、一切のレンズ交換が無いというストレスフリーな環境は素晴らしいの一言だ。
また画質も申し分なく、今までのスチルレンズを使った撮影などでは絶対に得られないクオリティを作品に込めることができたと確信している。特に色の表現力は圧倒的で、見た目以上の表現力で、奥行きのある圧巻の画像を捉えてくれた。
さらにシネマレンズとしての筐体の完成度にFUJINONのこだわりを強く感じた。フォーカス、ズーム、絞りのギアピッチは業界標準の0.8㎜を採用し、サードパーティー製のフォローフォーカスをどのギアにつけることもできる。
今回はズームの動きを画づくりの中にあえて取り入れたのだが、マニュアルならではのズームの動きを、フォローフォーカスを使って行った。またフォーカスギアのトルクも「しっかりと重く、調整しやすい」と好印象だ。粘りのあるトルクに加え、200度という広い角度でフォーカスが調整できるので、必ず狙った位置にピントを合わせることができる。筐体に刻まれた各数値も大変見やすく、カメラマンにとっても、操作性は抜群といえるだろう。間違いのない正確な操作ができるというのも現場では非常に重要視される点だ。
特に4Kなどの高解像度の映像制作では、フォーカシングは大きな論議の的ともなっている。スチルレンズでは実現のできない、より繊細なフォーカシングや微妙な絞りの設定をXKでは必ず実現することができる設計になっているのだ。筐体の堅牢性も高く、富士フイルムが培ってきた高いレンズ設計技術を各部分に見ることができる。
そしてXKには取り外しのできる駆動部がある。電動でズームなどのギアを動かすことができるサーボユニットだ。ENGのようにワンマンで肩担ぎの撮影をする際にも有効に使うことができる。ネジ4本でレンズ本体に直接つけ外しができるので、用途に合わせてスタイルを変えることが可能だ。
これは先述のFS7のようなオールマイティのカメラにはぴったりくるだろう。ドキュメンタリーやニュースといったシネマに限らない用途を想定しても、20㎜-120㎜でTドロップしないレンズはその活躍の幅をひろげていくことに違いない。ちなみに放送用のズーム・フォーカスコントローラーも使えるので、中継映像やライブ会場においてもその需要は枚挙に暇がないと言える。
そんなパーフェクトPLズームレンズのXKレンズだが、価格がかなり抑えられて設定されている。通常のPLズームレンズはとにかく高価なものが多く、レンタルでも手が出せないことがあるほどだ。もし低価格で20-120㎜という広いレンジがTドロップせずに使えるとするならば、スチルレンズを使って撮影をしている人にとっても朗報になる可能性もある。
XKレンズがそういったユーザーのファーストPLレンズとなるならば、本当に素晴らしい話だ。個人的にも、実際に3日間の撮影を終えて感じていることは、まさに「一度使ったら手放せなくなる」レンズになってしまったということだ。今までにはなかった新しい規格のPLレンズであるXKレンズ。デジタルシネマの撮影現場に新しい風を起こすことになるだろう。